【エスパルス】2020年J1第14節 vs柏(H)【Review】
屈辱の敗戦を喫した前節・川崎戦(0-5)から1週間、エスパルスは、自分たちのあるべき姿を取り戻すことはできたのか。今後に向けて、真価が問われる1戦がやってきました。
残念ながら今節も敗戦となりましたが、今後に向けた光明も見えたと思います。自分なりに試合内容を解釈してみます。
1.スタメン
エスパルスは第13節・川崎戦から、右CB(岡崎→ヴァウド)、左WG(西澤→ドゥトラ)を入れ替え。ドゥトラはルヴァンカップからキレの良い動きを見せており、満を持しての先発となりました。
対する柏は、ルヴァンカップ準決勝から中2日ですが、C大阪を完封した勢いに乗り、メンバー変更は2名のみ。また、今季13試合で14ゴールと絶好調のFWオルンガの不在は、吉と出るか凶と出るか。
なお、システムは、エスパルスはいつも通り4-2-3-1ですが、柏はボール保持時3-4-2-1、非保持時は右WBがやや高い位置を取り、4-4-2のように振る舞う時間が長い(下図)変則的な形を取ってきました。策士・ネルシーニョ監督の頭の中はいかに。
2.前半
(エスパルスの不安定なビルドアップ)
ここ数試合、ボールの出所を積極的に押さえに来る相手に対し、ボールを前に進める有効な答えが見い出せず、ビルドアップの不安定さを露呈しているエスパルス。
この試合でも、柏は前線からタイトにプレスを仕掛けてきます。FWの2枚(呉屋・江坂)が激しく動いてサイドを限定し、パスの出先にはマンマーク気味に厳しく寄せてきます。また、このハイプレスをかいくぐられても、柏は中盤が即座にスライドして4-4-2のブロックを形成するソリッドなディフェンスを見せます。
(サイドを上手く使えないエスパルス)
柏の守備によりサイドが限定され、なかなか横の揺さぶりが使えないエスパルスは、サイドから縦→縦のボール運びが中心となります。
しかし、WGが幅を取るエスパルスの特徴を踏まえ、柏は大外のレーンをWBが埋め、ハーフスペースをCBがフタをします。これでサイドは数的同数に。
エスパルスは通常、WGが下りる動きやトップ下が裏を狙う動き(3人目の動き)を組み合わせて、相手の守備網を動かそうとするのですが、足元でボールが欲しいドゥトラや中村慶太はスペースを作る動きが乏しく、ボールを引き出せません。
こうしてエスパルスは、ゴールに背を向けた選手にパスを入れざるを得なくなり、背後からボールをつつかれて難なく回収され、自陣に押し込まれる時間が長くなります。
(柏のボールポゼッション)
柏のボール保持は、CB3枚でのビルドアップで、カルリーニョスのプレスを無効化。同時に左WB(三丸)が高い位置を取って金子を引っ張り、空いたスペースにCB(古賀)が侵入、自由を得て配球します。
また、エスパルスは、ライン間で曖昧なポジションを取るシャドー(江坂・戸嶋)をなかなか捕まえられません。相手CBがボールを持ち上がることで相手CH(大谷・ヒシャルジソン)がより前に出てくるため、竹内・ヘナトがそちらを見ざるを得ず、後方のスペースのケアとの両立が難しくなるためです。
それならばと、シャドーに対してCBやSBが出ると、ディフェンスラインのギャップを呉屋や江坂に突破されてしまいます。柏は、このような前線の選手による「斜めの動き」が洗練されており、SB裏を突かれてクロスを上げられるシーンが目立ちました。
こうして、徐々に竹内・ヘナトの位置取りが後ろに重くなり、最終ラインが押し上げられず、前線との距離が開いていきます。
(前後分断がもたらすもの)
エスパルスは、前4枚と後ろ6枚の距離が開くことで、中盤を相手に制圧されてセカンドボールが拾えなくなります。これも押し込まれる時間が長くなった理由の1つです。
また、柏はやや前残り気味に位置するシャドーの選手が、守→攻の素早い切り替えで前線に飛び出していきます。中盤からこうした選手への配球も目立ちました。
(1失点目の場面)
柏にボールを握られる中、クラモフスキー監督は相手の後ろ3枚に対してFW3枚を当てるプレスを指示したようです(DAZNに抜かれていましたね)。これがなにをもたらしたか。
川崎戦からの守備の修正点として、金子の振る舞いが挙げられます。この日は明らかに、金子が相手WBについていく動きを見せていました。
しかし、金子の役割が変わったことで、それまで金子が見ていた相手の左WB(三丸)へのマークがハッキリしなくなってしまいました。
1失点目は、エスパルスの守備を中央に寄せてからサイドに展開し、完全にフリーになった左WBからのクロスでした。中で合わせた呉屋も上手かったのですが、精度の高い左足を持っている選手に自由にクロスを上げさせれば、失点の可能性が高くなるのは必然です。
(2失点目の場面)
2失点目も起点は相手の左サイド。柏はGKを使ってエスパルスのハイプレスをかいくぐり、前に出てきた金井の裏を取りました。ここにはヘナトがついていきますが、広大な中央のスペースをカバーするエスパルスの選手は皆無。ここに江坂が入り込むと、2vs2の状況。あとはズルズルとラインを下げさせられ、豪快なミドルシュートを許しました。
こうして2つの失点の場面を見ると、数的同数のプレスが裏目に出たと言えるかもしれません。
(本来はこうしたい)
では、数的同数のプレス以外に、どのように状況を打開する方法があったのでしょうか。
上図は2失点目のきっかけになった、中村慶太がボールを失ったシーンですが、ボールを失った瞬間に、近くの選手がすぐにプレスをかけに行っていたら、どうなったでしょうか。
前にパスの出しどころは見当たらず、後方へのパスもドゥトラやカルリーニョスがカットを狙えます。また、ボールを奪えば、相手の最終ラインに対して数的同数で、ゴールの可能性も高まります。
私が最近、最もエスパルスらしくない(クラモフスキー監督のサッカーらしくない)と思うのは、こうした「ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の遅さ」です。ボールを奪われた瞬間に天を仰いだり、まずリトリートしようとする意識こそ、アタッキング・フットボールの原則に照らせば、最も不適切なプレーのはずです。
なぜ不適切か。それは「プレーが続いているから」です。言い換えれば、ボールを持つことは手段に過ぎず、できる限り相手のゴールの近くでプレーすることが目的だからです。
ただ、後半は一転して、エスパルスが相手を押し込む時間が長くなります。その要因の1つが「トランジション」にありました。
3.後半
後半は、中2日ということもあってか、柏の前線からのプレスが徐々に緩みます。これにより、エスパルスは横への揺さぶりが可能になります。
エスパルスは、ボールを横に動かす間にSBが高い位置を取り、相手WBを押し下げます。
柏は5バックの状況が常態化し、中盤は3枚で横幅をカバーしなければなりませんが、スライドが間に合わずCH脇が空いてきます。エスパルスは、このスペースを活用してボールを保持します。
ボール保持とともに、相手を押し込む時間を長くすることができた要因が「即時奪還」です。それを可能にしたのが、後半途中に投入された後藤であり西澤です。
(密集が可能にする即時奪還)
とくに、このチームのトップ下として求められるプレーを披露し、出色の出来を見せたのが後藤でした。
彼の特徴として、チームのパスを中継するリンクマンとしての働きが注目されますが、彼の真価はトランジションの早さにあると思います。
どうしても中村との比較になってしまいますが、ボールを失った瞬間の挙動やセカンドボールがこぼれてくる位置を先読みしたポジショニングは、本当に素晴らしいものでした。
パスの中継点として「前と後ろをつなぐ」ことができる選手は数あれど、彼のように「攻守の境目を限りなく短くする」、言い換えれば「時をつなぐ」ことができる選手は、なかなかいないと思います。
この日のように、相手を押し込んだ状態を保つ(=監督のサッカーを体現する)上で、欠かすことのできない選手です。
4.今後に向けて
チームの戦術と個人との関係を考えるとき、「お前のためにチームがあるんじゃねぇ。チームの為にお前がいるんだ」という安西先生(スラムダンク)の名言を思い出します。
もちろん、後藤には後藤の良さが、中村には中村の良さがあります。ただ、一方が機能して、もう一方が機能していないように見えるのは、トップ下というポジションに求められた役割をどれだけこなせているかの違いではないでしょうか。
シーズン序盤にできていて、今できていないことは何なのか。そして、これまで積み上げてきたチームの強みは何なのか。
この試合の後半の戦いぶりは、このチームが目指す姿を思い出すきっかけになったと思います。
その姿を、その将来像を信じて、愚直に追い続けることができるか。今、選手もサポーターも、それが試されているような気がします。
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