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【エスパルス】2020年J1第13節 vs川崎(A)【Review】

試合中の記憶を思い起こすのが憚られるほど、首位・川崎に圧倒的な実力の差を見せつけられた今節。昨季の王者・横浜F・マリノスを相手に勇敢な戦いを見せたチームとは思えない、消極的な姿をさらけ出してしまいました。

公式記録の被シュートは33本、試合後は選手からも現状を憂う厳しいコメントが出るなど、チームは再び壁にぶち当たったように見えます。それでも、「RE-FRAME」を掲げる今季は、できたことは自信にしつつ、できなかったことからは目を背けず、全てを教訓にして前に進まなければなりません。
そんな強い気持ちで、この試合のトピックを簡単に振り返ってみます。

1.スタメン

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エスパルスは第12節・横浜FC戦から、GK(梅田→大久保)、左SB(ファンソッコ→奥井)、右CB(ヴァウド→岡崎)、トップ下(後藤→中村慶)の4枚替え。過密日程にも関わらず、メンバー変更を最小限にとどめた前節のマネジメントはどう評価すべきでしょうか。また、怪我の情報がなかったGKの変更は意外でした。

対する川崎は、水曜日からの中2日を考慮して、メンバーを大きく変更。それでも相手に脅威を与えるには十分な、選手層の厚さを感じさせます。また、負傷していた中村憲剛が久しぶりにベンチに入りました(エスパルスがこういう節目の試合に弱いのはご愛敬)。

エスパルスの初期配置は4-2-3-1、川崎はアンカーを置く4-1-2-3。中盤の並びの違いがどのような影響を与えたのか、まずはそこから見ていきましょう。

2.前半

(1)ボール保持の局面(ビルドアップ)

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川崎はエスパルスのビルドアップ部隊(GK+2CBの3枚)に対して、CF+両WGが数的同数のプレスを敢行。両WGが外側のパスコースを切りながらプレッシャーをかけることで、ボールを中央に閉じ込めます(上図)。
中盤は、川崎が逆三角形の配置を取ることでマークが噛み合っている状態。従って、エスパルスがパスワークによってプレスをかいくぐるには、浮いているSBを使うか、ビルドアップ部隊の数を足す必要があります。

この日のGKは、シュートストップに定評があるものの、繋ぎの技術には相対的に劣る大久保。序盤からSBへのスキップパスを試みますが、なかなか精度が安定しません。ボールを前に進められないエスパルスは、次第に最終ラインに中盤の選手が1枚下りてくることが多くなります(下図)。

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竹内がいた場所には、トップ下から中村慶太が下りてボールを引き出そうとします。また、ヘナトが中央寄りにポジションを取り、西澤が相手IH(旗手)背後のハーフスペースに入るとともに、状況に応じて金井がCHの位置に(いわゆる偽SB)。左サイドで高い位置を取るのは奥井の役割。

ただし、相手を見ながらこのポジションを取れるようになったのは前半30分を過ぎたあたりから。序盤は川崎のプレッシャーを正面から受けてしまい、前線の選手も ”顔を出す” 動きが少なかったように見えました。

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この試合、ビルドアップの出口でリンクマンとして重要な役割を担っていた後藤を欠く中、私は個人的に中村慶太の動きに注目していました。

第8節・浦和戦のレビューでも指摘しましたが、彼は基本的にボールを持ってプレーしたい選手なので、しばしばボールを受けるためにポジションを下げます(上図)。しかし、こうした動きは、中央の高い位置でボールを奪いたい川崎には好都合で、相手の圧力を強めることにつながってしまいます。
また、後藤がライン間に入ったり、裏を狙ったり、絶え間なく動くことで担っていた「スペースを作って、使う」スイッチャーの役割もいなくなってしまいます。これもビルドアップを困難にした原因の1つかと考えられます。

さらに、この下りる動きは、立田のスペースを狭めることに。ここ最近、急成長を遂げている立田なら、1対1のプレスであれば剥がしてボールを前に送る力があります。もし中村がもう少し我慢してライン間にとどまっていれば、立田の縦パスから中村が前を向ける、迫力のある攻撃の場面を増やすことができたかもしれません。
実際に、36:45の立田→竹内→奥井→中村のパス交換は非常にスムーズで、狙い通りの展開だったのではないでしょうか。

(2)ボール非保持の局面(プレス)

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川崎のピッチの使い方は「攻めるときは広く、守備は狭く」。
川崎のビルドアップは2CB+アンカーから始まりますが、相手のプレスの掛け方に応じて、IHが下りてきて数的優位を確保。同時にSBが高い位置を取り、幅を取っていたWGが中央のライン間へ(上図)。
1人が下りれば、もう1人が上がる、この関係性でスムーズなビルドアップと攻撃の厚みを両立。この動きにより、エスパルスはSBが相手のWG・SB双方を見る必要に迫られ、サイドは常に数的不利の状態を強いられます。

これに対し、エスパルスは相手のビルドアップ部隊(2CB+アンカー)をカルリーニョス1人で見る形。中村はアンカーを牽制こそすれ、相手が自陣に入ってくるまでプレスを自重(スタミナに不安があったのでしょうか…?)。
最終ラインを高く保っているにも関わらず、パスの出し手となる相手の2CBに全くプレスがかからず、自由にボールを持たれる時間が続きます。

カルリーニョスは、守備のタスクを真面目に遂行し、チーム随一のスプリント回数を誇るだけではなく、単騎でプレスに行くような無駄な動きも少ないクレバーな選手です。
通常、ファーストディフェンダーとなる彼の動きに連動して全体がプレスをハメにいきますが、彼がステイしていた事実こそ、後方の連動性がなかった証左ではないでしょうか。

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上図のように、川崎はCBが自由を得ているため、IHがライン間での仕事に集中できます。高い位置を取るSB、最前線から下りてくるCFなど、パスコースも無数にあり、WGや逆サイドのIHも最終ラインの裏を常に狙っている状態。

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また、上図も前半によく見られた形。相手WGがエスパルスのSBをサイドにピン留めし、大きく開いたCB-SB間をIHが抜けていきます。
このシンプルな形が、立て続けに2回見られました。

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さらに、上図は下りてきたIHからの展開の1例。サイド攻略のお手本のような動きですが、エスパルスは為す術がありません。

こうして、ボールの出所を制限できないエスパルスは、前半だけで17本ものシュートを浴びることになりました。問題は、やはり2列目の選手の緩慢な守備にあったと考えます。

3.後半

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ハーフタイムでクラモフスキー監督の檄が飛んだのでしょう。後半は、トップ下の中村が前に出て、いつも通りの高い位置からのプレスが機能し始めます(上図)。
パス回しには一日の長がある川崎ですが、少なくとも大島・中村憲剛などの主力級が出てくるまでは、五分の展開には持ち込めていたと思います。

【ハーフタイムの監督コメント】
・ボールをしっかりキープして、繋いでいこう
・高い位置から連動してプレスをかけること
・良い距離感をとったポジションを意識すること

(後半6分:2失点目のシーン)

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2失点目のシーンだけ、簡単に振り返ります。

川崎の強みは、パス回しの技術もさることながら、攻→守・守→攻の切り替え(トランジション)の早さにあります。これこそが、前述の「攻めるときは広く、守備は狭く」を可能にしています。

上図の局面は、失点の直前、竹内がボールを失った場面。ここで守田が顔を上げた瞬間には、左サイドから登里が前線に駆け上がっています。そして、数的同数を確保したまま、あっという間にエスパルスのゴール前へ。
エスパルスの選手も懸命に戻りますが、全員が戻ってくる前に仕留められてしまいました。こうした攻守の切り替えにも課題がありそうです。

(後半16分~)※選手交代:西澤→ドゥトラ、金井→石毛

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2失点目を喫したエスパルスは、選手交代で前線の迫力を増そうとします。後半16分の交代で入った2人は、いずれも本来のポジションから中央に入ることで、攻撃に厚みをもらたします。

(後半27分~)※選手交代:竹内→河井、金子→鈴木

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さらに後半27分、(待ちに待った)河井と鈴木を投入。今度はこの2人がライン間の仕事を担います。

河井は高い位置にとどまり、リンクマンとして「スペースを作って、使う」役割を全う。運動の強度が低い(と見られている)ことが試合から遠ざかっている理由なのでしょうが、ボールの中継役としてのポジショニングや受ける技術は健在でした。上図にその展開の1例を示します。

4.今後に向けて

自分たちのスローインから不用意に与えた3失点目、意思の疎通を欠いた、あまりにも勿体ない4失点目、三笘1人にやられた5失点目は、もはや説明の余地もありませんが、前半から自分たちのやるべきことができておらず、相手に自由を与え続けたことが招いた結果だと思います。

また、クオリティの差を嘆く前に、チーム全員が共通認識として頭に描いて実行すべきゲームモデルを表現できなかったことを改善すべきであり、結果云々よりもチャレンジしていなかった(ように見えた)のが心底残念です。
冒頭の繰り返しになりますが、横浜F・マリノスを相手にしたときはできていたことなのに…と、どうしても思ってしまいます。

とはいえ、これまで積み上げてきたものがなくなってしまったわけではありません。川崎との差を痛烈に実感したであろう選手たちも、その差を埋めようと、練習から死にものぐるいで取り組んでくれるはずです。

頂点への道のりは、予想していたよりもはるかに長く険しいようですが、登ったときの景色を想像して、目の前のサッカーを楽しみましょう。

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