朗読 日本婦道記『竹槍』 山本周五郎作

文政年間の異国船の出没は、幕末の人心に相当の混乱を与えたようで、作中によく現れています。まあ、少女たちがもめています。

文政7年の大津浜へのイギリス人上陸も史実で、このときの目的は新鮮な野菜と水を求めてのことだったようです(壊血病患者がいたため)。武装して上陸して、捕まったら、沖の母船が空砲を鳴らしまくったんだから物騒です。このとき、ことにあたったのが藤田幽谷。「障子」に出てくる藤田東湖のお父さんです。

https://youtu.be/s5c85SR53OU

同年に起こった鹿児島宝島での同様の事件は、もう少し荒っぽく、牛三頭を強奪、結果イギリス人一人が射殺され、塩漬けにされちゃってます。

大津浜事件との相違は、宝島が島で、在番官の吉村九助を中心に藩役人が七名。後は流人であった本田助之丞と田尻後藤兵衛しかおらず、鉄砲はわずか七丁。

(最初は穏便に、手振り筆談(通じなかったが)交渉していたが、牛の引き渡しを拒絶したところ、後日襲撃してきたらしい)

吉村は軍学者で、本田らに助太刀を頼み、島民も十二三人加わりました。

ちなみに本田助之丞は六十才の老人ながら歴とした武士で、文化朋党事件と呼ばれるお家騒動にかかわって処分されて島にいたと。教養人でこの人が手紙という形で事件の詳細を描き残しています。


島に上陸した船員は三十名で武装しており、沖の母船からは実砲を打ちまくっています。

野戦では勝ち味なしとみて、木戸口にまちかまえ、一人を見事うちとると、残りの船員は逃げ散ってしまったということです。



これらのことが原因で翌年の異国船打払令の制定につながるんですが、生麦事件よりずっと前から、イギリスとはもめてたんですね。

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