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去る両雄へ

2022年シーズンをもって引退することを表明した福留孝介、糸井嘉男の両選手。複数球団を渡り歩き、走攻守揃った名外野手との呼び声高かった2人は、ともに36歳シーズンに縦縞に袖を通した。性格や振る舞いは違えど、貴重なベテランとして、もちろん戦力としても長く阪神に貢献した2人に、勝手ながらも、感謝を伝えたい。

嘉男たまらん(@Y_ITI_7)さんより
米虎(@kome_tigers02)さんより

福留は、2013年シーズンから阪神に加入した。中日で日本を代表する打者となり、MLBでも活躍した男の新加入は、同じく新加入の西岡剛、大物新人の藤浪晋太郎とともに、前年5位に沈み、支柱でもあった金本らの引退で変わりゆくチームの新たな風と期待された。しかしそのスタートは、いきなり活躍した西岡や藤浪とは対照的に、厳しいものだった。
久々のNPBでのプレーとなった福留は、環境への対応に苦しんだ。開幕からずっと低空飛行で打率は常に1割台。足を閉じて静かにタイミングを取る昔からの打撃フォームで戦っていたが、昔のような打撃は一向に戻らない。それでも出続ける大ベテランに、ファンは容赦なく失望の声を投げた。結局、復帰初年度は打率.198で終わった。

米虎(@kome_tigers02)さんより

翌2014年は、開幕早々に打球処理で西岡と衝突するという大事故があった。体に痛みを抱えながらプレーした福留だったが、やはりこの年もなかなか調子が上がらない。夏を迎える頃には、福留の姿は一軍からは消えていた。
しかし、福留は死んではいなかった。バットを揺らしタイミングをやや大きく取るようになり、貫いてきたフルスイングからコンパクトなスイングを心がえるように変更。37歳を迎えても、かつての栄光を捨てて新境地を拓くその姿を、神様は見捨てなかった。2014年7月22日の巨人戦。同点の延長12回裏、二死走者なし。誰もがこのまま引き分けだと思った状況で、福留は剛腕リリーフであるマシソンの速球を振り抜いた。その打球はライトポールに直撃した。1ボールとなった状況、そして浜風が試合を追うにつれて弱まっていたことを頭に入れた、大ベテランらしい読みの冴えた一撃であった。ここから、「大きなタイミングの取り方で狙いを絞ってコンパクトに振り抜く」福留として生き返ったのだった。それからの福留は、2014CS1stで唯一の得点となる決勝ホームラン、サイクルヒット、2019CS9回2アウトからの同点弾、5月5日セリーグ通算5万号のサヨナラアーチなど、挙げればキリのないほどの印象に残る一打を生み出していった。
阪神では4本のサヨナラホームランを放った福留。その本数は、阪神時代の金本より多かった。何度も何度も、鋭い読みでチームの窮地を救ってきた。阪神時代の応援歌の歌詞にはこうある。「唸るスイング 切り裂くアーチ 吼えろ孝介 勝負を決めろ」。その歌詞通りの活躍と、高く右腕を突き上げ吼えるその勇姿を、忘れることはない。

ぴぐ(@torakusa11)さんより
Scorer(@Scorer61529543)さんより

まさかこの男が縦縞に袖を通すだなんて、かつては思いもしなかった。日本を代表する走攻守三拍子揃ったスタープレイヤー、糸井嘉男。鍛え上げられた肉体から放たれる強烈な打球、精密な選球眼、俊足を活かした守備、元投手の肩から放つレーザービーム、大きなストライドで走る盗塁、そして何よりド天然で数々の伝説を築いた愛される外野手だ。日本ハムに投手として入団し野手転向、そこから世紀のトレードを経てオリックスに移籍し、FAで阪神にやってきた。後に巨人を断り阪神に決めたと明かされる移籍劇だが、この男の入団をファンは大歓迎した。
糸井の縦縞デビューは広島だった。マツダスタジアムで迎えた2017年の開幕戦でいきなり3安打3打点の活躍。その後も安定した活躍でチームを引っ張った。そして何より印象的なのが、2017年8月30日のヤクルト戦。同点で迎えた延長10回裏、対するは元同僚でもあった近藤。僅か3球で追い込まれたが、なんとか食らいつき、迎えた5球目。外寄りに投げ込まれたストレートを完璧に捉えた糸井はバットを放り投げた。打球は深い右中間スタンドに突き刺さるサヨナラホームラン。実は、糸井のサヨナラ弾は現時点でこの一本のみ。この一打で、阪神は一時的に自力優勝を復活させたのだった。

とびたつばさ(@tobitsuba62)さんより


糸井は阪神に加入して3年間、打率3割前後の成績をマーク。その後は徐々に下降したが、ずっと戦力であり続けた。古傷となっていた膝の痛みと戦いながら、かつては得意であった守備走塁では歯を食いしばるようになっても、ひとたび打席に立てば結果を残し続けた。迫り来る衰えを、痛みを、鬼気迫るようなトレーニングで乗り越え、安定した結果を残し続けた姿はまさに超人であった。
最晩年は代打としての出場が増えた。慣れない仕事に取り組む上で、10も年下の原口の姿を参考にしていたという。必死に鏡の前でバットを振って出番に備えた。それでも、最後まで代打としてはあまり活躍することはできなかった。守れなくなっても走れなくなっても、糸井は最後まで走攻守全てをこなしてこその5ツールプレイヤーだった。最後の最後まで力の限り戦った超人は、次のステージへと羽ばたいていく。

るんちゃん(@tigers726)さんより
マルテラブ(@t1fjOL5CvXWnWY5)さんより

福留と糸井の阪神への貢献の大きさは計り知れない。長年クリーンナップを務め、外野を守った2人は、今に繋がる財産を数多く残してきた。

2019年の開幕スタメン(2〜5番)

糸井と福留に挟まれて4番を務めていた大山は、今やリーグ屈指の強打者へと成長した。糸井と福留に挟まれてセンターを守っていた近本は、今やリーグ屈指の外野手へと成長した。どんなときでも視野を広く保ち、チームのため時には厳しさを持って接した福留と、若手ばかりになり仲間の多くが10個以上年の離れた存在になっても、若手に交じってともにチームを盛り上げた糸井。2人のある意味対極な、でも彼ららしい“ベテランらしさ“は、チームにとって必要不可欠なものだった。2人の存在そのものは今年限りで完全に消えてしまうが、2人の残したものは先に挙げた大山や近本を筆頭に、これからもずっと在り続けるだろう。そして引き継ぐ彼らが、今度こそ、頂点へと辿り着いてくれることをファンとして切に願っている。もう二度と、「〇〇がいるうちに優勝したかった」なんてセリフを言うことがないように。

最後になりますが、福留、糸井両選手、本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。このnoteを書くにあたって写真を提供してくださった皆様、そしてここまで読んでくださった皆様もありがとうございました。あと少し、頂いた写真を載せたいと思います。ぜひ最後までご覧いただけると嬉しいです。

とびたつばさ(@tobitsuba62)さんより
とびたつばさ(@tobitsuba62)さんより
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