免許合宿18日目「僕だって」
合宿免許18日目
日記作成者 下島
半谷との関係 早く帰れ
帰りたい度 100
朝食 無し
昼食 かき揚げ丼 味噌汁
夕食 鮭の香草焼き 豚の角煮 もやしのナムル 味噌汁
最後の1週間が始まってしまった。この1週間で僕は2度の別れを経験することになる。1度目は半谷との別れ。別に来週になれば会えるししばしの別れではあるが、自分をおいて先に卒業してしまうことに寂しさを感じずにはいられない。だがこれはお互いにとっての成長である。
2個目はこの教習所との別れである。これは早くお別れしたい。はやく卒業させてくれマジで。僕だってみんなとキングオブコント観たいってば。
今日も今日とて僕は2つしか授業を入れて貰えず、歯を食いしばるとこから一日が始まる。路上に出ず、縦列駐車、急ブレーキ、方向転換を習い、10時には2つの授業が終わった。太ったおばちゃん教官には「今日の昼飯を何にするか」と「どうやら痔ができて痛くて辛い」の2つをお送りされた。前者はまだしも後者の方はまるで聞いてられなかったので悪いけどチューンダウンさせてもらった。
昼食を取り、少し昼寝をしてから半谷とコンビニに行くことに。半谷は17:10から技能教習が入っていたが、16:20くらいに寮を出たためあまり時間はない。少し早足でコンビニに行くも、レジに並んだ頃には16:45を少し過ぎていた。レジのお兄さんは名札に「見習い」と書いてあり、研修生にもなれてないようなひよっこだったため、散々時間をかけた末にひとつの袋に商品をパンパンに詰め込んでいた。半谷はその袋を持って早足で学校に向かって歩き出し、僕もそれについて行ったのだが、何を思ったのか小太りはこっちを見てニヤッとしたと思えばいきなり持っていた袋を地面に叩きつけ、猛烈な勢いで走り出した。一言、すいません急いで帰るので袋お願いします、とか言ってくれれば僕持つのに。わざわざ地面にたたきつけ…え?僕はあっという間に小さくなっていった小太りの背中を、ただ呆然と見つめるだけだった。
18時頃に寮に戻ってきた半谷と夕食に行こうと誘い食堂に向かうと、寮を出たとこで男女4人組が玄関で待っていた。うち2人は同期の女子で、僕らが近づくとその女子たちが「あ、半谷くん、半谷くーん!」と呼んだ。嫌な予感が体中を駆け巡った。女子は続けて、「私たち、卒業早まったよ!29日に卒業だって!やったね!」と言った。なんとなくわかってはいたが、強烈なパンチをこめかみにくらったような気分に襲われた。やったねと笑う2人の女子、よかったじゃんとそれを分かちあう2人の男子、そして隣からは「まじか、嬉しっ!」の声。同期に目の前で先を越される、このやりきれなさを悟られまいとする僕は「え、僕はー?僕も同じ日に帰れるのかなー?笑」と、一世一代のおおちょけをしてみせた。しかし虚しくも、その言葉は誰にも届かずに、行き場をなくした音だけが静かな廊下へとバウンドしていった。誰も僕を見ていない。お前だけは違うよなと隣にいる相棒の顔をおそるおそる覗き込んでみたが、その瞳に映っていたのはそこにいる男女4人のみであった。
そこからはずっと耳鳴りがしている。都合の悪いことを聞かないためなのだろう。ふん、僕がこんなによくしてやっているのに、それを顧みずに新しい仲間とワイワイやってしまう小太りなんてさっさと卒業してしまえばいいんだい。ぼく1人だって、1人だって…