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【論文紹介】まだ診断されていないのに? 脳の構造が語る発作の影響

最新の研究で、初めてのてんかん発作を起こしたものの、まだ「てんかん」と診断されていない人でも、脳の微細な構造に変化が起きている可能性があることが明らかになりました。この発見は、てんかんの早期発見や、将来的な発症リスクの予測に繋がるかもしれません。


拡散MRIで捉えた脳の変化

ドイツの研究チームは、拡散MRIを用いて、初めての原因不明のてんかん発作を起こした患者さんの脳を詳しく調べました。すると、驚くべきことに、従来のMRI検査では異常が見つからないにも関わらず、脳の神経線維が集まる「白質」と呼ばれる部分に、微細な構造的な変化が認められたのです。

注目すべきは「単一発作群」の結果

特に注目すべきは、その後1年間、追加の発作を起こさず「てんかん」と診断されなかったグループ(単一発作群)でも、同様の変化が見られた点です。これは、脳の構造変化が、必ずしも「てんかん」の診断が確定する前から存在している可能性を示唆しています。

従来の研究ではわからなかったこと

これまで、てんかん患者さんの脳には構造的な変化が起きていることが知られていましたが、それは「てんかん」と診断されてからの話でした。今回の研究は、そのもっと前の段階、つまり初めての発作を起こしたばかりの、まだ診断もついていない段階で、すでに脳に変化が起きている可能性を示した画期的なものです。

どのような人が対象になったのか

研究に参加したのは、初めての原因不明のてんかん発作を起こして6ヶ月以内の患者さん20人と、慢性的なてんかんを持つ患者さん32人、そして健康な30人です。MRI検査で明らかな異常が見られない人が対象となりました。

今後の展望

今回の研究成果は、てんかんの早期発見や、発症リスクの高い人を特定するための新たな手がかりとなる可能性があります。今後、より多くの人を対象とした長期的な研究が進むことで、てんかんの予防や治療に役立つ新たな戦略が生まれるかもしれません。

参考文献

Segovia-Oropeza M, Rauf EHU, Heide EC, et al. Diffusion imaging shows microstructural alterations in untreated, non-lesional patients already after a first unprovoked seizure. Epilepsia. 2024 Dec 16. doi: 10.1111/epi.18213.

専門家向け解説

  • already known(既知の知見):

  • てんかんと新たに診断された患者は、脳の白質に異常を示すことが知られています。

  • 拡散テンソルイメージング(DTI)は、従来のMRIでは検出できない非病変性(NL)患者の脳構造の違いを検出できる可能性があります。

  • 既存研究により、てんかん患者の脳の多くの線維路でFAの低下とMDの増加が認められています。特に、全般てんかん(IGE)では、脳梁、皮質脊髄路、上縦束、下縦束などでFAの低下とMDの増加が頻繁に認められます。

  • 病巣を有する局在性てんかんでは、白質異常のパターンは病巣の局在に応じて異なります。

  • NL局在性てんかんにおいても、微細構造的な白質変化が存在することが示唆されています。

  • 小児においては、てんかん診断後早期にFAの低下とMDの増加が観察されています。

  • 確立されたてんかん患者における白質変化に関する研究は豊富ですが、初発作後の構造変化に関する研究は限られています。

  • 動物モデルを用いた研究では、てんかん発作誘発後に白質の完全性が損なわれることが示されています。これらの変化は、てんかん発症前の初期段階で始まる可能性があることが示唆されています。

  • unknown(未解明の点):

  • 新規てんかん患者における脳白質異常の時間的変化は不明です。

  • これらの変化が診断前に存在するかどうかは明らかではありません。

  • 初発作後の拡散MRIによる白質変化を、その後のてんかん発症と関連付けて評価した研究は存在しません。

  • current issue(現在の問題):

  • 初発作後の患者(特に、脳波でてんかん波を認めず、MRIで病変を認めない患者)は、通常、てんかんと診断されず、治療も開始されません。

  • 従来のMRIでは、約3分の2の患者で病変を検出できません。

  • 初発作後の患者における白質微細構造の変化を理解することは、てんかん発症機序の解明と、早期の構造的変化の特定に重要です。

  • purpose of the study(本研究の目的):

  • 非病変性(NL)、てんかん間欠期放電(IED)陰性、未治療で初発作を経験した患者と健常対照者を対象に、拡散MRIを用いて白質微細構造の完全性を調査すること。

  • 初発作後1年以内にてんかんを発症した患者と、発症しなかった患者で白質変化のパターンが異なるかどうかを評価すること。

  • 確立されたてんかん患者における白質変化を評価し、初発作後の変化と比較すること。

  • Novel findings(新規な発見):

  • 初発作を経験した患者は、健常対照群と比較して、脳梁や下前頭後頭束などの複数の線維路においてFAの有意な低下を示しました。

  • 1年間の追跡調査でてんかんを発症しなかった患者群(単一発作群)も、健常対照群と同様にFAの低下を示しました。

  • 一方、追跡調査でてんかんを発症した患者群(早期てんかん群)では、脳梁のみでFAの低下が認められました。

  • 確立されたてんかん患者群では、広範囲にわたるFAの低下が確認されました。

  • 初発作後の患者において、従来のMRIでは検出できない微細構造的な異常が拡散MRIによって検出可能であることが示されました。

  • Agreements with existing studies(既存研究との一致点):

  • 初発作後の患者における白質のFA低下という結果は、新規発症てんかん患者や動物モデルを用いた研究で報告されている知見と一致します。

  • 慢性てんかん患者において、脳梁や前部コロナ放射など広範囲にFAが低下しているという結果は、過去の研究と一致しています。

  • Disagreements with existing studies(既存研究との相違点):

  • 過去の小児を対象とした研究では、初発作後の左中心後回白質でFAの低下、左後部帯状回および右外包でRDの上昇が報告されていますが、本研究では、非病変性、IED陰性の成人コホートにおいて、より広範囲で効果量の大きいFA低下が認められました。これは、より長い無症候性てんかん形成過程による影響や、対象コホートの特徴の違いが考えられます。

  • 過去の研究では、発作後数日以内の急性期MRIでDWIの亢進が報告されていますが、本研究のサブ解析では、発作後の経過時間によるDTIパラメータの変化は認められませんでした。

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