自分の価値がヤモリ以下だと知った夜
僕の住んでいる村に遊びに来る予定だった友人たちがコロナの影響でバッタバッタとキャンセルを申し入れてくる中、花井という男が3泊4日の日程で遊びにきた。
花井という男は、真四角の角刈りと真四角の顔を持ち、アホウドリが羽を広げたときのような広い肩幅を持っている男で、わかりやすく例えるとタンスに似ている。
とにかく集中力がない男で、真剣な眼差しで人に何かを質問してくるのはいいのだが、いざこちらが真剣に答えようとすると目線は宙を舞い、天井にいるヤモリを数え始め「シモダさん、あのヤモリ大きくないッスか?」と心底どうでもいい話で腰を折ってくる。
彼の投げかけてくる質問の質自体はすごくいい。こちらも考えるテーマを与えてもらい、それを人に伝えることで頭が整理されて自分自身にも新たな発見があったりする。僕は質問が上手な人は頭がいいなと思うし、話し相手としても楽しいのでそういった人と一緒に過ごす時間がとても好きだ。
ただ、それは会話のキャッチボールが成立しているときに限る。
花井という男は僕に素晴らしい質問を投げかけ、僕はそのテーマをもとに足りない頭をひねって自分なりの回答をまとめ相手に伝える。そして話し始めて5秒くらい経った段階で花井が僕の話を全く聞いてないことに気づくのだ。
そう、僕の話はヤモリに負けた。
彼の興味は シモダ < ヤモリ だった。
最初は「まあ、他に気がいくこともあるよね」そう思って気にしないようにしていたが、話を振られて僕が答えようとする度に、繰り返しヤモリに意識の全てを持っていかれてる花井を見続けていると、気づけば「人の話を聞け!お前が話を振ってきたんだろう!」と小学生レベルの説教をしてしまっていた。
人が話しているのを遮ってまでヤモリが虫を捕まえて食べたという報告に意味はあるのか? 僕はその報告によって一体なんのメリットを享受するのか?
叱られた後に反省して黙っているのかと思ったら、こっそりヤモリの数を数えてるのはどういう意図なのか? バレてるからな。
あげく「あれヤモリなんすか?イモリじゃなくて?」という心底どうでもいい質問はなんなんだ? それはタイに来てまでしてする話なのか? ヤモリは爬虫類でイモリは両生類だよ!ヤモリは水が苦手!語源は害虫などを食べてくれて「家を守る」から「ヤモリ」だ! 逆にイモリは水辺に生息していて「井戸を守る」から「イモリ」だ! あとはWikipediaで調べてくれ!!てかもう帰れ!!
そんな花井に最近 note を書いてないことを指摘された。
「もっと読みたいんで書いてください」と。本当にありがたい申し出だ。
たしかに気づけば3ヶ月以上書いてなかった。思い当たる理由としては、タイの移住生活が刺激的でとても充実しているので、いつでもできるネットの活動をすることが少し億劫になってきていたからだ。もっと優先して体験することがあるだろうと。
しかしヤモリ以下の扱いを受けていた僕としては、この花井の指摘は自分に興味を持ってもらう千載一遇のチャンス。
僕は、花井に「note を書くように尻を叩くマネージャーのような動きをしてほしい」とお願いした。
どんな内容かを簡単に説明すると以下のような感じだ。
・note の更新日はそちらで指定してくれていい
・決して怒らないので、しつこいくらい催促してほしい
・もし、決めていた更新日にシモダが更新できなかった場合は、
花井の監督不行き届きとして罰金200万円を僕に支払ってほしい
この条件ならば、堕落しきった精神を持つ僕でも生産活動ができるのではないか?
花井のマネージメントが成功すれば僕はこの note で近況などを記録していけるし、花井も管理者としての成功体験を得れる。そして、もし書けなかったとしても200万円もの大金を僕は手に入れることができる。むしろ締め切りを破り続けることで僕の資産は大きく増えてゆく。
まさしくWin-Winの関係だ。
しかし花井の口から出た言葉は「理不尽すぎる」「ヤクザのやり口」というものだった。言われてみればたしかに僕のほうがほんの少しだけ有利な条件だったかもしれない。これでは公平な関係を結べないと反省した僕は新たに以下のような提案を花井にしてみた。
・指定された更新日にシモダが書けなかった場合は200万円払わなければならないが救済措置もあるから安心してほしい
・救済措置とは、シモダに150万円を払うことで note に「あ」とだけ書いて更新することができる画期的なシステム
・この仕組によって花井はシモダの note を更新させるという目標を達成できる上、本来200万円失うところを150万円の損失で抑えられる
・結果50万円も得するからとてもラッキー
花井はそれを聞いてアハハと愛想笑いをしたあと、瞳から色は消え失せ、
再び虚ろな表情でヤモリを数えはじめた。
おおきにです。