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スパイダーユニバース終了に想う
スパイダーマンユニバースが終了するという報道があった。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ef4ec89cc241f24cb7117832086c73757353cae9
もともと年頭に公開された「マダムウエッブ」が不評であったことや、そもそも本体ともいえる(?)MCUも右肩下がりのなかで、「クレイヴン・ザ・ハンター」が「マダム」を上回る低調が予測されることがダメ押しになったようだ。
私は「公開されれば観る」という姿勢なので、すべて観ているが、確かにあまり面白くはない。ただ観る目が甘いこともあるのだろうが、「そこまでボロクソに言わなくてもいいんじゃないか?」という感想だ。
個人的に不出来ということであれば、昨年公開された「アントマン&ワスプ:クアントマニア」や「マーベルズ」のほうが酷かったと思っている。
「アントマン」の方は、「最強の敵が蟻の大群にやられるのかよ」ということであり、「マーベルズ」の方は「猫とカマラは可愛いけれど、フォーリをコメディリリーフにして良いのか?」「ドラマであれだけパキスタンコミュニティを描きながら、あっさり引っ越しってどういうことだよ」ということが主たる理由だ。
まあそれはそれとして、「マダム」と「クレイヴン」、さらに言えば「モービウス」もそうだが、基本的にどれも「キャラクターの生誕」を描いていることが映画としての生命力を失わせているように思う。
ここで言う生命力は(意外性)だ。
みんな知ってる
MCUの登場人物は何かしらのスーパーパワーを持っていて、それらの多くは、「事故」や「スーパーテクノロジー」「生まれついての才能」「環境的な要因」などその原因は様々だ。そしてほとんどの観客は観る前から、彼ら、彼女らが何かしらの原因でそうしたスーパーパワーを獲得することを了解している。スパイダーマンであれば放射能で変異した蜘蛛に噛まれ、アイアンマンであれば大金持ちの天才科学者が造り、キャップであればスーパーステロイド的ななにかなど、その理由は色々あるが、それが何であれ観客は事前にそのことを知っている。
それは別に原作を読み込んでいるコアなファンでなくとも、CMやあらすじに触れていれば大凡必要な情報の殆どそこにある。
そのためその理由がどんなものでも、基本的にそれほど驚きはない。つまるところ「なるほどね」という閾値を突破することは難しい。
制作者側としては「そんなことを言われても」と思うかもしれないが、実際のところ「ヴェノム」とアニメーションの「スパイダーバース」以外の「スパイダーユニバース」について言えば、どれもこの呪縛にやられたと思える。
トム・ホランドの「スパイダーマン」が成功を収めたのは、実は誕生の過程を省いたことにあると考えている。
スパイダーマン映画として、その誕生譚はトビー・マグワイヤ版でほとんど完璧に完成しており、なにをやっても蛇足にしかならないからだ。アメージングもアンドリュー・ガーフィールドがスパイダーマンになる過程を焼き直していて、それ自体は悪くはないがやはり退屈だった。
要するにこれらの作品は2時間かけて、キャラクターの誕生とライバルの登場という、みんなが知っている、「物語が本格的に動き出す前提」を描くことで終わってしまっている。映画の質云々以前に構造的な問題なのだ。
それに対してアベンジャーズの第2作「シビルウォー」で、デビューを果たしたトムのスパイダーマンは新鮮だった。むしろ他のスーパーヒーローが「あれ誰?」と反応するのに対して、観ている観客の側は、なんとなくわが町のローカルヒーローのデビューを見守るような気分で観ていた人も少なくないだろう。
そして単独でのデビューとなった「ホームカミング」では、「シビルウォー」は既に後日談として扱われている。友人のネッドにも早々に正体がばれ、体育のオリエンテーションビデオに登場するキャップを見て「あの盾を取った」と台詞にあるように、スパイダーマンであることを前提として物語は進んでいく。(ちなみにトム・スパイダーマン3部作は、彼が本当の意味でスパイダーマンとして誕生するまでを描いたものだと思っている。それについてはまた別の機会に書きたい)
「スパイダバース」と「ヴェノム」はなぜ成功したか
では「スパイダーバース(スパイダーマン:スパイダーバース)」と「ヴェノム」はなぜ成功したのか?
まず「スパイダーバース」については、確かに作品自体はマイルス・スパイダーの誕生物語を描いているが、まず挙げられるのは所謂、「育ての親である叔父さんを、彼(スパイダーマン)の未熟さが原因で失う」というパターンから外れていることだ(私はマイルス・スパイダーマンの原作については把握していないのだが、wikiなどを見る限り映画オリジナルの設定のようだ)。
あの名台詞「大いなる力には、大いなる責任が伴う」も、叔父からではなく、マイルス自身の台詞として登場し、別のバースから来たやさぐれたピーター・B・パーカーには「やめろ」と止められている。
さらに作中には別のバースから様々なスパイダーマン(ウーマン)が登場し、従来は孤独な存在だった彼が、先輩スパイダーマンたちにスイングを教わり、苦しみを分かち合うことも描かれている。また「うちの家系(モラレス家)は物事から逃げない」という台詞に現れるように、父親との確執を含めて家族の存在が大きのも特色だ。
つまり従来のスパイダーマン映画とはまったく構造的に違い、さらにアニメーション自体の出来がとてもつもなく良かったことがヒットの要因だと考える(スパイダーバースはアカデミー賞長編アニメーション映画賞している)。
一方のヴェノムの一作目は、定石通りヴェノム誕生を素直に描いている。大きな違いは、他のキャラクターが一人称がI(俺)であるのに対して、ヴェノムはWe(俺たち)であることだ。ヴェノムは主人公のエディーがヴェノムに寄生されたことによって誕生したキャラクターであり、種族が違う凸凹コンビによるバディームービーなのだ。これが他のスパイダーユニバース作品と違う結果を出した大きな要因だろう。ちなみに「ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ」で、敵となるカーネイジの一人称はI(俺)である。これはクレタスとシンビオートが完全に同化したためであり、エディーとヴェノムの関係にもそうなる可能性があったが、それを選ばなかった(あるいは何らかの理由でできなかった)ことが、ユニバースキャラクターとの作品的な差別化に繋がったと考える(なお「スパイダーマン3に登場するヴェノムはシンビオートの人格はなく、エディ・ブロックのスーツ的な位置づけになっている)。
それがよく現れたのは先ごろ公開された「ヴェノム:ザ・ラストダンス」だ。本作は劇中でも台詞で登場する「レインマン」「テルマ&ルイーズ」などの、バディロードムービーの系譜に数えられる作品として仕上がっている。残念ながら思うほどの興行成績とはなっていないようだが、キャラクターへの理解と愛が感じられるファンには支持される良作だったと思う。もちろんトム・ハーディの好演もヒットの大きな要因だろう。
妄想・スパイダーユニバース
長々書いてきたが、結局「スパイダーユニバース」の失敗は、定石通りに、機械的にキャラクターを紹介しようとしたところにあると思う。さらに間が悪いことに、さすがにMCU・DC関連の作品が近年あまりにも増えすぎ、食傷気味であることも背景にあるだろう。
では「スパイダーユニバース」はどうすれば良かったのか?
と聞かれると、正直答えに窮する。特にスパイダーマン自体を動かすことが出来ない状況が先にある以上、意外にやれることは少なく、結果無難な落とし所として帰着したのが今回の「ユニバース」なのだという納得の仕方が成り立つ。
※これについては本文章を書いた後で、そのあたりの事情を報じるものがあった。
「SSUにはなぜスパイダーマンが登場しなかったのか? ー 新たな報告書で内部事情が明らかに」
https://ginema-nuts.com/why-not-appear-spider-man-at-ssu
これを読むと、「スパイダーマンの使用に関する制限は存在しない」にも関わらず、ソニー側が「観客がトム・ホランドのスパイダーマンの登場を受け入れられない、と考えていた」とあり、さらにヴェノムの成功が「スパイダーマンが登場しなくても集客できる」と考えさせたとある。
色々リサーチを行い、頭が良い人も集まっているはずなのに、どうしてこういう結論になるのかが不思議だ。ただ、実際にトム・ホランドにオファーをしても出演するかはまた別問題だっただろう(トムはドラマ「クラウデッド・ルーム」の撮影後、一年間(2022-2023?詳細期間は不明)までの休養に入っていた。この間、アルコール依存症を自覚して断酒している)。
そうした事情を踏まえて妄想を承知で言えば、DCの「スーサイド・スクワッド」を参考にヴィラン連合である「シニスター・シックス」をテーマにしても良かったように思う。原作にはないようだが、モービウスもシニスターに参加し、一作目はやんごとなき事情で共闘。二作目以降は本領を発揮して暴れだす彼らに対して、マダムウェッブを始めとする「スパイダーマンバース」の面々が対抗。それこそトビー&アンドリュースパイダーマン(二人がトムのことを会話でいじる姿が目に浮かぶ)が登場し、さらにはのブレイドやゴーストライダーが飛び入り参加するような、「スパイダーユニバース」ならではの展開ならば……。
なんてことを想う「スパイダーユニバース」終了のお知らせだった。
ちなみに期待の「スパイダーバース:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」は、ようやく監督がボブ・ペルシケッティとジャスティン・K・トンプソンに正式決定したとのこと。公開は2026年以降になりそうだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/39d4b7444b1796a3cddfc5ae4e17014a870a929d
それまでは頑張って生きていきましょう。