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【雑感】ひつじが日報200210

2020年2月10日、おかげさまで無事に昨日ブックバーひつじが一年目の営業を終了しました。当初は毎日書いていた日報も割と早い段階で更新頻度が減り、挙句開き直って週報へと鞍替えし、その週報すらヒイヒイ言いながら書いていて、隔週にしてしまおうかと目論む始末。とは言え言葉に残しておけば後から読みかえせて便利なのはわかっているので、せめて節目ぐらいは雑感を残しておきます。

この一年、長かったのか。短かったのか。正直まだあんまりわかっていません。「もう一年も経ったのか……」と目を細めて遠くを見たくなる気持ちと、「まだ一年?ほんとに!?」と驚きのあまり目玉ひん剥く気持ちの間をふらふらと行ったりきたりしています。どっちなんでしょうか?

ちょうど去年の今頃は開店準備もそっちのけで某大学生が送ってきたエントリーシートの添削をしていたのですが、その子も無事就職先が決まって、数ヶ月後には社会人として世の荒波に飛び出していきます。なんてことを考えると本当にあっという間で短かった気がするし、一方でそういう個々との思い出が関わってくださってる人の数だけあるので、それらを集積するともんの凄い長さを感じてしまうわけで。みんな昨日初めて会ったような気がするし、もうずっと前から知ってるような気もする。一見矛盾する新鮮さと懐かしさが共存して不思議、そんな気持ちを日頃お店に遊びにきてくださる方々に対しては抱いています。

一年目最終営業日の昨日も開店から閉店までさまざまな方が遊びにきてくれました。作品展示中の作家さん。ご近所さん達。おんなじ名字の人。初めて来店してくれた人。何度も来てくれてる人。大学生。成人したばかりの子。人生の大先輩。お仕事帰りの人。いっときも途切れることなく入れ替わり立ち替わりのご来店で、その都度明日で一年なんですと言いながら、そしてその都度それが言えるのはこうやって来てもらえてるからでしかないなと心の中で感謝しながら、閉店時間を超えてお話をしていました。色んな層の人が集まる。期せずしてその理想を体現したような1日になって、物凄く幸せでした。幸せすぎたのか、最後のお客さんを見送って店に戻った直後に鼻から鮮血が迸りました。

さて、昨日今日に限らず周年期間中ご来店された方にはノベルティのステッカーをプレゼントしています。このステッカーがあるおかげで、ひつじがが周年を迎える旨を誰に対しても自慢っぽくなく伝えることができて(そう聞こえたらどうしようと余計なことを考えて結局言えない性分なので)、今度から何かあるたびにステッカー用意しとこうかなと思うぐらい助かっています。

このステッカーも自分で準備や依頼をしたわけじゃなくて、現在展示にも参加してくださってる作家のフクミヤサオリさんが全て手弁当で用意してくれました。ある日突然「作ってもいいですか?」と連絡がきて、こちらはそれに「ぜひ」と返事をしただけ。それだけで何から何まで準備をしてくださって、結果周年をより周年らしく迎えることができました。男気溢れる(サオリさんは人妻です)行動。頭が上がりません。

サオリさんだけでなく、これまでの間も度々日頃から関わってくださる方々の喜捨の精神に救われ、それにより絶妙なバランスを保ちながらひつじがは成り立ってきました。今もそう。これからもっとそうなっていって欲しい。綺麗事じゃなくて、お互いが差し出せるものを差し出しながらゆるく繋がる世界を作れたらと思うし、その予兆みたいな動きが自分じゃないところからも出始めてて嬉しいです。無論それは誰かに強制されるものじゃないし、こんなことを書くとなんだかそれを押し付けているみたいで嫌なのですが(そんなつもりはないです)、それでもそういう動きがあることは知ってもらいたかったので、野暮ったい文章を野暮ったいままに世に送り出さんとしています。

この一年間でやっておきたかった、でも実力不足でできなかった、そんなことは本当に山ほどあります。納得のいく初年度だったかと聞かれたら多分まだまだできたはずだし、悔しい気持ちでハンカチを噛み締めたくなったりもして。

でもその一方、周りにいた人たちのおかげで、お店を始める前には想像もしていなかった色んな動きがありました。作品展示。読書会などの店内開催。出版社さんとのコラボ展。新刊書籍の販売(遊泳舎さんありがとうございます!)。ご近所の飲食店さんによる出張料理屋。テレビの取材。深夜食堂。超有名音楽家さんとの対談。お蔵入り展。雑誌、新聞掲載。物凄くざっくりと書きましたが、物凄く濃密で、どれもその段階に至るまでが物凄く早かったような気がします。一年を通して、多くの方に支えられ、救われ、助けられてきました。

最近はよく『居場所』という言葉のことを考えています。その単語を見かける度に、それを表示している羨ましさやひつじがもいずれそう呼ばれるような場所にという淡い期待と、同時にその言葉が受け手(関わってくれる人)に対して「居(なきゃいけない)場所」という押し付けになるのではという不安を抱くようになり、それを上手に標榜できずやきもきしています。

居場所に限らずなんだってそうだと思いますが、こうやって文章にしてしまうと「そうすることを許される安全」が生まれる反面で「そうすること以外は許されない恐怖」みたいなものも一緒に生まれるようで、それがなんだか気になって仕方がないのです。こんなことを考えずに素直に表現することができたらどれだけ楽か。でも多分その楽をできる人間ではないから、二年目も引き続き押し付けがましくなく当てはまる言葉はなんなのか考えていかねばと思っています。この点に関しては、東京湯島のジャッキーさんや京都にいる仙さんなどの頼もしい賢人達が往復書簡で相手してくれるはず。……はず。

なんの話だか訳がわからなくなってきましたが、こうやって日々めんどくさいことに頭を抱えながら、それでも日々を楽しむために試行錯誤してお店をやっています。僕だけじゃなくお店も、この一年の間で羽アリのお引越し先に選ばれたり、寒波に合わせて空調が壊れたり、何かと扱いが大変で、期せずして子は親に似るを実感しているのですが、それでもそれを受け入れて楽しんでくださる方々に初年度から恵まれたことは僥倖でしかありません。

飲食業界の隠語で開店したものの誰も来客がない(売り上げがない)日のことを「坊主」と呼んでいると大学生時代のバイト先で教わったのですが、ブックバーひつじがオープンから昨日に至るまで、なんとびっくり坊主の日が1日たりとてありませんでした(限りなく坊主に近いブルーな日はありましたが…)。これはつまり開けている日は必ず誰かしらとお話をしていたということになり、それはお店冥利に尽きるというかなんというか……嬉しいですよね。

大阪の居酒屋で名付けた「ひつじが」という名前がこの一年を通して皆さんの頭の中で辞書登録されたこと、そして皆さんの生活の片隅にちょろっとお邪魔できたこと、物凄くありがたく、また物凄く誇らしく思います。

そんな気持ちを引っさげたまま、建国記念日であり、敬愛してやまないBUMP OF CHICKENの結成日でもある本日2月11日、勝負の二年目に突入します。これを読んでくださってる皆様ともこの先またどこかで交わるかもしれないし、もう交わることはないかもしれません。とはいえ少しでも交われる機会を増やして待てるように、お店としても個人としても尽力します。なんて未来の話は今回することではないので、まずはここまでお相手くださった全ての皆様に感謝の念を飛ばしながら、一年目雑感の筆を置かせていただきます。ありがとうございました。

二年目もどうぞよしなに。

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