森の時間
3年生の時に、近所に新しいケーキ屋さんができた。
『森の時間』
私はそのネーミングに魅了されてしまった。
ケーキ屋さんは大人が入るお店、という概念もなく、私はウキウキとそのお店を一人覗きに行った。
ショーケースには沢山のかわいいケーキたち。
昔からあるケーキ屋さんは、ショートケーキが一番推しだったけど、その生クリームが全然美味しくなくて、ショートケーキが私は一番嫌いだった。
それが故に、私は小さい時から、
チーズケーキ
が大好きだった。
森の時間のチーズケーキは、
かわいいサイズで、そこも昔からのケーキ屋さんとはひと味違った。
表面にサクサクしたものがみじん切りで載っていて、柔らかなコクのある、チーズ感の強いチーズケーキだった。
森の時間の店内には、イートインスペースがあり、ちょっとアンティークなインテリアも素敵だった。大人になったらここでお茶しよう、と思っていた。
チーズケーキの値段は、200円。
週末にもらえる五十円のお小遣いを貯めて、私は時々チーズケーキを買いに行った。
沢山のケーキを見つめる。
いつかオペラも買おう、そう思ったりしながら、
チーズケーキください
と、200円をショーケースの上に置く。
はい、と、優しく綺麗なお姉さんが、
ケーキの箱を用意する。
一切れのケーキを入れる箱は、
とってもとっても小さかった。
私は宝物を入れたような気持ちでその箱をもらい、壊れないようにゆっくり持ち帰って、チーズケーキを、楽しんだ。
子供ながらに大切な一人時間だった。
私はいつも思う。
子供の心には成熟した大人の心がある。
私はそれを隠して隠して生きてきたけど、
森の時間は、本当は私が大人の女性になれる場所だったのかもしれない。
ケーキの味も、お店のインテリアも大好きだった。変にメルヘンではなく、音楽もクラシックが流れていた。その感性は決して子供のそれではなかったと、今でも思う。
森の時間は、5年くらいで美容室に変わってしまった。
あのお店がもしもずっとあったなら、
初デートや、好きな本を買えた時に、
イートインを利用しに行ったかもな。
森の時間のチーズケーキは、わたしがこっそり大人になれる魔法のお店の魔法のケーキだった。
拝啓 あんこぼーろさんの企画に参加しています↓
この企画のおかげで、私の中の大人だった私の好きだったものを思い出せました。
ありがとうございます😊!
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