【往復書簡】10通目(仙仁透様)

お返事の枕を読みながら、昔だれかが言っていた「発酵と腐敗は紙一重」なんて言葉を思い出しました。誰が言ってたんだろう。出典を忘れてしまいましたが、ちょうど良い塩梅を見極めるのはなかなかどうしてむずかしい。

これは飲食物だけでなく、思考だってそう。瞬間的に出し過ぎても論が煮詰まっていないし、かと言って長く考えたらその分思考が深まり続けるかといえばそんなこともない。ましてや相手もいる話だとそのタイミングも余計に複雑になる……なんてことを言い出したらキリがないですね。いつもは少し練ってからお返事を書いているのですが、今回は趣向を変えてなるべく新鮮なお返事をしてみます。吉と出るか凶と出るか。 

たとえ相手の話にじっと耳を傾けていたとしても、相手がなぜそのように考えたのかを受け止めようという意識がないのであれば、それは相手の話を「聞いた」とはいえないと思っています。 

 相変わらずの鮮やかな切れ味。前回この部分、心の中にいるリトルシモダ(死語)も思わずスタンディングオベーションする感動っぷりでした。どれだけ耳を傾ける姿勢をとったところでそこに〈受容〉の意識がなければ聞いたうちには入りません。

[聞いた量=傾聴量×受容度]はお見事な公式で、もはや諸手を挙げて受容したいところです。 と、正直もうこのまま100%受容で終わってもいいぐらいですが、それだと書簡の意味がなくなってしまうので、以下少しばかり蛇足です。聞くことが得意でもなんでもないですが、せっかく「バー」の「マスター」をやっているので普段お店に立っているときに気をつけていることなどをお話できれば。

ひつじがは誰でも自由に入れるお店なので、毎日いろいろな人が来られます。中には遠征の場合などで事前に来訪(予約)を伝えてくださる方もいますが、大半の方はいつ来店されるのかが来るまでわかりません。明日も話せるかもしれないし、これが最後になるかもしれない。大袈裟ではなく、毎回がそんな感じです。

〈傾聴量〉は滞在時間(の中で話した時間)に限られ、こちらではコントロールができないのでここでは一旦無視します。なので、あとはその中でどれだけ受容度を高めるかの問題なんですが、ここでも塩梅が出てきます。

お店にはいろいろな人が来られます。その中には自分の意見を言いたい人、だれかに聞いてほしい人がいます。一方で特に話はしたくない人、何かを聞いてほしくない人もいます。また一個人の中でもここまでは聞いてほしい(セーフ)けど、ここからは聞かれたくない(アウト)分岐点が存在します。

なので、〈聞いた量〉の値が大きければ大きいほど良いという単純な構造になりにくい。ある人は100聞いてほしいけど、別の人は40がちょうどよくてそれ以上はしつこい。満足するポイントは本当に人それぞれです。

仮に目的が「限られた時間で情報を集める」場合は〈聞いた量〉は多いに越したことはありません。仙さんが日頃お仕事でされていることや、僕も就活をしている学生さんと話すときにはあえて最大値を目指すことはあります。

でもそうじゃない日常的な会話の場合には、あえて受容度を下げてみたりなど相手にとってちょうどいい塩梅を想像しながらコントロールしようと試みてます。これが本当に一筋縄ではいかず、相手の満足する〈聞いた量〉に対して下げ過ぎたら「頑固」になるし、かと言っていたずらに上げ過ぎたら「軟派」になる。先にも書いたように、その人とは次があるかわからない状況下に常にいるので、なんとか気持ちよく帰ってもらいたいなと毎回苦心しています。

そんな中でこの書簡は〈聞いた量〉が多いに越したことはない部類に入るので、コントロールを考えずに毎回全力投球できてありがたい。小手先だけの軟投ピッチャーと言われないように、緩急を扱えるようしっかり最大球速も鍛えていきたいところです。仙さんの火の玉ストレートも引き続き期待してます。

なんだか結びみたいになってしまいましたが、ご質問受けていた「企画」についてもう少しだけ蛇足を続けさせていただけますでしょうか。(いいですよ)

企画屋だなんて嬉しい二つ名をつけてくださいましたが、実際はそんな大したものではなくて。むしろ案の大半は陽の目を浴びずに泣きながらドナドナと列をなして蔵に連れられていきます。そして蔵の中でひっそりと埃をかぶる始末……なんてことにならないようにしなければなあとn回目の決意を今しがたしました。

話を本筋に戻しますが、企画(アイデア)を実行に移すために必要なものは①人(要員)②場所③資源(お金、時間など)ぐらいです。例えばこの往復書簡は①仙さんと②web上で③お互いの自由時間を使ってやっている。このように、①〜③の条件が揃えば、企画なんて誰にでも実行できてしまうものなのです。

もっというと④企画(アイデア)だって今はありとあらゆるところに前例があります。この往復書簡も至る所で至る人達に擦り倒されたアイデアです。そのほかにも大抵のことはすでに誰かがやってます。なので、自分で思いつかなければそれらのアイデアを(許可が必要なものは関係者の許可を事前にとって)やったらいい。そうすることで今まで「他人事」だったものを上手くずらして「当事者」として楽しむ。僕が企画をするときに考えてるのはそのぐらいで、従って僕(ひつじが)の企画は紐解けばどれも誰かが別のところでやっていて、怒られない範囲でそれを応用しながら当事者を増やしているだけなので、厳密にいうと企画屋ではありません。笑

付け加えるなら、諸々の企画をなるべく実行しやすくするために①普段から面白がる人を周りに増やしたり、②お店を構えたりはしています。参加者集めや場所探しなどの余計な部分に使う頭を極力減らすことで、その分アイデアについて考える時間を増やしたり、アイデアを実行に移すまでの時間を短縮できる。また、それを続けてある程度土壌が出来上がったらその環境をひつじが周りにいる人たちにも開くことで、ゆくゆくは日常的に周辺でアイデアが飛び交い集まってどんどん実行する当事者だらけの世界になればなあというのがねらいです。

僕のアイデアはほぼほぼが模倣(場所などをずらして誤魔化してる)ですが、その点仙さんは様々な公式やコンテンツを生み出されていて凄いです。ちょっと前の[こちらのエントリ]でも「ものづくり」について書かれていましたが、これまでにないオリジナルなものを作るには何を心がけたらいいものでしょうか。コンテンツメーカー仙仁透のご意見をお聞かせください。

2020.02.05 お店の空調機が壊れててんやわんやのシモダヨウヘイ

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