【エスパルス】2020年J1第12節 vs横浜FC(H)【Review】
過密日程の中、現状のベストメンバーで挑んだ横浜F・マリノス、ポステコグルー監督との師弟対決は、打ち合いの末3-4の敗戦。
積み上げた共通理解や選手層の差は大きいものの、今できることを表現し、死力を尽くした堂々たる戦いぶりは、今後への期待を膨らませるものとなりました。
それから中2日で迎えた今節、酷な真夏の連戦でも、クラモフスキー監督はスタメンを大きく変更しませんでした。
この試合に臨むにあたって、監督の意図はどこにあったのか。また、試合を通じてどんな学びを得て、どんな課題が浮かび上がったのか。自分なりの目線で整理していきたいと思います。
1.スタメン
エスパルスは第11節・横浜FM戦から、右SBのみ変更(奥井→金井)。ポジション争いで1歩抜け出した感のあるエウシーニョを欠く中、比較的オープンな展開が予想される試合では運動量に優れる奥井を、それ以外では金井をチョイスしているように見えます。
対する横浜FCは、ここまで2連勝と波に乗る中、GK六反が契約上の問題で出場できず、静岡学園出身の南が先発。このほか、CH(瀬古→手塚)、FW(一美→斉藤)が前節から入れ替わっています。
双方とも初期配置は4-2-3-1の同型ながら、攻守の形は異なります。どんな違いがあり、どのように得失点につながったのか見てみます。
2.双方の狙い
(1)エスパルスの狙い
エスパルスはいつも通り、まずCB同士が距離を取ってGK・CHとともに菱形を作ることで、相手のファーストディフェンダーに対する数的優位とパスコースを確保し、ボールを前に進めようとします。
左サイドは、パスの出し手として優れた能力を持つ立田や竹内を起点に、サイドを上下動するSB(ファンソッコ)や、WG(西澤)の下りたり中に入ったりする動き、トップ下(後藤)が中間ポジションや裏を狙う動きを組み合わせ、相手を縦横に揺さぶってスペースを作り使う形がメイン。
一方、右サイドは、SB(金井)が相手SHの裏(CH脇)に入り込むことでWG(金子)へのパスコースを創出するとともに、相手のCB-SB間を狙います。
こうしたエスパルスの狙いに対し、横浜FCはボール非保持時4-4-1-1の形で、まず相手CF(皆川)が片方のCBにプレスをかけてサイドを限定し、相手トップ下(斉藤)はCH経由の展開を牽制。ボールをSBに誘導したところで相手SHが激しく寄せ、ボールを奪いに来ました。
エスパルスは、CBの運ぶドリブルや、CHを使ったパス&ゴーで相手を剥がしにかかりますが、相手の守備の第1ラインを越えても、横浜FCは第2ラインとなる中盤が規律正しくスライドして、中央のスペースを封鎖(上図)。
なかなか中間ポジション(相手の中盤のラインと最終ラインの間)が空かないため、左サイドのローテーションのスイッチとしても機能していた、西澤が得意とする「下りる動き」を封じられ、後藤やファンソッコの動きも連動性を欠き、左サイドからの攻撃は停滞を余儀なくされます。
ならばと右から攻めようとしても(上図)、金子のところまでは比較的容易にボールを運べるものの、戦力のリソースを左側に割いている分、攻撃の迫力には劣ります。そこでヘナトが加勢し、彼の追い越す動きや持ち上がりで攻撃に厚みをもたらそうとします。
前半12分にファールをもらったシーンは上記の典型ですが、ポゼッションから大きなチャンスにつなげる場面は限定的でした。
前半はとくに、相手のソリッドな守備ブロックに苦しめられます。コンディションが万全ではないこともあるのでしょう、守→攻への切り替えやパススピードも遅いように感じられ、相手のブロックの外でボールを回す時間が多かったように思います。
(2)横浜FCの狙い
横浜FCは、2CB+2CHによるビルドアップ。エスパルスはボール非保持時、相手CH経由のボール回しを警戒してか、前半の半ばまでは2FWが相手CBへのプレスを自重し、相手CHへのパスコースを切る形で迎えうちます。
ここで厄介だったのが、相手CH(佐藤)が最終ラインに下りる動き(上図)。こうなると、相手の最終ラインに対してエスパルスの2FWは数的不利となるため、どちらかが迂闊に出て行くと、サイドを変えられるなどして前進を許してしまいます。
そこで、竹内が持ち場を離れてプレスに行きますが、横浜FCはCHやSHの動きを使って、竹内が元々いたスペースを巧みに突いてきます。
前述の佐藤から手塚が直接パスを受けて展開するケースの他にも、手塚がSHからの落としのパス(レイオフ)を受けるパターン(上図)、手塚がエスパルスの2FWをピン留めしている間にSHに縦パスを通し、トップ下やSBと連携して突破を目指す場面(下図)など、エスパルスは横浜FCの多彩なパスルートを阻害できず、守備が後手に回ります。
西澤を引きつけて守備の基準点をぼかすようなマギーニョ・松浦の位置取りなどもよく練られていて、横浜FCのボールの動かし方は、理詰めでキッチリと仕込まれていたように感じました。
3.スコアが動いたシーンを検証
(1)横浜FCの1点目
この試合を通じて、エスパルスは横浜FCの8番(佐藤)のゲームメイクに苦しめられますが、1失点目の場面も彼のポジショニングが光りました。
エスパルスの2FWに対し、2CB+CHで数的優位となる横浜FCは、佐藤が中盤で受け手に回ります(上図)。このとき、彼が西澤とヘナトの中間に位置取ったことで中央へのパスコースが空き、ノープレッシャーで持ち上がる伊野波から斉藤へ難なくパスを通されてしまいました。
斉藤のシュートはエスパルスにとっては不運でしたが、斉藤にパスを通された時点で3vs3を作られてしまっては、失点も必然でしょう。
(2)エスパルスの1点目
翻って、エスパルスの得点シーンを見ていきます。
プレスラインを下げた結果、相手の圧力を受け止めきれなくなっていたエスパルスは、失点を許した直後の飲水タイムを経て、いつものように高い位置からのプレスにシフトします。
上図のように、カルリーニョスがサイドを限定し、後藤が相手CHをマークし、WGがSBへのパスコースを切りながら、相手CBに強くアプローチします。
やむなく下りた相手SHにパスが出たところを竹内やヘナトが狙い撃ちしたり、相手にロングボールを蹴らせてセカンドボールを回収したりして、主導権を握ろうとする守り方です。
得点シーンも、まさに狙い通りの形。
ここではGKの南がボールを持っていますが、徐々にパスコースの選択肢を狭め、苦し紛れに相手SHに出したパスをヘナトが力強く奪取。守→攻の切り替えに優れる金子の持ち味を活かしたゴールにつなげました。
(3)横浜FCの2点目
ところが、喜びも束の間、エスパルスは前半終了間際に失点。そのきっかけも、やはり佐藤から。
ボールの取り合いを経て、一旦はブロックの外に追い出したエスパルスでしたが、マークの付きづらいポジションに立っていた佐藤を起点に、マギーニョが精度の高いクロスを上げる時間を作られてしまいました。
右サイドで数的不利に陥る状況は、この試合の前半で何度も見られました。皆川に前に入られてしまった岡崎の対応も失点の一因ではあるかもしれませんが、この状況はチームが生んだものです。
(4)横浜FCの3点目
ここまで来たので、後半の3失点目にも触れておきましょう。
相手にボールがわたる直前の場面を振り返ると、エスパルスは右サイドでボールを持っており、ボールホルダー(金井)の近くには、冒頭で触れたように金子・ヘナトが絡んでいて、厚みをもたらしています。
ここで金井はクロスを上げるのですが、中に4人いるとはいえ、カルリーニョスにピンポイントで合わせるボールでないと、ゴールを得るのは難しい状況といえます。
後方の金子・ヘナトを使って、攻撃をやり直す選択肢もあったように見えますが、無理気味に上げたクロスは案の定相手にクリアされます。
エスパルスのリスクマネジメントの拙さもあり、佐藤にセカンドボールを拾われてからゴールを許すまではあっという間でしたが、決してボールを失うべき状況ではないのに、安易に相手にボールを渡してしまうようなプレーの選択に問題があったのではないかと、個人的には思います。
4.今後に向けて(考察)
(1)監督の意図
試合後の監督のコメントを見ても、前半の冒頭のように、相手CBにボールを持たせて自陣にブロックを敷くような守備を志向しているとは思えず、前線からのプレスを自重したのは、コンディション等を考慮した、選手自身の判断だったとも考えられます。
【試合後の監督コメント】
前半の入りで、あまり良いパフォーマンスが出せなかったが、(前半の)終盤に入って自分たちの戦いができて、何とか追いつくことができた。
(中略)
守備の形のところや、原則は自分たちがこれまでやってきたものがある。ただ、今日はポジショニングを外してしまうところがあった。そこは改善しなければいけない。
中2日で、選手たちがどこまでゲームモデルを完遂できるか。また、フィジカルコンディションを高めるためのトレーニングの成果がどの程度出るのか。そんな「メンタル・体力」を試す場、という位置づけもあったのではないでしょうか。
(2)この試合で得た「学び」
前半の終盤および後半の選手交代後のハイプレスは、選手間の連動性もみられ、控え組も含めたチーム全体としてコンセプトが共有されている様子がうかがえました。
横浜FCのように、ある程度確立されたビルドアップの型を持つチームを相手に、相手の時間を奪う守備ができたことは、間違いなく好材料です。
(3)この試合で浮き彫りとなった「課題」
①攻守両面でボランチが背負う過大な負荷
竹内・ヘナトには、攻撃では前線と連携し、時には前の選手を追い越して、得点に絡むこと、守備では前線からのプレスによって中央にできる広大なスペースを埋めながら、CB-SB間を埋める仕事まで求められています。
とくにヘナトは、守備では竹内が積極的にプレスを仕掛ける分、その背後のスペースを1人で埋めており、2人分以上の仕事を1人でこなしている状況です。リスク管理をヘナトの個人能力に依存していると言い換えてもいいと思います。
これは攻撃を前線に依存できない(グループでの崩しを志向する)が故に生じる問題でもあり、クラモフスキー監督がどう解決するか見てみたいところです。
②攻撃のバリエーションの少なさ(とくに右サイド)
高い位置で相手からボールを奪い、ショートカウンターの形で得点する上で、金子のトランジションの早さは捨てがたい武器です。
一方で、ポゼッションを前提にしたとき、前述のとおり右サイドは攻撃にかけられるリソースが少ないこともあり、個で相手を剥がせる選手が欲しくなるのも事実です。
この点は、時間帯による戦術の使い分け(途中交代の選手の活用)や、若手を中心とした新戦力の台頭に期待しましょう。
(4)まとめ
最後の方は主観で好き放題を言ってしまいましたが、試合の中で起きていた現象は客観的に評価する必要があります。今節は、コンディション面の不利はあったとしても、現時点では横浜FCとは組織的な面で差があったと認めざるを得ませんでした。
とはいえ、チームはいろいろな可能性を模索しながら、強固な地盤と立派な家を作るための作業の真っ最中です。恐らく次節は、多少メンバーも入れ替わり、進化を続けるエスパルスが見られるでしょう。
我々に失うものはありません。目指すべきサッカーを貫き、首位相手にも「できること」を全力でぶつけてやりましょう。その繰り返しの先に、輝かしい未来があると信じています。
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