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自衛官候補生の教官射殺事件について思う事

とても痛ましい事件が起きてしまいました。。。

2023年6月14日 午前9時10分ごろ、
岐阜県に所在する陸上自衛隊 日野基本射撃場で発生した
18歳の自衛官候補生による自衛官射殺事件。

これで2名の隊員が殉職、1名の隊員が重傷を負う
大惨事となってしまいました。

私も時代や部隊は違うにせよ、同じ教育を受けました。

元隊員としてもとても悲しい気持ちですし、
非常に残念でなりません。

犯行動機は、

「52歳の教官に叱られた為」

らしいですが、
これがもし本当にそうだとするなら、
この犯人自身が、そもそも自衛官として
適性を著しく欠いていたと言わざるを得ません。

いくら隊内での生活や勤務に問題がなくとも、です。

今回は、この事件があまりに衝撃だったので、
ちょっと私の思う所を、経験に基づく解説とともに
書いてみたいと思います。


①新隊員教育とは

自衛隊には様々な教育課程があり、
その内容によって厳しさも様々です。

その中でも最も

「初歩の初歩」

となるのが、新隊員教育課程となりますので、
いくら叱られたと言っても、殺意を抱くほど
隊員を徹底的に追い詰める事はあり得ません。

新隊員教育課程は、前期と後期に別れており、
前期3か月で自衛官の基礎を学び、
後期3か月で希望職種の専門技術の基礎を学びます。

今回事件があったのは前期教育なので、
これから自衛官として勤務するために必要な、
基本以前の「基礎的な事」を教育する期間です。

ここで教わる事は、全国のすべての自衛官が、
最低限、階級に関係なく

「出来て当たり前」

にならなければいけない事ばかりです。

部屋での生活から、敬礼や気を付けなどの基本教練、
駐屯地内での行動要領、基本的な戦闘訓練、基本射撃、
体力錬成、自衛官としての心構えなどの精神教育など、
訓練する内容は多岐にわたります。


②89式5.56ミリ自動小銃について

今回犯行に使われた銃器は、
陸上自衛隊が使用している、

「89式5.56ミリ自動小銃」

と呼ばれる銃器です。

この銃は、新型の20式5.56ミリ自動小銃が
既に配備された部隊を除き、全ての陸上自衛官が扱う銃で、
肩を当てるストック部分が固定式のものと、
空挺などで使用する折れ曲がり式の2タイプがあります。

使用弾薬は89式5.56ミリ普通弾で、これは米軍やNATOの
加盟各軍が使用する、5.56ミリNATO弾と共用できます。

製造は日本の豊和工業が製造している純国産小銃で、
自衛隊の国産小銃としては2代目になります。

重量は約3.5キロあり、最大で1分間に850発が発射可能です。

発射した際の銃口初速は、約920メートル毎秒、
有効射程は約500メートルとされています。


③自衛隊の屋内射撃場について

今回事件が起きた日野基本射撃場ですが、
ここはいわゆる屋内射場と呼ばれるもので、
建物の中で、的に向けて射撃をするタイプの施設です。

場所によっては屋外の開けた射場もあるのですが、
そう言う場所は周辺に民家や道路などが全くない、
広大な演習場の内部に作られます。

今回の場所については、周辺が閑静な住宅地も近いため、
屋内射場となっています。

事件現場の様な屋内射場は、壁がかなり厚く、
頑丈に作られており、万が一射撃した銃弾が壁に当たっても、
決して屋外へ飛び出さないようになっています。

発砲音も、極力漏れないように作られています。
それでも、小銃の発射音はかなり大きいため、
どうしても音は多少聞こえてしまいます。

また敷地についても、周辺民家との距離を大きく取り、
銃器による事故が起きても周辺住宅に被害が及ばない様に
配慮して作られています。

私も所属していた頃は同タイプの射場で訓練を受けました。


④銃・弾薬の管理について

自衛隊の銃管理についてですが、
これはかなり厳格で、海外ではここまでの徹底管理は
していないと聞きます。

銃自体は個人に貸与されますが、その管理は
各部隊の鍵がかけられた武器庫に格納され、
個人で部屋で管理などは有り得ません。

また武器庫内では、銃架と呼ばれる小銃が20丁ほど
立てかけられるラックがあり、ここに鍵とチェーンで
ガッチリ固定され、部隊の武器担当官の許可なく
持ち出しはできないようになっています。

それから弾薬は、訓練の都度に弾薬庫等へ
必要数ぴったりを受領に行く必要があり、
その際には受領する為の申請が必要です。

なので、個人で勝手に銃と弾薬を
一緒に持ち出すことは不可能です。

この様に、銃と弾薬を一緒に保管していない為、
自衛官が銃と弾薬を同時に持って装弾するタイミングは、
命令に従っている限り、射撃訓練で射撃場に到着し、
実際に自分が射撃する番になるまで訪れません。


⑤新隊員の射撃訓練について

今回事件が起きたのは、新隊員前期課程の射撃訓練です。

この訓練は、基本的な射撃の方法を学ぶ為に行われます。

姿勢としてはうつぶせで撃つ「寝撃ち」、
座って撃つ「膝撃ち」の2パターンになると思います。

これはごくごく初歩の射撃を学ぶための訓練で、
自衛官にとっては必要最低限の訓練のひとつです。

実際に撃つ射手、それを補佐するコーチ、
そして銃や射手の状況を確認する安全係や射撃係、
弾薬受け渡しをする弾薬係、全体を統制する
統制官などで構成され、射手の射撃を訓練します。

犯人の候補生は恐らく、この訓練で実弾を撃つ機会を
狙っていたのでしょう。

また、ニュースによると自分の番を待っている時に、
勝手に装弾して発砲に至ったようです。

つまり犯人は射座(射撃する場所)にいたのではなく、
その後ろに弾薬と銃を持って待っていた時に、
勝手に弾を込め、発射したことになります。

この弾を込めた時点で、すでに重大な命令違反です。

なぜこの弾を込める時点で、周囲が止められなかったのか。
そこで止められていれば、2名殉職は免れたかもしれません。

基本的に安全係・射撃係などは、射座にいる隊員に目が向き、
背後で待機している隊員には注意が向きません。

まさか、待機している隊員が勝手に装弾して、
発砲するなどとは夢にも思わなかったでしょう。

なので、今回の事件を受けて、
今後は順番待ちで待機している隊員を監視する係も
必要になると思います。


最後に

今回は、とんでもない重大な事件が起きてしまいました。

私がこの犯人に対し思う事は、

「前期教育程度の厳しさに耐えられないなら最初から入るな」

です。

教官に叱られたことに対する逆恨みの様ですが、
教官や助教が厳しいのは、ちゃんと理由があります。

自衛隊の本来の任務は国土防衛であり、
国民の生命と財産を守る事です。

万が一戦う事になれば、戦場は理不尽な事しか存在しません。
それも一般社会での理不尽とは比べ物にならないほどです。

罪もない人が、何の恨みもない人に一方的に撃たれ、
刺され、殺される
のです。

そして自分自身も、個人的には何の恨みもない敵を
射殺しなければ、自分が殺されます。

また、戦場ではご遺体が山ほどある中を自衛官は前進して
戦わねばなりません。

災害派遣だってそうです。

被災した多くの罪もない人々のご遺体を前にして、
救助作業や復興作業に従事しなければなりません。

そんな状況下で、生きて帰れるようにするため、
死なないため
にあえて厳しく叱ったり、
きつい訓練を課したりします。

つまり、自衛官の訓練と言うのは、
広い意味で考えた時、

「理不尽に耐える為の訓練」

なのです。

よく、この時代にまだそんな精神論的な訓練してるなんて
などという一部マニアが居ますが。。。

それは戦場を学んでいないから言えることだと思います。

自衛官は、確かに本物の戦場を経験した事は有りません。

しかし、座学や歴史だけではなく、米軍との共同訓練などで、
模擬的ではありますが、実際の戦場に近いものを訓練で
経験しています。

実際の戦場は、ハイテクやITだけで、
無人で完結できるような奇麗なものではありません。

そう言う事を言うのであれば、
実際にアメリカの傭兵学校などで良いので、
戦場を訓練でも経験する事をお勧めします。

そのくらい泥臭く、血生臭いのが戦場であり、
そこで少しでも生存率を上げる為、
生き残れるようにするために厳しい訓練をしたり、
きつく叱ります。

そうしなければ、自分だけでなく
仲間を死に追いやる可能性もあります。

そんな重要な訓練の初期の段階で耐えられず、
厳しく叱られただけで教官を射殺するような者は、
自衛官として失格ですし、そんな人には、
国民たった1人さえも守る事は出来ないと思います。

そして、銃など持つ資格もないし、
最初から自衛隊など入るべきではなかったと考えます。

私としては、厳正で重い処罰が下る事を期待しています。

個人的な逆恨みでおこなった事が、どれだけ大きく
国民の信頼と期待を裏切ったか。

また、それがどれだけ重大な事か、
しっかりと自覚してもらいたいと思います。

今回の件で、様々なところや人に影響が出ると思われます。

犯人には、やった事の重大性をしっかりと理解し、
猛省し、甘んじて法に基づく厳正な処罰を
受けてもらいたいと思います。

私は自衛隊経験者として、この犯人には、
1ミリも同情の余地はないと考えます。

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