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Web小説界隈の「スコッパー」という存在について日本で一番詳しい記事


はじめに

皆さんはタイトルを見て、「スコッパー」という単語にどのような感想を抱かれましたか?「あーはいはい、スコッパーね」なのか「スコッパーって何?」なのか。この記事ではそのどちらの読者にも満足していただけるよう私の過去数年間の知見を余すことなくお伝えしたいと思います。

もちろん、その結果として読みにくい記事になってはいけませんので、しっかりと自制していく所存です。安心して読み進めてください。

スコッパーとは何か?

「スコッパー」という単語自体は、「作品を発掘する人」のことである。その元となる「スコップ」は英語かと思いきやオランダ語。綴りで表すと「schop」であるからして、「〜する人」を表現するにあたって単語の語尾に「-er」をつけたと思われる。一応オランダ語であっても、「bake(パン)」に「-er」をつけて「bakker(パン職人)」などと表現しているのでアリな気がする。

その源流を辿ると、もはや知っている人も少なくなった掲示板「2ちゃんねる」に行き着く。具体的には2003年ごろの「エヴァ板の最低SSスレ」が発祥とされる。これはX(旧Twitter)上の当時を知る方の証言と、それを元にしたニコニコ大百科SS用語一覧の「スコップ」の項の説明を根拠としている。今の「スコッパー」を知る人間からすると驚くべきことに、初出の頃の「スコッパー」はネガティブな意味を含む言葉であった。「特定の条件に合致したクオリティの低い作品を掘り起こして晒す人々」。それが初代のスコッパーたちであったようだ。

そしてその後、何らかの形でウェブ小説界隈にも伝播していった。

伝播していく中で、あるいは時の流れに揉まれる中で、毒気が抜かれていき、遅くとも2013年ごろには現在使われいるのとほぼ同じ意、すなわち「埋もれた良作を探して読む人」を表すようになっていたと考えられる。これはオススメのウェブ小説を紹介するニュースメディア「スコッパー速報(現:スコ速)」の開設が2013年1月であることを根拠とする。

ただ最近は、少し意味の拡張が見られるようになっており、最大手の「小説家になろう」を運営するヒナプロジェクトの取締役 平井幸氏は、2023年のインタビューにて「スコッパー」は「ランキングに入らない埋もれてしまった良作を発掘したり、個人的なオススメ作品を紹介したりしているweb小説好きなインフルエンサー」と述べている。

さらに、2024年のヒナプロジェクト主催の「小説家になろう20周年イベント」で行われたクイズにおいても「なろうで過去の埋もれてる作品を掘り起こして広める人をなんというか?」という問題が出題され、正解は「スコッパーである」と紹介されているので、ヒナプロジェクトの公式見解としては「作品を広める」こともその意味に含まれると言える。

なお、「小説家になろう」の競合である「カクヨム」では、2023年のコンテスト(カクコン9)から、読者向けに「スコッパー賞」を新設している。にもかかわらず「スコッパー」という言葉の意については全く説明がなかったことから、運営としては「ウェブ小説界隈では一定普及した言葉」とみなしていた可能性がある。

スコッパーの価値は?

スコッパーの活動は、一般の読者や作者の目に触れにくい。このため、いきなり自分の作品のPVが爆増したことでランキングに載ったことに気づき、そこからスコッパーがどこかで作品を紹介してくれたのだと結論づけるケースがほとんどではないだろうか。

それでもスコッパーたちの実績には、『薬屋のひとりごと』や『君の膵臓を食べたい』のような超ビッグタイトルが含まれることは公に認められている。これは前者が作者のXのポスト、後者が「本の雑誌」でのインタビューにて明らかにされている。

そのほか、過去に私がエッセイで取り上げた『魔女と傭兵』や『泡沫に神は微睡む』といった商業作品も、5ちゃんねるやスコ速に住まう無名のスコッパーたちの手によって日の目を見たと言って良いだろう。挙げれば際限がなくなるのでここまでにしておくが、このように商業化した後に爆発的に人気となった作品といえど、必ずしも小説投稿サイトに掲載すれば自然と評価されるわけではない。なぜなら、人気を得るためにはランキングに入ることが必要であり、そのランキングに入るためにはその投稿サイトのある種の「お約束」に沿った作品づくりが求められてしまうからである。この作法を逸脱した作品であればあるほど、例え内容が素晴らしくても機会損失が生まれ、読んでもらうという最初のハードルを越えられない。

しかしスコッパーはそのようなお作法に則っているかどうかに依らず、タイトルやあらすじ、作品のタグなどを手がかりに、自分好みの作品かどうかを見抜き読んでくれる。そして読むだけに止まらず、5ちゃんねるの文芸サロン板やスコ速、あるいはブログなどで作品を紹介してくれる場合もある。その紹介の結果として、まとまった読者が読みにきて、(小説家になろうならば)まとまった数のブクマと評価が入り、ランキングに進出するのである。

そのような働きを理解すれば、自ずとスコッパーの価値も定まるだろう。少なくとも私は、作品がひしめく大手の小説投稿サイトであるなら間違いなく不可欠な存在だと考える。

有名スコッパーの影響力は如何ほど?

スコッパーは、小説投稿サイト最大手の「小説家になろう」に最も多く生息している。「小説家になろう」のランキングの仕組みは、前回の集計時から24時間以内に入ったブクマの数(1つ2pt)と星評価(星1つで2pt。最大は星5の10pt)から算出されたポイントの合算で決まるため、他の小説投稿サイトに比べて「スコッパー」がオススメ作品を紹介することによる影響を受けやすい。

そんな「小説家になろう」のスコッパーとして有名なのは「ひょろ」というニックネーム(以下ひょろさんと呼ぶ)で知られた方であろう。

ひょろさんは、2017年から活動を開始していて、読んだ作品のうち良作だと思ったものは、自身のエッセイ「読み専が紹介する『なろうお気に入り作品』」で毎週紹介している(2024年4月をもって連載休止)。このエッセイは、「小説家になろう」のエッセイ部門において圧倒的No.1のポイント数を誇り、多くの読者から支持されている。当然そのエッセイで作品を紹介しようものなら、それを経由して多くの読者が流れ込む。記事更新から24時間の間にブクマが100を超えることも珍しくない。「小説家になろう」において、多くの作家が目標とする「総合日間ランキング」掲載(300位)のボーダーは120pt程度であるから、ここで紹介されることはランキングへの掲載を約束されたも同然と言える。

この他に有名なスコッパーとしては、FC2が運営するブログプラットフォームで個人ブログを公開しているまろでぃさん縛種桃源郷さんが挙げられる。まろでぃさんの運営するブログは毎日800を超えるアクセス(2025年1月時点)がある。2021年ごろは1500ほどだった記憶があるので、その頃に比べると勢いが弱まってはいるものの、それでもなおこの方の紹介によりランキングに進出した作品は多く、ひょろさんと同じくブクマが100を超えることもある。縛種桃源郷さんのブログはアクセス数は不明だが、期待効果はほぼ同じである。ちなみにFC2ブログで活動されている方々は、「小説家になろう」のみならず「ハーメルン」や「カクヨム」や「やる夫スレ」の作品も紹介対象である。

カクヨム専門のスコッパーとしては、「朱音ゆうひ」さんがおそらく有名であろう。朱音ゆうひさんはカクヨム主催のコンテストで新設されたスコッパー賞の最初の受賞者であり、その次の年の同コンテストでは特別審査員を務めている

カクヨムのランキング入りの仕組みが複雑なこともあり、ゆうひさんが作品を紹介した時の影響については、先に紹介した「小説家になろう」関連のスコッパーの方々ほど明白とは言えないものの、作品が埋もれて読まれないとお悩みの作者さんにとっては大きな助けとなっている。また、読書家でありながら作家としても活躍されており、最近は「スコッパー」の活動を物語に取り入れた『ヤングケアラーな姉ですが、弟の担当医に溺愛されて幸せになります! 〜スコッパー女子の推し活は恋の始まり〜』という商業作品を発表されている点で、スコッパーの中ではかなりユニークな存在と言えるだろう。

スコッパーになることで得られるものは?

良作を掘って読むだけなら、正直得られるものは少ない。というのも、それが良作だと知っているのは自分と僅かな読者のみだから、その先の発展は見込めない。何なら不人気ゆえに作者さんのモチベーションが底を尽き、連載休止になる恐れさえある。

ゆえに、スコッパーは仲間を増やしたい。

そういった動機で、おそらくスコッパーは馴れない紹介活動に手を染める。スコッパーが集まりそうな場所で作品名を挙げてコメントを残すのである。

運良く何人かのスコッパーの目にとまると、彼らもすぐ読んでくれ、本当に面白ければフィードバックをくれたりする。「ナイススコップ」。スコッパーが集まるアングラなコミュニティでは、そんな言葉が飛び交う。それは孤独なスコッパーの自尊心を満たすには十分だ。そうやって、人知れず埋もれた作品への注目が集まり、ランキングに上がってやがて一般読者の目にも留まるようになる。

しかし中には、もっとクソデカ欲求に塗れたスコッパーもいて、「私が良いと思った作品なんだから、書籍化してほしいし、コミカライズしてほしいし、アニメ化してほしい」なんて野望を抱いたりする。

そうした人間は、流行りの「推し活」よろしく、コミュニティではことあるごとにその作品を紹介するし、イチオシレビューも書く。書くと当然作者もその存在に気づくので、作品がランキング入りして人気になれば、スコッパーにお礼のDMが届いたりする。

概ね、以上がスコッパーの得られるものである。

ただ年単位で活動していると、稀に本当に書籍化して、コミカライズして、アニメ化する作品もあったりする。私がスコップして推していた作品もつい最近アニメ化が決まったのだけど、それはそれは嬉しかった。「俺が育てた」とは全く思わないけど、「コイツ、動くぞ!」と無邪気にはしゃいだし、情緒もだいぶおかしくなった気がする。

そういう体験をしてしまうと、スコッパーをやめられなくなる。

スコッパーとして活躍するには?

継続は力なりと言うが、無策でスコッパーを始めても割と早い段階で音を上げることになるだろう。小説投稿サイトはあくまでアマチュアが作品を発表する場所なので、それこそ文章の品質からしてばらつきがすごい。なので、長生きするスコッパーは、作品を読む前に徹底的に選別する。なろうに限った話ではあるが、タイトル、あらすじ、文字数、感想欄、平均評価、更新頻度などが判断材料になる。そして例えば100pt未満のものは足切りラインとして設定する。慣れてくるとこの値は引き下げられたり撤廃されるが、やはり最初はポイントによる足切りはあったほうが良い。加えて自分が面白いと感じる作品はどんな作品かを具体的に分かっている方が、作品の選別はスムーズだ。

また、「もう掘り尽くしてしまった」という気分になるとモチベーションが消えてしまうので、常に「このサイトにはまだまだ自分に刺さるすごい作品が眠っているはずだ」と根拠なく信じられる強い心が必要だったりする。

そのようにある程度の戦略と心構えを持ってスコップに臨むのが良い。でなければ早晩「スコップが折れた」などと嘆くことになるだろう。

スコッパーは今後も必要?

当分は必要だと思う。最近はAIが流行っていて、近い将来代替できるとの意見もあるが、私は懐疑的である。

というのも、「面白さ」はパターン化しづらいからだ。例えばどんなに多くから「面白い!」と支持されている作品でも、Xや読書メーターなどでタイトルを検索すればネガティブな感想は見つかる。また若い頃は面白かった作品が、歳を重ねてから再読したらつまらなかったというようなこともある。つまり面白さは、読者個人の主観や背景等に強く依存してしまう。よって面白いかどうかの決定権は常に読者に委ねるしかない。

もし今後AIが役立つようになるとしたら、自分の嗜好に合う作品の選抜であったり、ある程度文法作法が整っている作品の選抜であったり、スコップの工程の何割かに限ってのことだと思う。

ただし、AIの分野は日進月歩であり、私も専門家ではないから、いずれその予想が覆ることも大いにあるわけで、ゆえに「当分は」と枕詞をつけて語っているわけだ。

そしてここで懸念を一つ表明しておくと、今後AI活用が増えることで小説供給側の生産力は間違いなく向上する。そうすると、毎日投稿される作品点数が大きく増える。

その一方でスコッパーのような特殊な人材はなかなか増えにくいものであるし、古くから活動している影響力のあるスコッパーは減る一方だ。すでに述べた通り、スコッパーの関与によってランキングにあがり、そこで多くの読者の目に止まって成功した作品が少なからず存在する。スコッパーが減ると、そういった作品に与えられるチャンスは確実に減るだろう。

故に、スコッパーという存在はもっと認知を広げる必要がある。最近大手の投稿サイト運営が、スコッパーという言葉を公で使うようになったのも、もしかしたらその危機感の現れかも知れない。

あるいは、最近カクヨムで恋愛ジャンル限定で面白いと思った作品に有償レビュー(1件3000円)をつけてくれる読者モニターを募集していたり、小説家になろうでイチオシレビューをつけてくれた人の中から45名に5000円をプレゼントするキャンペーンを行っていることを鑑みると、読者の中から影響力のある人を生み出したいという思惑があるのかも知れない。

実際のところは運営に聞いてみないと分からないが、スコッパーまたはそれに近い振る舞いをする読者にインセンティブが与えられるとするならば、喜ばしいと思う。このような取り組みが継続して行われることを願っている。

さいごに

ここまでで5800文字ほどありましたが、読んできただきありがとうございました。今回の記事はX上でスコッパーについての議論が活発になったことがきっかけで書こうと思い立ちました。

また、文中に書いたように「スコッパーという存在はもっと認知を広げる必要がある」ことは本当に重要だと考えていて、今年の私の活動のテーマとなっています。もし、認知を広げるアイデアがある、実際にスコッパーの話をもっと聞いてみたい、自分もスコッパーとして表立って活動したいなどなど、スコッパーの活動に関心をお寄せいただける方がいらっしゃいましたら、お気軽にnote経由でご連絡いただければと思います。

当アカウントでは、Web小説界隈で話題になった事柄の考察や、Web小説界隈の世に知られざる名作選などを掲載していきますので、ご関心を寄せていただける方はぜひアカウントのフォローをお願いします。

付録

参考記事

スコッパー向けのツール・サイト


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