四不像の黄昏。
皆さん、おはこんばんにちは。今回は、とあるシカ科の動物についてのちょっとしたお話です。是非最後までお付き合いください。
1.ゾウの仲間…、ではない。
皆さんは、シフゾウという動物の名を聞いたことはあるでしょうか。ゾウと名前にあるから、きっとアジアゾウやサバンナゾウの仲間なんだろうな…、と思われる方も多分いるかもしれません。しかしながら、シフゾウのゾウは「象」ではなく「像」なのです。
そして、漢字でフルで書くと、「四不像」。頭はウマ、四肢はウシ、角はシカ、尾(または胴)はロバと4種の動物に似た特徴を有していながら、そのどれでもない者、という意味が込められています。
だけど、分類上はシカ科に分類される、立派なシカの一種。知れば知るほど不思議な動物です。
2.国内のシフゾウ事情。
さてさて、そんなシフゾウですが、国内の3ヶ所で見ることができます。順に簡単に紹介していきます。
2-1.多摩動物公園の場合。
東京都の西部、日野市の丘陵地にある多摩動物公園。広大な敷地を誇る多摩動物公園の一角に、シフゾウはいます。
46年前に初めての繁殖に成功して以降、幾度となく繁殖に成功していますが、現在は多摩生まれのオス、アオバ1頭しかいません。今年で17歳を迎えるアオバ。寿命が20年程度なので、充分高齢の域に入っています。
2-2.安佐動物公園の場合。
広島市の北部、安佐北区の山中に位置する安佐動物公園。その一番西、長い坂を上がった頂上あたりにシフゾウはいます。
オスのアスカ、御年15歳。アオバと同様、かつてはメス個体と一緒に暮らしていたことがありましたが、現在は1頭暮らしです。
2-3.熊本市動植物園の場合。
熊本市の東部、江津湖という大きな湖沼のほとりにある、熊本市動植物園。その一角、草食獣の住居が連なる中にシフゾウはいます。
オスのチョッパーとメスのアリサの2頭がいますが、アリサは現時点で国内にいる唯一のメスです。
しかし、チョッパーは御年11歳に対し、アリサは御年20歳とその生涯の終わりをいつ迎えてもおかしくない年齢。今のままだと、繁殖の可能性はほぼないといってもおかしくはありません。
3.野生と飼育、それぞれの受難。
先程、国内にいる4頭を軽く紹介していきましたが、実は種としては何かと苦難の歴史を抱えています。
3-1.種としての受難。
かつては中国の湿地帯に広く生息していたとされるシフゾウ。19世紀半ばに欧州人によって「発見」される以前から野生下からは既に滅び去り、皇帝専用の狩場にしかいなくなっていました。
発見された後も、中国国内での政情不安や災害によって滅亡に追いやられました。しかし、滅亡する以前にヨーロッパに送られていた個体がいたために完全なる滅亡を免れ、後に中国に里帰りしています。それでも、完全な復活までの道のりは長いままです。
3-2.日本の飼育下での受難。
日本では、明治時代に上野動物園に1ペアが贈られたのが最初で、子供も生まれましたが、その後一度は絶えています。
戦後に再び輸入され、全国数箇所の動物園で飼育繁殖が進められていきました。ところが、21世紀に入ると、徐々にその数を減らしていきます。
主に感染症的な理由から偶蹄類の輸入が厳しくなったり、国内の野生ニホンジカとの交雑防止のために特定外来生物に指定されたこと等により、新規導入の大きな壁になりました。
CITES=ワシントン条約では附属書Ⅰと商取引が原則禁止になっているほどそもそも輸入が困難であることも、その壁をさらに高くしています。
そして、今は年かさの4頭だけ。国内から消え去る時が近づきつつあるのです。
4.終わりに。
一度は野生では絶滅した貴重な動物であるにもかかわらず、特定外来生物としての側面も有す。そのような、本来ならば両立し得ないであろう性質を同時に持つ稀有な動物の1つ。それがシフゾウなのです。
多摩では計画的な繁殖を特に進めるズーストック種から外され、今後飼育が続いて行くかは不透明です。また、安佐や熊本ではリニューアル計画では継続の方針を取っていますが、この先どうなるのかはわかりません。
近いうちに国内では見られなくなるかもしれないシフゾウ。4頭がまだ生きているうちに、会いに行ってみてはいかがですか。
今回は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。