【エスパルス】2019年J1第26節 vs名古屋(H)【Review】
フライデーナイトJリーグと銘打って15,000人超の観客を迎えた一戦は、ホームで大敗した直近2戦の鬱憤を晴らす逆転劇。中位にとどまれるか、残留争いの泥沼にはまるか… チームの浮沈にかかわる大一番を制し、エスパルスは勝ち点3を積み上げることができました。
その差こそわずかですが、ここで負けていればJ1参入プレーオフ出場圏内の16位・鳥栖と勝ち点差2(15位)だっただけに、勝利の価値の大きさがわかります。今回は、エスパルスがそんな貴重な勝利を得た要因と、今後の課題について、時系列で振り返ってみたいと思います。
1.前半の戦い方
(1)エスパルスの狙い
両チームのスタメンと、システムの噛み合わせは下図のとおり。
システムはお互い4-4-2なので噛み合っていますが、当然どちらも狙いを持って相手の守備を外しにかかります。
下図は前半5分、エスパルスのビルドアップ。竹内がディフェンスラインの中央に下りて、相手の2FWに対して数的優位を確保します。これは最近よくある形ですが、ここで注目すべきは名古屋の選手たちのポジショニング。
基本的に名古屋のSH・SBは、エスパルスのサイドの選手に対してマンマーク気味のポジションを取っており、中央のヘナトにもCH(ネット)が引きつけられています。この瞬間のシミッチの立ち位置も謎なのですが…(この局面の前に1度二見にボールが行っているため、そこからの西澤へのパスコースを警戒すべくスライドしたと思われる)
こうした名古屋の守備により、トップ下の位置からCH脇に下りてきた河井の周囲には広大なスペースが。竹内からボールを受けたファンソッコは、河井にパスをつける選択肢(上図②)もありましたが、この場面では名古屋のSB裏に流れたドウグラスへシンプルにロングボールを送ります(上図①)。
エスパルスは、ドウグラスや河井がSB裏・CH脇のスペースを突くことで、2CBが2人の動きに釣られてバイタルエリアを空けることまで想定して、ゴール前にSH(金子・西澤)が走り込む形を狙っていたのだと思います。ここではドウグラスのクロスが丸山に当たり決定機には至りませんでしたが、名古屋の守備におけるウィークポイントをうまく突いた攻撃でした。
直後の前半7分にも、似たような形で名古屋の守備を崩しました(下図)。
ポイントは2点、①この局面に至る前にエウシーニョがタメを作ってシミッチを釣り出していること、②ファンソッコが高い位置でボールを受けて赤崎を引きつけていること。やはりここでも、名古屋の(とくに中盤の)守備の基準が「相手の位置」にあることを利用して、空いたスペースの攻略に成功しています。
※尤も、名古屋(風間監督)は「ボールを奪われないこと」を信条にしているようなので、組織としての守備の決まりごとを厳密に設定していない節もありますが…
この場面では、時間を得た竹内から、神出鬼没の動きを見せる金子(CH間)に縦パスが入り、ハーフスペースの河井を経由して、エウシーニョの裏抜けが成功(これもクロスが引っかかり決定機に至らず)。
実はこの直後の前半8分にも、ファンソッコからドウグラスへのSB裏を狙ったパスでチャンスを作っているのですが…
ホームでのここ2試合、エスパルスはボールを持った(持たされた)状態でビルドアップやリスクマネジメントの不安定さを露呈してきましたが、この試合で安定感をもたらしたのは、その「ファンソッコ」の存在です。
(2)ファンソッコの武器と効果
上図は前半45分、河井の裏抜けが惜しくもオフサイドになったシーンですが、これも上で紹介した2つと同じパターン。
ここで強調しておきたいのは「ファンソッコがボールを持つ位置」です。
先に挙げた前半7分もそうでしたが、彼はSB裏まで見える視野の広さと、ボールを「運ぶ」ドリブルの技術を持っています。CBがボールを運ぶことができると、CHが前を向いて攻撃に関わることができ、攻めの枚数が実質的に1枚増えること、相手にボールを奪われてもFWとディフェンスラインの距離が近いため奪還しやすいこと、などの利点があります。
また、この位置までボールを持ち出すことで、間接的に相手のカウンターの起点となるハーフスペースのFWとの距離を縮めることができ、リスクマネジメントにもなっています。前節(鹿島戦)の1失点目の場面と見比べてみると、同じSB裏へのロングボールでも、ボールを出す位置によってその後のリスクが大きく異なることがわかります。
吉本には彼なりの良いところがありますが、ことビルドアップに関しては、彼は自陣でSBにボールを出してから後ろに下がる(カバーのポジションを取る)ことが多く、これが立田のところでボールが詰まる原因の1つにもなっていました。
今節はSBがエウシーニョでしたが、ソッコが高い位置までボールを運べることで、エウシーニョの攻撃能力を最大限に引き出すとともに、彼が上がった裏の大きなスペースを埋めることもできていました。前半の平均ポジション(下図)を見ても、その効果は一目瞭然。
名古屋の方がボール保持率が高かった(清水46%:名古屋54%)にも関わらず、全体的なポジションはエスパルスの方が高め。右サイドを中心に、相手をしっかり押し込んでいる証拠です。シュート本数も名古屋が上回ったものの、決定機の数(未遂も含む)でいえばエスパルスの方が多く、前半はこちらが比較的ペースを握っていたと言えるのではないでしょうか。
これだけボール保持時の右サイドの攻撃に触れながら、エスパルスの得点はカウンターからの西澤のゴラッソという…サッカーというのは本当に奥深いゲームです。
2.後半の変化
後半に入ると、名古屋は前線のジョーに対してシンプルにボールを放り込む形を増やします。空中戦の強さに劣るエスパルスのCBにとっては、できるだけ避けたい攻め筋。これに対しては、2CBがタイトにマークにつくとともに、松原がしっかり中に絞ってカバーして凌ぎます。
この日の松原は、攻撃ではそれほど見せ場はなかったものの、後半アディショナルタイムのシュートブロックなど、ペナルティエリア内での我慢強いディフェンスで勝利に貢献してくれました。守備面の成長を感じます。
翻ってエスパルスは、ロングボールによってラインが押し下げられるため、前半よりやや低い場所に守備ブロックを敷き、相手が上がってきた裏を狙うカウンター狙いにシフトします。こうした局面で力を発揮するのが「河井陽介」という男。
上図は後半8分、和泉のカットインを竹内・ヘナトが挟んで防ぎ、攻守が入れ替わった場面。竹内はルックアップすると、ライン間で絶妙のポジションを取る河井へパス。河井がここでタメを作って、後ろの選手たちがオーバーラップする時間を創出することで、エウシーニョのミドル(記録上は河井の得点)を生み出しました。
この日は上記のシーン以外にも、河井が良いポジションでボールを受けてカウンターの起点になったり、時間を作ったりする場面が複数見られました。確かに彼には北川のような得点力はありませんが、周囲を活かすことのできる選手。黒子に徹する彼の必要性を、改めて感じた試合でもありました。
この後、名古屋はネット→米本の投入で中盤のバランスを整えるとともに、吉田→前田の交代で右サイドの活性化を図ります。さらに、赤崎→長谷川で中央での高さの創出と拠点作りを狙います。
後半29分、エスパルスの失点シーン(下図)には、交代出場した上記3選手が全員絡んでいました。
丸山の持ち上がりから、ボールはサイドの和泉へ。和泉にボールが出たところで、前田がSB裏へスプリントしており、ソッコを釣り出しています。
エスパルスは金子のプレスバックとエウシーニョの寄せで挟んで奪おうとしますが、取り切れずにボールは自陣深い位置から駆け上がってきた米本へ。
このとき、エスパルスのバイタルエリアの選手(CH)に着目すると、ヘナトはCB-SB間を埋めようと少しポジションを下げていましたが、米本へのプレッシャーがかかっていなかったため、再び前に出て行きます。一方、竹内はジョーへの縦パスを警戒してパスコースを切るポジション取り。二見もジョーに引きつけられているので、長谷川を最も危険な位置でフリーにしてしまいました。
この場面、米本はシュートを打ったのではなく、長谷川に出そうとしたパスが少し浮いてしまったのだと思いますが、いずれにしても長谷川に出ていれば失点は免れなかったでしょう。エスパルスの2失点目は不運な失点に見られがちですが、相手に動かされて守備組織が完全に崩れているのがわかります。
名古屋からすれば替わって入った選手の特徴が出た形ですが、エスパルスはどう対応すればよかったのでしょうか。
まず二見は、ジョーのマークを松原に受け渡して中央に絞る必要がありました。ボールホルダーとゴールを結ぶ直線を埋めるのは、守備の原則における最優先事項です。これにより自ずと松原も中央に寄ることになりますが、問題はその外でシャビエルや宮原がフリーになっていることです。
私見ですが、エスパルスの失点が減らない原因は、このような点にあると思います。なにが言いたいかというと、西澤がファーサイドの宮原をケアしていれば、防げた失点だったのではないかということです。
この試合でも、名古屋が左サイドでボールを持っているとき、逆サイドの大外から宮原が上がってくるため、松原のところで局所的に2vs1の数的不利に陥っていることがありました。前半の1失点目も、西澤が宮原にタイトについていれば、防げた可能性が高かったように思います。
西澤はカウンター時に飛び出していくことを意識して、やや前残りのポジションを取っているのかもしれませんが、松原が中に絞る以上、その外に相手がいるのであれば、SHが戻ってカバーすべきでしょう。彼の攻守の切り替えの早さを持ってすれば、守備をキッチリしてから飛び出していっても、十分脅威になれるはずです。逆サイドの金子にできて、彼にできないはずもありません。
得点という形で十二分にチームへの貢献を見せてくれている西澤ですが、彼がもう少しチームのために走ることで、勝ち点3がより手元に近づき、彼自身ももう一皮剥けて真に欠かせない選手になると思います。
3.今後に向けて
いつも最後の方は愚痴っぽくなってしまいますが、それも選手たちへの期待の裏返しということでご理解いただけると幸いです。
自分の指摘が正しいと断言できる自信はありませんが、強いチームが「最後のひと踏ん張り」でゴールを防いだり、些細なことまで突き詰めてやったりしているのは事実です。そのようなチームになるのは時間がかかることですが、エスパルスは進化の途上にあるはずなので、サポーターとして信じて見守っていく所存です。
次戦は天皇杯ラウンド16・磐田戦。ダービーは結果あるのみ、情けは無用。必ず勝って、元日・新国立への歩みを進めてほしいと思います。
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