【エスパルス】2020年J1第7節 vs大分(H)【Review】
試合を振り返る暇がないままに、第8節浦和戦の当日になってしまいましたが、セットプレーで4得点、雷雨での中断など、記憶にも記録にも残る2020シーズン初勝利を振り返らないわけにはいかない!ということで、慌てて書き始めました。
今回は時間がないので、失点シーンをクローズアップします。
本来は4-0で勝ちたい展開だった中での、終盤の2失点。監督や選手のコメントでは「集中力を欠いた」との声がありましたが、果たして本当に集中力の問題だったのでしょうか?ピッチ上に目を向けてみましょう。
1.スタメン
エスパルスは前節から3人を入れ替え、CFがティーラシン→カルリーニョスで左WGに西澤、CHが中村→竹内、左SBが奥井→ファンソッコとなりました。
フォーメーションは、いつもと同じ4-3-3。
ファンソッコの左SB起用はサプライズだったのではないでしょうか?この狙いは、試合を通じて明らかになります。
大分の基本フォーメーションは5-4-1。ボール非保持時には自陣に撤退してブロックを形成、堅くスペースを埋める守り方です。一方で、ボール保持時に転じると、CHが一段下りて4-1-5のような形を作り、最終ライン+GKの巧みなボール回しで相手をおびき寄せ、その裏をつく「擬似カウンター」と得意としています。
2.エスパルスの狙い(ボール保持時)
大分の守備は、前線からプレスをかけるよりも、自陣でブロックを作ることを優先するので、エスパルスはビルドアップ能力の高い立田・竹内らが自由にボールを持つことができました。
ボール保持時のエスパルスの狙いは相手SB裏のスペースで、これはどんな対戦相手でも共通しています。そのための方法として、通常はWGがサイドの高い位置に張り、SBのインナーラップやCF・トップ下の連動した動きで攻略にかかりますが、この試合ではやり方が少し違いました。
まず、左サイドでは、西澤がハーフスペース、ファンソッコが外、という形が多くみられました。これには2つの意味があると考えられます。
①相手WB(高山)・右CB(岩田)の守備の基準点を曖昧にし、その裏を狙う
②ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の対応
①については、西澤が2人の中間地点に立って相手を食いつかせ、後藤が裏を狙う形が何度か見られました。また、もし相手が西澤に食いつかなければ、彼自身が前を向いて勝負できます。
②の点では、相手の右サイド(=エスパルスの左サイド)は、高山の運動量・田中の仕掛けを活かせる相手のストロングポイントでもあります。ファンソッコが味方を追い越す動きをあまり見せなかったのは、攻守の切り替えの瞬間にエスパルスの左サイドを使わせないようにした意味があるのではないかと思います。
また、右サイドでは、エウシーニョのカットインを活かすため、金子が豊富な運動量をベースに相手の視野の中で何度も裏抜けを見せたり、ヘナトが機動力を活かしてエウシーニョと場所を入れ替わったりする(外に開く)シーンがみられました。
3.大分の狙い(ボール非保持時)
大分の狙いは、冒頭に述べた「擬似カウンター」ですが、この試合ではカルリーニョスが高い位置からプレッシャーをかけて、相手の最終ラインでのボール回しを規制。彼のスプリント回数は両チーム最多の29回を数え、その大半がボール非保持の局面ではないかと思うほどでした。また、ただ追いかけるだけではなく、パスコースを制限する追い方で相手の選択肢を狭めるとともに、パスの受け手にもエスパルスの選手がタイトにマークします。
これにより、エスパルスは大分に最終ラインからのロングボールを蹴らせることに成功。長いボールはファンソッコらがことごとく跳ね返し、間延びした相手の陣形を突いてセカンドボールも回収。前半は相手を押し込み、優位な形で先制にも成功します。
4.失点シーン
エスパルスの狙い通りに進んでいた前半を経て、後半はスコアを五分に戻したい大分が、やや前からのプレッシャーを強めてきます。やや押し返される時間が長くなったものの、大きなピンチを作らせずに対応します。
こうした中、終盤に2失点を喫するわけですが、この伏線は雷雨中断後の大分の選手交代にありました。
大分は、再開後に一気に4人の選手を入れ替え、ボール保持時のシステムを4-1-5から3-2-5に変更。これにより、エスパルスは相手ボランチへのマーカーが曖昧になり(上図)、相手が前を向いてボールを持つ時間が長くなります。
ボランチ経由の展開を許さなかった前半は、竹内・ヘナトは背後(CB-CHのライン間)のケアに専念できましたが、ボランチが前に出てきたことで狙いが絞れず、対応が後手になります。
上図は1失点目の場面。
まず、竹内が相手トップ下の動きに引っ張られ、ディフェンスラインに吸収されているのがわかります。この動きによってできた中央の広大なスペースに相手の侵入を許し、フリーな状態でスルーパスを出させてしまいました。
相手の動きについていけなかったヴァウドの「集中力の欠如」がなかったとは言えませんが、相手が自由にパスを出せるシチュエーションを作ってしまったのは、システムの噛み合わせの不利を突かれたためであり、失点の大きな要因といえます。
上図は2失点目の場面ですが、ここでは鈴木(左WGの西澤と交代で投入)が相手ボランチをマークしています。
カルリーニョスがプレスをかけているため、チームとしては連動して前からフタをしにいきたい場面ですが、鈴木が本来のポジションにいない(ボランチを見ざるを得ない)ことで、サイドに開いている相手の右CBがフリーになっています。これを見て、竹内が持ち場を離れてプレッシャーをかけにいきますが、空いたスペース(1失点目と同じところ)に入ってきた相手にパスを出され、フリックから立田の裏を使われてしまいました。
立田は、ここで前に出るかステイするか、非常に難しい判断を迫られたと思います。後から見れば「ステイすべき」なのでしょうが、このスペースで相手に前を向かれてしまっては、同じような結果を招いたと考えられます。
5.今後に向けて
この試合に限らず、「自分たちの形」に持ち込めた場合は、非常に力強い戦いを見せてくれます。それは当たり前なのですが、エスパルスの場合、それが偶発的ではなく、再現性を持ってできていることが、前に進んでいる証明だと思っています。
一方で、システム変更などにより相手が狙いを変えてきた場合の修正においては、まだまだ成熟度が不足していることも浮き彫りになりました。
クラモフスキー監督は、前回のレビューでも触れたように「自分たちのアクションで相手を動かし、スペースを作って使う」サッカーを目指しているように私には見えます。このサッカーは、相手のシステムに関係なく、自分たちの動きで相手を崩すことができる一方で、ピッチ内の選手の判断がなにより重要になります。
ピーターさんは、ある程度の「型」を提供しながらも、最終的な判断は選手に任せ、判断力を育てているように感じます。それはボール保持時だけではなく、守備の面でも同じことです。
相手の狙いを受け止め、短い時間で適応する。それが攻守ともに身についたとき、チャンピオンへの道が開けるはずです。道のりはまだまだ長いですが、狙いを持ったプレーや良いプレーへの拍手を通じて、その道を一緒に歩んでいきたいと思います。
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