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中国のチベット山塊から流れくだるメコン川。大河である。悩みを抱えてこの川を眺めにいったことが何回かある。そんな話を⋯⋯。税込み290円のつまみ動画&エッセイ。
動画はメコン川の源流域からはじまる。長江、サルウィン川という大河の源流が集まるエリアだ。メコン川はそこから、中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムへと流れくだる。国境がメコン川というところも多い。動画の酒飲み話は川をくだるようにつづくが、その川岸で流れを眺めつづけていたことが何回かある。メコンはなにも答えてくれないが。
この記事は隔週日曜日更新。新しい酒のつまみが加わっていきます。
ノンカーイのメコン川
あれは僕が27歳のときだから、1981年の年末だった。僕はタイのノンカーイでメコン川を眺めていた。
その年の7月、勤めていた新聞社を辞めた。そして旅に出た。ベルリン、エジプト、エチオピア、スーダン、パキスタン、インド、バングラデシュをまわり、12月にタイに入った。意図していたわけではなかったが、正月をタイで迎えることになった。
なぜ会社を辞めた? 短い言葉で語ることは難しい。しかし明確な道筋を描いて辞めたわけではなかった。答えは旅が出してくれる⋯⋯そんな自分探しの旅を信じる年齢でもなかったが、帰国したら、新しくなにかをはじめようと心に決めていたわけではなかった。
新聞記者だったから、原稿を書いていけば収入は得られる気でいた。雲行きが怪しくなってきていたが、世間には、まだバブル景気がつづくと思っている人も少なくなかった。
しかしなにかを書きたいという意識はなかった。その後、僕は旅を描くことになっていくが、それは数年後のこと。当時、僕の旅が本になるなど考えてもいなかった。
しかし悩んではいた。日本にいつ帰ると決めていたわけではなかったが、そのときまでになにか⋯⋯。そんな思いがなかったといえば嘘になる。
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