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男が部屋に取りに来たものとは?(小説・第6回)

こんにちは、Shimizu_Tです。

今日は、超短編小説の第6回目です。
これまでと同じように、小説なのでフィクションです。しつこいですが、実在するSさんとは全く関係ありません。(今回の文字数は、約1,200文字です。)

(前回(第5回)は、女の目線で書きましたが、今回は、また男の目線で書いています。)


男は、韓国から静岡へ転勤になった時も、C地方の自宅には戻らなかったが、それは、静岡へ早く行かなければならない理由があったわけではなく、単に自宅へ戻る理由がなかっただけだった。

女は静岡へ来ないと言っていたので、彼女を迎えに行く必要もなかったし、韓国で住んでいた時の身の回り品は、そのまま静岡へ送ればよかったので、自宅へ戻る必要がなかったのである。

(一緒に住まないのならば、自分たちはどういった関係なんだろう?)

男は、韓国へ転勤になるまでは、籍を入れていない女と一緒にC地方で暮らしていたが、その後、韓国から静岡へ転勤となって、もう一年ほど女とは一緒に暮らしていない。

(自分たちは、単なる友人のような関係なんだろうか?)
(このまま、離れて生活しているなら、お互いに別のパートナーを探してもいいのだろうか?)

ただ、男も女も、自分から積極的に他のパートナーを探そうとは思っていなかった。

ところで、今回、約一年ぶりに男が自宅へ寄った理由は、鍵を取りに行くためであった。

「これを取りに来たんだ。」

男は、自室の机の引出しから鍵を取り出すと、こう言った。

「鍵?」

女の反応は、これだけだった。

男は、これが何の鍵なのかを女が聞いてくると思っていたが、女はこれ以外の言葉を言わなかった。

(興味がないのかな?まぁ、いいか。)

女がそれ以上何も聞いてこなかったので、男も自分からそれ以上何も言わなかった。

「じゃあ・・・」

鍵を取りに来ただけなので、それ以上は家にいる理由もなく、男は静岡へ戻ろうとした。

「えっ? もう帰るの?」
「そうなんだ、今日中に静岡へ帰らないといけないんだ。」

どうしても今日中に戻らなければならないほど、切実な理由があるわけではないが、だからと言って、このままC地方の自宅にいる気分でもなかった。

「じゃあ、また。」

そう言って男は自宅を出た。

(「また」って言ったけど、次はいつになるんだろう?)

男は、もしかしたら、もう自宅に来ることは無いんじゃないかと思いつつ、静岡へ向かった。

その前に自宅近くの銀行に寄り、鍵を使って用事を済ませた。
用事とは、貸金庫に入れてあった小さな荷物を取り出すことだった。

(これがまた必要になる日が来るなんて、意外だったな。)

女に見られることなく荷物を手に入れてほっとしたが、これから先、女との関係がどうなっていくのか。

別々に暮らして1年が経ち、どちらからも「また一緒に暮らそう」という話が出てこないので、このまま自然消滅になってもおかしくない。

「なるようにしかならない・・かな。」


ここ迄お読み頂き、ありがとうございます。
いつものように、締めくくりはこの言葉で。

「毎日が、心穏やかに過ぎますように」

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