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【エスパルス】2020年J1第9節 vs札幌(H)【Review】

長かった梅雨の時期を経て、猛暑日が続く本格的な夏を迎えた静岡県の気候と同じように、エスパルスも地盤を固める時期から、自分たちのスタイルで相手と対等以上に戦える成長軌道に移行してきたように思います。

今節の相手は、ペドロヴィッチ監督のもと、独自のスタイルを確立している札幌。どうしても昨年の大敗(0-8)がクローズアップされますが、双方とも昨年とは異なる姿を見せる中で、エスパルスはどんな狙いを持って戦ったのか。また、札幌の狙いをどのようにくぐり抜けたのか。そんなところを考えていきます。

1.スタメン

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エスパルスは第8節・浦和戦からメンバー変更なし。このメンバーで試合を重ねるごとに、チームとしての連動した動きが徐々に成熟し、個々の特徴をより強く表現して弱みを補う関係ができてきているように見えます。

対する札幌は、もはやミシャ式として定着した3-4-2-1ですが、今節から鈴木武蔵が復帰。昨年苦しめられたジェイと福森の不在を、札幌はどのように埋め合わせてくるのでしょうか。

2.前半

(1)エスパルスの狙い

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私はエスパルスのサッカーを「自分たちのアクションで相手を動かし、スペースを作って使う」と表現していますが、具体的に起こすアクションは、相手の陣形や守備の方法によって毎試合変わります。

ここ最近の札幌は、局面の1vs1を制することで試合全体を掌握する、いわゆる「マンツーマン」をベースとした守備戦術を採用しています。この試合でも、札幌は上図のようにマーカーをハッキリさせ、高い位置からプレスをかけてきました(上図)。

マンツーマンを採用するメリットは、相手の前線の選手に後ろを向いた(相手を背負った状況での)プレーを強要することで、ゴールへの推進力を削ぐとともに、相手の時間とスペースを奪い、常に先手を取った守備ができる点にあります。また、マンツーマンは個の力が強調される側面もあるので、ボールを奪う力のある選手が揃っている場合は、より長い時間にわたり自分たちの土俵でゲームを進めることができます。

そういえば、オシム監督下の日本代表もマンツーマンで守備をしていた時期がありましたね。ただしその頃は、リスク管理のために最終ラインには必ず1枚余らせていました。相手に1vs1を剥がされて前を向かれてしまうと、途端に数的不利の状況に追い込まれてしまうからです。体格に劣る日本の選手の特性を考慮した意味もあったのでしょう。

では、エスパルスはどんな狙いを持って札幌の守備を切り崩そうとしたのでしょうか。

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一般的に、マンツーマンへの有効な対策としては

①選手同士のポジションを入れ替える(空いたスペースを活用する)
②1vs1のミスマッチを起こす(局面の勝負を制する)

などが考えられます。

上図は、この試合で出現した、①のポジションチェンジを活用した事例の1つ。ポイントは「ボールホルダーに前を向いてプレーさせること」にあります。

まず、西澤が前線から相手を引き連れて下りてきたところで、ボールホルダーの竹内が縦パスを入れ、リターンを受けます。注目すべきは、これに呼応してファンソッコが高い位置を取り、カルリーニョスが西澤がいたポジションへ流れていること、そしてパスを出した竹内が、ファンソッコがいたポジションへ動き直していることです。これにより、ボール付近の全員のポジションが入れ替わり、ボールホルダーが前進しています。

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竹内は、ファンソッコがいた場所へ動き直したことで、カルリーニョスへのパスコースを確保。縦に楔のパスを入れ、すぐさま自身は裏のスペースに向かってスプリントします(上図)。
カルリーニョスは、敢えてファーストタッチを自陣の方向へ大きめに出し、相手CB(宮澤)を札幌陣内から引きずり出します。そして、竹内と入れ替わってCHの位置にいる西澤にパスを落とし、西澤はダイレクトで裏のスペースにロビングを送ります。

竹内は以前から前線への走り込みを度々見せていますが、空いているスペースの把握(認知)と機動力に長けている選手です。また、ヘナトも広範囲に動ける機動力とスピードを持っています。このようなCHの機動力を活かした、3列目からの追い越しが何度も見られました。

先ほどの場面では竹内のクロスが乱れましたが、この形を作れれば、ゴール前は2vs2の数的同数で、ゴールの可能性も高まります。
なお、前半終了間際、金子がPKを取った場面も、きっかけは左サイドからのグラウンダーのクロスでしたが、ゴール前に入った金子・後藤の動きを見てみると、後藤がニアサイドに、金子がペナルティマークのあたりに動いているのがわかります。この2人の動きもパターン化されており、崩しからフィニッシュの形がチーム内で浸透しているのが見て取れます。(あとは精度が…)

ちなみに、上の図でカルリーニョスが用いた「落としのパス」は「レイオフ」と呼ばれます。これ以外にも、ファンソッコが斜めの楔を入れ、後藤→竹内へのレイオフから西澤やカルリーニョスが裏を狙うパターンなど、左サイドはグループでの攻め筋が多彩です。このあたりは日頃のトレーニングの成果と言えるでしょう。

(2)札幌の狙い

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札幌は、前線にジェイのようなタメを作れるプレイヤーを欠く状況下で、マンツーマンディフェンスで奪ったボールを素早く前線に展開し、相手の守備の手薄さを突く攻撃を志向していますが、ボール保持時にはピッチを広く使った攻撃を仕掛けることもできます。
エスパルスの4バックに対し、5枚の攻撃力をぶつける4-1-5の形から、鈴木武蔵・駒井の裏抜けや荒野の持ち上がり、チャナティップ・ルーカスの仕掛ける力を存分に活かした攻撃を展開します。

これに対し、エスパルスは高い位置からプレッシャーをかけ、ボールの出しどころを制限。精度の低いロングボールを蹴らせてセカンドボールの回収を図ります。また、片方のサイドへボールを誘導することで、高い攻撃力を持つルーカスへのサイドチェンジを阻害します。

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エスパルスは、高い位置からのプレスを回避されてしまった場合は自陣でブロックを作りますが、CH脇(上図の丸で囲ったところ)を使いたい札幌に対し、西澤がまず中盤のラインに戻ることが徹底されていました。
これにより、CH(竹内・ヘナト)が荒野から鈴木武蔵とCH脇への双方のパスコースを切ることができますし、ルーカスにボールが出ても2vs1で対応できます。

ピッチを広く使って攻めたい札幌に対し、狭い方向に追い込むエスパルス。前半は、このように札幌の狙いに上手く対応し、比較的エスパルスのペースで試合を運ぶ時間が長かったように思います。

3.後半

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後半、札幌は冒頭からフィジカルに優れるドウグラス オリヴェイラを投入。前線を2トップに変更し、ボールの収まりどころを作ってきました。

開始早々、鈴木武蔵の素晴らしいFKで同点に追いつかれますが、これは前半から度々見られた不用意なファールを与えたことを反省するべきでしょう。
エスパルスも西澤の素晴らしいキックによるセットプレーが武器になっていますが、セットプレーの成否は8割がキッカーの精度によるとも言われています(出典は不明…中村俊輔の言葉?)。ボールを保持する時間を長くすることは、相手を自陣のゴールから遠ざけ、セットプレーのリスクを軽減することにもつながります。

さて、後半18分に田中が退場してからは、時間を追うごとに数的優位のメリットを発揮し、押し込む時間が長くなります。
この退場を呼び込んだのは、先にマンツーマン対策として挙げた②のミスマッチでしょう。相手こそ違えど、最前線のカルリーニョスは随所で1vs1の強さを見せていました。退場のきっかけとなった場面でも、解説の戸田さんが「背中にも目がついているよう」と表現したように、相手のアプローチを瞬時に把握し、一瞬早く体を入れてターンができるあたりは、欧州で結果を残してきた彼の強さを感じます。

このほかにも、ヘナトはマッチアップしたチャナティップをほぼ完封し、強烈なミドルシュートまで披露。エウシーニョは背後の相手をもろともせず巧みにボールをキープ、神出鬼没な動きで何度もゴールに迫りました。
ヴァウドはシュートをことごとくはじき返し、後藤や金子はいつも通りチームに欠かせない献身的な仕事を、西澤・ファンソッコは高いレベルで連動したプレーを見せ、立田は裏に抜けそうなボールを長身で何度も防ぎ、梅田はビルドアップの面で確かな成長の跡を見せてくれました。

エスパルスの志向するサッカーに、全員の良さが噛み合った、今シーズンでも指折りの好ゲームだったと思います。

4.今後に向けて

今節のようなハイテンポでオープンな(ボールが敵陣と自陣を頻繁に行き来するような)展開は、エスパルスの力が出しやすい反面、テンポを落としてスペースを埋めてくるような相手に対し、しっかり自分たちのサッカーが貫けるのか。とはいえ、「今目指しているサッカーが間違っていない」という自信も、結果が出ることで徐々に確信に変わるはずです。

もはや欠かせない選手も多くなってきましたが、過密日程でもあり、今後ますますチーム全体の総合力が問われることになります。ニュースターの台頭や、河井さんの完全復帰も待たれるだけに、次節のルヴァンカップ・鹿島戦もただの消化試合にすることなく、強いエスパルスを見せてほしいと思います。


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