【エスパルス】2019年J1第22節 vs松本(H)【Review】 ~
試合後コメントで松本の反町監督が言っていたように、1-0という結果は「決められる選手のいるチームと、そうでないチーム」の差だったのかもしれません。それでも、エスパルスは被シュート数を2本に抑え、2試合連続で無失点を達成するなど、守備に改善の兆しがみられるのも確かです。
松本の狙いに対し、エスパルスがどのように対応したのか、その点に絞って振り返ってみます。
1.システムの噛み合わせの悪さを補う、エスパルスの対応
システムの噛み合わせは上図の通り。
4-4-2を基本とするエスパルスに対し、3-4-2-1の松本は両WBが幅を取って構えます。システムの構造上、松本はDFライン・サイドで数的優位を確保。エスパルスのSHが2つのパスコース(WB・シャドー)を同時に切れないので、これを防ごうと中盤がスライドすれば、逆サイドでフリーな選手ができる仕組み。
このような噛み合わせの不利を補う方法は、原則的に2つ。
1つは、SHをDFラインに当ててピッチ全体で「人が人を見る」方法。
相手のミスを誘ってショートカウンターを狙う積極的な方法ですが、全体が間延びしやすく、ドリブルでプレスを剥がされたり、ロングボールのセカンドが拾えなかった場合に、一気にDFラインが晒される(バイタルエリアを明け渡す)リスクもあります。
もう1つは、FWが相手ボランチの位置まで引き、ブロックを作る方法。
最も危険なバイタルエリアを封鎖して失点しないことを優先する方法ですが、相手のCBにプレッシャーがかからず質の高いボールを送られるリスクや、エスパルスがボールを奪い返した後に相手がプレスをかけやすく、一方的に押し込まれるリスクもあります。
どちらも一長一短ある中、エスパルスが採用した「第3の方法」は、FWをタテ関係にする方法(2つ目の応用)です。
一般的に3バックの相手に上記の方法を取ると、GKを使って逆サイドに展開された場合にFWが長い距離のスライドを強いられますが、エスパルスではスピードが持ち味でもあるドウグラスを前に残すことでGKを使いにくくしています。これにより相手CBには時間が与えられ、ボールを持ち上がることができますが、中央へのパスコースはトップ下とSHが遮断し、ボールをサイドに誘導します。
試合後コメントで反町監督がエスパルスの守備に触れていましたが、ここでいう「Aパターン」はマンツーマン気味に前からハメに行く守備を指し、「Bパターン」は上述のやり方ではないかと推測します。
「エスパルスさんは色々なディフェンスの仕方、形を持っていますが、今日はAパターンではなくBパターンでやってきたので、外で時間を作れたんですよね。その意味では向こうは外に追い込んで、そこで終結させようという狙いどおりだったのかも知れません。」
ただし、これでもWBのところでエスパルス側に数的不利があるのは冒頭の「システムの噛み合わせ」を見れば明らか。実際、ここを起点に、松本はシャドーがエスパルスのSB裏を取りにいったり、阪野に斜めのボールを入れたりして攻略を試みてきました。
これに対し、エスパルスはボランチがボールサイドに寄り、もう1枚のボランチは中央を締める、前節でも見られた得意の「中央封鎖」で対応します。
吉本の加入後、(選手コメント等によれば)ラインの細かな上げ下げやポジショニングに関する的確なコーチングのおかげで最終ラインとボランチの距離感が改善され、「中央封鎖」作戦も相まって、バイタルエリアを侵されるシーンは減少しました。
ただし、エスパルスの守備が「人を見る」傾向が強いのは過去のエントリで触れた通りで、ボランチを使った「3人目の動き」や、逆サイドへボールを振られたときの組織の守り方に依然として課題があるのは確かです。
【ここからが本題】
そんな課題解決のキーマンにして、2試合連続クリーンシートの立役者、それが「トップ下・河井陽介」です。
卓越したボールコントロールの技術や複数のポジションをこなすポリバレントさがクローズアップされることの多い選手ですが、守備面における彼の特徴と、トップ下に入ることによって守備組織にどのような影響があるのか、考えてみたいと思います。
(1)「カバーシャドウ」の巧さ
彼の特筆すべき守備能力の1つが「背後にいる選手へのパスコースを切りながら、前の選手に寄せていく」そのタイミングと立ち位置で、あまり良い言い方ではありませんが、西澤や金子と比べるとその差が顕著になります。
前半20分、松本のビルドアップ。高橋がボールを水本に戻すと、藤田がボールを引き出しに下りてきます。ここで河井は、藤田へのパスコースを塞ぎつつプレスを敢行。
ボールは高橋を経由し、ポジションを取り直した藤田に渡りますが、藤田が一旦下がったことでドウグラスのプレスバックが間に合い、トラップが大きくなったところを竹内と挟み込んでボール奪取に成功。
上記は非常に局所的な事例ですが、河井がカバーシャドウでパスコースを限定し、パスが出たところをCB・ボランチが待ち構えて迎撃する場面は何度も見られました。前半、竹内のパスカットが多かったのも、このあたりに要因がありそうです。
(2)1人で2人をみる守備
前半9分のシーン。藤田を経由して逆サイドに展開されたり、パウリーニョから竹内の背後を使われたりするのが嫌な場面でしたが、相手ボランチへのパスコースを河井が絶妙な立ち位置で遮断。水本は2~3秒の自由な時間がありながら、後方にボールを下げざるを得ませんでした。
この日の河井は、ドウグラスと味方ボランチの間にできたスペースで相手のダブルボランチを1人でみる必要がありましたが、相手の三角形の中心で位置取ることで「空間を支配」し、相手のボランチを経由した攻撃を無効化。エスパルスの「中央封鎖」は味方ボランチを動かす必要がありますが、それによって生まれる中央の脅威を未然に防ぐ上で、トップ下・河井の果たしている役割は大きいとみます。
(3)「河井システム」
後半開始直後、松原のボールロストから松本のショートカウンター。うまく遅らせたものの、ボールがSB裏に展開され、竹内が対応した場面。
杉本にボールが出て、空いたスペースを田中が狙う。ここには松原がついていったので杉本はボールを出せず、後方にドリブルして次の展開を探る。
このとき、FC東京戦のレビューでも触れたように人につく傾向が強い西澤が杉本にフラフラとつられてしまい、ペナルティエリア角の危険なエリアに広大なスペースを空けてしまう。
…しかし、そのスペースを埋めるため猛然と走る、1人の人影が!
相手CBの今井もサイドをオーバーラップしてきますが、河井がスペースを埋めたことで、強固な5-4のブロックが形成されました。
ここで言いたかった「河井システム」とは、将棋の「藤井システム」のような一撃必殺の攻撃の仕組みではなく、河井が中盤に落ちることで形成される守備ブロックを指します。この場面では5-4のブロックでしたが、局所的には4-5の形もみられました。
相手がボールを下げれば、河井はカバーシャドウをかけて相手の時間を奪っていく。これを相手の状況に応じて自然にできることこそ、河井の真骨頂。
基本的に人についていく傾向のあるエスパルスの守備に安定感と強固さをもたらしているのは、こうした河井の守備能力と献身性にあるのではないでしょうか。
2.次節に向けて
次の相手である札幌も、システムの噛み合わせは松本と同じ。そのうえ、個々の能力は一段と上がるため、サイドの構造的な不利に対する具体的な対策が不可欠です。サイドを蹂躙されて敗れた第3節の悪夢(アウェーで●2-5)を繰り返す可能性は十分にあります。
篠田監督の傾向をみると、システム変更の可能性は少ないと思うので、やはり鍵を握るのはトップ下の役割でしょう。とにかく粘り強く戦って、上位に割って入る資格があることを証明してほしいと思います。
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