演劇という不要不急な三密濃厚接触を行う為に今俺に出来ること。


■死にかけた演劇、静かに息をする。

ことの始まりはコロナウイルスだ。
もともと予定していた年間計画に、次世代の俳優育成の為にワークショップを開催することが含まれていた。

丁度、というかたまたま一月の興行で足を負傷し自身がステージに立てない事もあり後進の育成、次世代戦力の育成の為の演劇ワークショップを開催する予定がコロナ禍真っ最中にあった。

緊急事態宣言を受け、全国的なステイホーム。
スタートを予定していた五月から大きく遅れ、緊急事態宣言明け、本格的に稽古をスタートした。

意識をしてはいたものの、この頃はまだマスク、ソーシャルディスタンスの徹底、消毒など所謂一般的な対策を教科書通りに行っていた。

但し、世界観を確保するため、演者のマスクは外す。
そのかわり、スタッフ、その他出演者はマスク装着の徹底。広くて、換気が行える稽古場を確保した。

出演者スタッフの協力もあり、幸い、大きな体調不良者もなくなんとか進んでいた。

このまま、行けたらいいなーと思いながらも収容人数を劇場と協議の上、ギリギリまで減らしてチケット予約をスタート。
ありがたいことに好評を博し、七月に入る頃には完売が相次いだ。本当にありがたかった。

周囲の演劇も少しずつ復活し、無観客ではなく、しっかり対策を行った上で上演の知らせ、告知を多くみた。勇気をもらっていた。

■青天の霹靂。舞台クラスター
衝撃の事態である。
舞台公演でコロナウイルスのクラスターが発生したとの報告だった。

最初は友人からの言葉で知り、調べれば調べるほど頭を抱えたくなるような状況だった。

正直なところ、やってくれたなぁという思いが先行するし、感情的にもなる。

あっという間に周囲は興行中止の嵐である。
本番を一週間後に控えた状態で決断を迫られることになるとは思わなかった。

お金をかけて対策をすることで公演実施が行えそうならしよう、という決断に至りました。

勿論、お金をかけても安全を担保して感染リスクをゼロにすることはきっとできない。

一般的なものも含めた対策としては

・スタッフ、出演者の検温記録の徹底。
(本番10日前からの記録実施。自宅出発前→稽古場)
・団体内での公演実施のボーダーの設定↓
・出演者及びスタッフに感染者が出た場合、速やかに公演中止の協議、及び、お知らせ行う。
・出演者及び、スタッフの濃厚接触者に感染者、感染の疑いのある場合。該当の出演者・スタッフが急遽交代する可能性の告知。

幸い僕も、当日受付をする予定の人間も出演もスタッフワークのローテも行える団体のメンバーなのでいつどのセクションへの移動があっても対応が出来る。
その際の空いたセクションについては出演者も含めて協力すれば補えそうだ。
お手伝いをお願いする可能性がある人にも検温記録をお願いした。もう直前すぎて正直訳が分からなくなった。

■暗中模索!対策会議
有識者なんていない状態で劇場さん、永島、団体メンバーでの対策会議所が行われました。
幸い前日に内科の医療従事者の友人にコロナだけではなく、一般的な感染症対策についてのアドバイス、すり合わせを行うことができた。
現場の経験のある方のアドバイスは、これならこう、こうならこうするのはどうだろうか?と質疑がお互いに飛び交うクリエイティブな時間だった。
以下箇条書き。多分大事。

★来場前
・客席を本番想定で配置して、客席と舞台面に人員を配置。様子を動画で公開。(実際の状況を見て、最終的な来場判断をお客様に委ねる)
・来場しないを選択した場合、通常のキャンセルの他に、役者に現金でのフィードバックのあるメッセージカードつき応援チケットへの切り替えを特別に行えるようにする。(これで首が繋がった感はある。)
※応援チケット自体は導入していたが、タイミング的に締切後だったため。
・同行者氏名、住所などを聴取。
※出演者経由のものは出演者に。チケットフォーム予約のものは一斉メールなどを利用して。
・開場前に会場内の徹底的な除菌。

★入場時
・全スタッフにゴム手袋、フェイスガード支給。
・入り口で検温実施。氏名を伺い、事前にリスト化されているものに温度のみ記入。
・手指のアルコール除菌。
・除菌効果のあるファブリーズで衣服の除菌。
・手、指のアルコール。
・金銭の授受はトレーの上で。紙チケット、アンケート、お客様は劇場から持ち帰るものは一切なし。
・差入のお断り。
・お手紙は許可した。悩んだ。
・お手洗い使用後もアルコール除菌。
・開演前に観客全員にフェイスガード着装。
・24H換気扇フル稼働。

★退場時
・ドリンク提供のある劇場だったが、経口摂取による感染リスクを避ける為に終演後お土産形式で提供。
・フェイスガードはビニール袋に戻していただき、使い捨てにするため座席に置いておいて頂く。
・カーテンコールにて、体調に異変があった際は扱いの役者か団体への連絡をお願い。
・退場は密を避ける為に前列から順番に。
・お急ぎの方は自己申告してもらい、先にご退場頂く。
・出口で再度手指と衣服の除菌。
・フェイスガードをゴミ袋に纏めてゴミ置き場へ。
・会場内の除菌。

★終演後
全お客様へのご様子伺いのメール連絡。
千秋楽からお返事などでの報告のないまま二週間経過のため新規感染者などは当公演では出なかったと判断し、終演とした。

■おわってみて
異様に神経をすり減らしていたのか直後10月に予定されていた公演は残念ながら延期の決断をした。
この状態で、この取り組みを継続したまま公演を連続して打つ体力は団体にはなかった。

フェイスガードを使い捨てしたり、席数を予定より大きく減らしたり、金銭的なダメージも大きかった。

そうでもしないと怖くて公演が打てなかった。
というのが正直な感想だ。

興業的な意味合いで言うとあまりに満身創痍で、胸を張って成功だったとは言い難いところがあると思う。

だけど、これだけ騒がれて劇場が悪い、演劇が悪みたいに言われてしまうのは寂しいし悔しい。

だからちゃんとやれば大丈夫なんだ!っていうものを証明したかった。

僕の諸先輩方も大きい劇場で演劇を再開してる。
稽古場で陽性が出て中止になった公演も、実際にかかってしまった友人も出始めたりしてる。

何度だって言うけど何かを怖いと感じた時、なにが怖いのかを考えないと家から出ない。
みたいな極端な選択肢しかなくなってしまう。

なにが怖い?

それは対策できる怖さ?

こうしたら怖くない?

これはどうにもならないね。

とか、少し冷静になって対策を考えることで解決することも沢山ある。

そういえば舞台刀剣乱舞では役者がマウスシールドをつけて公演していた。
超カッコいいと思った。それを受け入れるお客様も、カッコいいと思った。

安心してみれる、と言う点では我々もやってもよかったのかもしれないとすら思った。

あれだけの人が足を運んで、僕らの規模でも演劇を見ようと言う気持ちで足を運んでくださったお客様が100人近くいらっしゃった。

冒頭で不要不急な三密濃厚接触って書いたけどさ。
もしかしたら違うかもしれません。

不要不急ってそれぞれのものさしだから俺たちに取っては要急なんだよな。

必要ない人には不要不急でいいんだと思う。

だから演劇を一括りにしないでほしい。
面白いものもつまんないものもある世界だし、信じるもの団体によって様々なんだ。

俺は普段会社員なのでこれを書いてる電車は密だよ。いろんなところが密。

そのいろんなところに劇場とかライブハウスも含まれてた。今までは。

舞台クラスターなんて地獄みたいなもんもあったけどあれは全てに落ち度が多い気がした。あれも小劇場の演劇かもしれないけど、全部がああじゃないから。

やらない選択ではなくてやる選択をしたからには対策して対策してしまくってやるしかない。

今周りではそういう仲間たちが沢山出てきた。
俺たちも次回の2月に向けて少しずつ対策を考えながら進めていければと思ってる。

また演劇がしっかり息ができるようになるように。

今やるのであれば、対策に対策を重ねてしっかりと。

演劇、楽しいんだぜ。
また、やりたいな。


High-Card 代表 永島真之介

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