計算社会科学の研究室(国内)

計算社会科学に関する研究をしているものとして、しばしば社会科学の学部生からどこの研究室や教員が自分とマッチングしているのかあまりわからないという相談がある(それは結局計算社会科学自体は学際的なstudyであって、各教員や研究室のバックグラウンドのdisciplineがあるためである)。

これは単にまだ計算社会科学という分野が萌芽的で、新規な手法である計算科学的アプローチをとっていればどんなものでもそのように呼ばれうる「感じ」があるためだと言える。

ただ実際やってて思うのはいくつかの方向に分類は可能である。そこで今回は院試の参考にしてもらうために、私が知りうる知見という留保をおいて、国内の大学の研究室について簡潔な解説とともに記す。基本的には研究科単位で記す(つまり、学部ではなく修士・博士である)。また私が知ってる範囲なので、基本的には国公立大学のみである。

下記はあくまでも私の知見であり、下記に記した研究者の論文は3-4本私は読んでますが、認識に間違っている箇所などもあるので、ネット上の情報として基本的には真意はご自身で確認してください。

東日本
<東北大学>
・総合人間学専攻計算人文社会学研究室

ここは、日本で初めておそらく計算人文社会学を標榜する研究室で、PIは呂 沢宇氏である。専門は「政治分極化、ソーシャルメディアにおける意見形成、社会科学における機械学習の応用」である。バックグランドは社会学で、メディアにおける意見集約の容態や機械学習の先駆的な応用などに詳しい専門家である。またこの東北大では行動科学研究室が同じフロアーにあり、オーソドックスな回帰分析や数理モデル系の教員などもいて、実証をやる人にはかなり研究環境としてはおすすめである。学生の相互作用も素晴らしいと聞いている。

<東京大学>
*複数あるので軽く紹介する
・大学院工学系研究科システム創成学専攻鳥海研究室

こちらは工学がバックグラウンドの鳥海氏の研究室である。社会科学というより、工学的な背景が強く、そのため技術的な色の強い業績も多いし(工学系だからだろうかProceedingsも多い)、指導学生の業績も同様である。「社会工学social engineering」と言えるだろうか。 

・人文社会系研究科社会学研究室

こちらの研究室では、まず最初に紹介した東北大の研究室の初代PIであった瀧川氏の研究室が該当する。まずそもそも人文社会系研究科自体が大変classicalな研究室でいわゆる伝統的な人文学的な文学部である。その中でも、同氏のバックグラウンドは社会学で、業績も工学系のProceedingsから国内誌、テキスト分析から実験系など幅広くある。

<東京工業大学>
・環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程 / イノベーション科学系 笹原研究室

こちらは東工大の笹原氏の研究室である。バックグラウンドはカチッと決まる感じがしなくて、どちらかというと(学際的な)理工系とでもいえるだろうか。研究も過度に技術的なものもというよりは、心理学的な研究やSNSデータの解析などがあり、ここら辺をやりたい人にはいいのではないだろうか。研究室もこれまで紹介したものの中で一番大所帯で、闊達な議論が想像されます。
「複雑系」って久々に聞いたな。

<筑波大学>
・ビジネスサイエンス系 吉田研究室

こちら筑波大学の吉田氏の研究室である。バックグラウンドは工学系で、ソーシャルメディアに関する分析などを行っている。入学先はビジネス科学研究群 経営学学位プログラム(博士前期課程)でかなり社会人には通いやすい大学と聞いています。私今の所に進学していなければここを受ける予定でした。当たり前ですが、社会人にとって従来の研究科に通うのはかなり大変です。ただここはもとより社会人が通うことを念頭に置かれている一方で研究も重視しているので社会人にはとてもおすすめです。

<一橋大学>
・ソーシャルデータサイエンス学部-研究科

 最後は、PI単位ではなく、研究科単位の紹介です。ここはおそらくデータサイエンスx社会科学の中で最も充実した教員体制の一つで、メソドロジーで見るとテクスト分析なのかエコノメの手法なのかモデルなのかはたまたSTSなのか、どれをやるにしても教員が見つかるでしょう。できたばっかの研究科なのでまだまだ未成熟な部分はあると思いますが、かなり魅力的であり、アルゴリズムのレベルで理解するデータサイエンスや計算社会科学をやりたい人にはかなりGoodだと思います。

ただ入試の問題はかなり難しいかったと記憶してます。特に社会科学プロパーの人には統計学をしっかりやらないと受かるのは難しい気がします。


概ね上記のとおりです。これらで紹介した研究者はほとんどいわゆる国内的には有名どころばかりで、それ以外でもサブ的に計算社会科学を標榜する人はいますし、早慶などでも計算社会科学をやってる研究者います。

自身の指導教員や研究室を選ぶ方法として以下の3点があると思います。

・指導教員との研究関心のmatching
・指導教員とのpersonalityのmatching
・場所や立地そしてfunding

まず一つ目は、当人の教育歴を見ることが大事かなと私は思います。もちろん興味はドリフトしますが、核は変わらなかったりしますので、なんの分野で学位をとってるのかは確認したいです。また所属学会も確認しましょう。

その上でここ数年の研究論文を2-3本程度でいいので読みましょう。そしたら「あぁ、最近はテキスト分析をやってるのか/因果推論をやってるのか」など検討がつきます。もし院生を抱えていたら院生の発表している内容やフォーラムも見て、ここまで来たら私の研究関心ならマッチングとして問題ないなというのがわかると思います(と、私は思ってます)。

2点目の性格の問題は、まぁ人間なので好き嫌いはありますし、あって当然です。また研究室の運勢体制もstrictな感じなのかlooseなのかなど、どんな体制がいいのかはその人の性格やライフステージにもよると思います。一番いい方法はその人の講義を受けて、そして講義外でもちょくちょく会話するなど交流を深めつつ、他の学生に対する態度なども勘案した上で、自分と合うかfeelingで決めればいいと思います。

研究の関心も大事ですが、正直これが一番大事です。休学するケースややめてしまうケースを聞く限り、ほとんどは教員との相性の問題です。仕事でも学校でもどこでも「馬が合う/合わない」ってのはまぁ往々にしてあります。明確なハラスメントなら通報すればいいんですが、そうじゃない馬が合わないケースっては大学でも仕事でも多くの人間関係では常です。
大事なのは抱え込まず、lightに研究室を変えるという選択肢も大事です。その上で、自分でネットワークを作るのは大事です。困ったときに外に助言をもらえる人を作っておくのは、教員との関係がうまくいってたとしても大事です。

研究については「俺が教えてやる!」くらいの気概、自分の専門のドメインについて「教員を啓蒙してやる!」くらいのマインドがあればgoodだと私は思ってます。博士号をとるとはこういうことではないだろうか。

最後に、場所や立地そしてfundingです。私自身仕事の都合で東京の大学しか無理だったので、今は東大です。そんな感じで各々事情があると思うので、立地の条件はあると思うので、まず最初に動かせない変数をもとに絞って考えると思います。その上で、大きな主要大学だと近年博士課程支援が充実しているのでそれも横目に見てどこがどのくらい充実しているのか採択率はどのくらいなのか検討するのは大事だと思います。

少なくとも博士課程であれば標準年限において赤字を出さないってのは大事な心構えだと思います。基本的にはもう大人ですから自分で自分の食い扶持を作ったり、レゾンデートルを示すことを考えられたいなと私は思ってます。

とりまもし近場に相談できる人がいたらまずその人に相談してみたり、ネットにメアドを公開している人が最近は多いのでどんどんアクション起こしてコンタクト取ってみるは大事です(社会学の院進や計算社会科学についてもしいろいろ聞きたければ私のメアドへの連絡してもらってもOKです。可能な範囲で答えます)。

とにかく生きてりゃうまく行く時もいかない時、どっちもあるので抱えず周りに相談しましょう。割と聞いてくれます。言葉は吐き出された瞬間誰かとの共有物になり少し軽くなります。
少なくとも私はどんな人に相談されてもその人がまいってたら真剣に自分の時間を削って話を聞きます。

いつか西日本編もやります。んじゃ。





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