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『未来の1分』#ショートショート

「『SF』って、何の略だっけ?

 サイエンス……フューチャー……? フィクション? 忘れちゃったけど。

 でも、藪から棒で申し訳ないんだけど、もし、もしさ」

 コイツはいつにもまして落ち着きがなかった。

「もしさ。僕が、"未来を見ることができる"って言ったら……どう?」

 俺は拍子抜けした。

 "未来を見ることができる"? タワケ。

 そんなことできるわけないだろと思いつつ、コイツの冗談に付き合うことにしてみた。

 毎日同じことの繰り返しで、特に話すこともなくて、それでも誰かとつるんでいたくて。

 仕方なく編み出した手段が「作り話」ってことなんだろう。

 そして、俺はその作り話に付き合うことで道化を演じ、 

 それに対し、コイツは――というように、嘘を嘘で塗り固めた人工的で無機質な時間をやり過ごす。

 人間関係にマンネリはつきものだが、まあ、暇潰しだよ。暇潰し。

 俺は口元を微妙に引きつらせながら、半笑いでコイツに言った。

「まじか。じゃあ、俺の未来はどうなる?」

「死ぬ」

 ……?

「え」

「たぶん、1分後ぐらいに」

 ――

 一瞬間、時が凍りついたような気がした。

 いつもより風が冷たく感じる。

 遠方から何かを鳴らす音が聞こえてくる。

 不思議と身体の力は抜け、リラックスしている。

 ただ、コイツの目を見ている。

 笑っていない。至って真面目な表情だ。

 音が次第に近づいてk――

 天地がひっくり返るような衝撃とともに、

 短針が三時の方向を指して、コイツが視界に映っている。

 ……何かを言っている。

 わからない。

 ――でも、一つだけ分かった気がする。

 籠もった音の波を感じつつ、暗闇が世界を覆っていく。

 メーテルリンクの『青い鳥』ではないが、意外と探しものは、すぐそこにあったのかもしれない。

 静かに、ゆっくりと視界が閉じていった――

 

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