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虎に翼のリリーバー

プロ野球選手には、さまざまな役割がある。投手であったり、野手であったり。さらには、先発投手や捕手、内野手など。そんな多種多様な役割の中でも、リリーフ投手という役割はあまり表に出ることが少ない。今回は、そんなリリーフについて書いてみたい。

 リリーフの仕事は大変だ。守護神など一部の選手以外は基本的にいつ出番が来るかわからないし、準備をしていても結局出番がないなんてことも日常的にある。しかも、先発投手と比べると1点を争う場面での登板が多い。たった1球のミスが敗戦に直結することも珍しくないし、成功することを前提に考えられる。それほど難しいのにあまり目立たないのだから本当に過酷な役割だが、このリリーフというポジションは、様々な特徴を持った選手たちによって構成される、実に興味深い仕事場なのである。

プロ野球では、先発投手やレギュラー野手といったいわゆる花形的なポジションは、なんだかんだといって、ドラフト上位で入ってくるような期待の大きい選手たちが多い。一方でリリーフは、ドラフトでも下位で入った選手や先発から転向した選手、トレードで加入した選手、さらには戦力外通告を経験したような選手まで、とにかく色んな経歴を持つ選手が集まりやすい。実際に、現在(6月末時点)の阪神のリリーフを見ると、守護神を務める岩崎はドラフト6位入団、セットアッパーの湯浅も独立リーグを経てのドラフト6位である。浜地は矢野監督の初年度には開幕ローテ入りするなど当初は先発していたし、岩貞も先発として2ケタ勝ったこともある。またアルカンタラも韓国では20勝を挙げた先発だった。そんな色々な投手が集まる虎のブルペンだが、さらに注目すべき2人の投手がいる。

 加治屋蓮と渡邉雄大。ともにソフトバンクホークスを戦力外となって阪神にやってきたという経歴を持つ投手。年齢も今年で31歳と同じ(阪神では岩崎、梅野らと同世代)と、共通点は多い。一方で、彼らには相違点も数多く存在する。
加治屋は九州に生まれ九州で育ち、そしてソフトバンクにドラフト1位で入団したというエリートだ。長身から右腕を振り下ろすように球を投じ、150㎞/hを超える直球に鋭く曲がるスプリットとカットボール、そして意表を突くカーブで特に右打者にはめっぽう強い。その力強い投球で、2018年にはセットアッパーとして72試合に登板し、チームの日本一に貢献した。そんな加治屋には、もう一つ特徴がある。それは、顔がかなり濃い目なこと。背の高さも相まって外国人に見えることもあるほどで、ソフトバンク時代には当時チームメイトだったロベルト・スアレスに似ていると言われていたとか。奇しくも後に2人とも阪神に移籍している点も面白い。防御率1点台の圧倒的な投球で虎のブルペンを支えたスアレスだったが、今季の加治屋も7月時点で防御率は1点台。似ているのは、もはや顔だけではないようだ。
一方の渡邉は、エリートとはかけ離れた野球人生を送ってきた。大学時代にはオリックスのラオウこと杉本やロッテの東條らと同期だったが、渡邉は一度も公式戦のマウンドに上がることはできなかった。その後、BCリーグの新潟アルビレックスに入団し、4年間を経て、26歳の時についにドラフト指名を受けた。その順位は育成6位。層の厚いソフトバンクにおいてかなり厳しいスタートとなったが、渡邉は長身を沈み込ませて左腕をサイドから繰り出す独特なフォームと大きく曲がるスライダーを武器に二軍で毎年防御率1点台を残す好投を続け、支配下契約と一軍登板を勝ち取った。そんな渡邉にも、もう一つの特徴がある。それは、雰囲気があまりにもベテランすぎるということ。まだ決してベテランと呼ばれる年齢ではないはずなのだが、投球スタイルも見た目も話しぶりも、ベテランのそれにしか見えない。そんなところから、「なべじい」というあだ名もついているほどだ。
そんな2人は、今や阪神のリリーフには欠かせない存在となっている。右打者に強い加治屋と、左打者に強い渡邉。矢野監督は彼らの特徴を活かした継投をしており、イニング途中でも、相手打者の左右によって加治屋と渡邉をスイッチするケースが増えてきている。特に6月は、加治屋と渡邉でリレーされた試合が5試合もあった。仮にどちらか一方がピンチを招いてしまっても、もう一方がしっかりと火消しする。そういった助け合いが生まれてきている。順位の浮上を目指して奮闘するブルペンにあって、彼ら2人は、鷹から与えられた2枚の翼のような存在だ。

今季の阪神は、開幕から大型連敗を繰り返すなど、なかなか波に乗れていない。そんな中でも、リリーフ陣は好投を続けている。昨季の阪神は12球団最多の77勝を収めた。地力を持っている虎に翼が2枚も備われば、きっと浮上できるはずだ。最後に、渡邉が今季30歳にしてプロ初勝利を掴んだ際のお立ち台でのセリフを引用して締めたい。「僕が30歳で初勝利したように、阪神がここから巻き返して優勝というのも、決して無理ではないと思う」。

カバー画像提供:せんり(@1000ry_)さん

 

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