【エスパルス】2020年YBCルヴァンカップ第2節 vs名古屋(H)【Review】
J1第8節・浦和戦から中3日で迎えた、ルヴァンカップ 名古屋戦。この試合への期待は、ただ1つ。
その期待通り、後半から背番号17が登場。加えて、先日トップ昇格が発表された成岡くんまで初お目見えしました。試合は残念な結果になりましたが、わずかな時間でも「光る」モノを見せてくれました。
本レビューでは、リーグ戦と異なる3バックの採用によりピッチ内で何が起きていたのかを振り返るとともに、未来への明るい兆しをピックアップしてみようと思います。
1.スタメン
エスパルスは、リーグ戦から全員を入れ替え、公式戦では初めて3バックを採用。冒頭は、ティーラシンとドゥトラが2トップ、鈴木がトップ下に入る形(3-4-1-2)に見えました。
あくまで「自分たちからアクションを起こすサッカー」をベースにしているので、ボール保持時に遂行する任務は変わりませんが、リーグ戦のメンバーと比べてどうしても個でボールを運ぶ力や奪い切る力が劣る分、攻守ともにグループで戦う狙いを強調するためのシステムだと思います。
対する名古屋は、リーグ戦でもお馴染みのメンバーが顔を揃えました。怪我人が多いようで、やり繰りにも苦労している様子がうかがえます。吉田・太田の両SBには、複雑な思いもあったりなかったり。
2.前半
(1)エスパルスの狙い
エスパルスは、3バック+CHでのビルドアップが基本形。3バックを採用するメリットの1つは、両WB(奥井・宮本)が高い位置を取ることで相手SBを自陣にくぎ付けにし、これによって広がる相手CB-SB間を攻略しやすくなる点にあります。ただし、そのメリットを享受するには、3バックがWBの力を借りずにボールを前進させる必要があります。
ボール非保持時の名古屋は、青木が前に出て4-4-2のブロックを形成しますが、エスパルスは相手のファーストディフェンダー(山崎・青木)に対して数的優位を確保できている状態です。ただし、この試合では3バック間の距離が近いうえに横並びになっていたため、相手のプレッシャーを受けやすい状態になっていました。
上図のように、相手SH(マテウス)が前に出てくると、エスパルスの左右CB(福森・金井)は正面から相手の圧力を受ける形に。ボールを逃がすにはGKに戻すか、相手を背負っているCH・WBにつけるしかありませんが、非常に窮屈な形です。
そこで、途中からはCH(六平・西村)がハーフスペースに流れて相手のCHを動かすとともに、空いた位置にトップ下から鈴木が下りてきてボールを展開する形(上図)が何度か見られました。
これにより、ボールは前に進むのですが、本来攻撃的な選手がいてほしい場所(相手のライン間)に誰もおらず、攻撃の迫力を欠くこととなります。
最終からのビルドアップで、左右CBがサイドのレーンを活用してWBを押し上げたり、GKを関与させるなどして、前線の選手を使わずにボールを前に進める手立てはもう少しあった気がします。
(2)名古屋の狙い
名古屋のボール保持時は、両WG(相馬・マテウス)が幅を取り、トップ下の青木がリンクマンとなる4-2-1-3の形。ビルドアップでは、SBがあまり高い位置を取らず、CB・CHと三角形を作って第一線を突破にかかります。
相手の3トップに対し、3バックのエスパルスは幅を取る相手WGに対してWBがケアせざるを得ず、5バック化を余儀なくされます(上図)。
それでも高い位置からプレスをかけたいエスパルスは、CFがサイドを限定しながら追い込みますが、WBが引いていることで相手SB(上図①)にプレスがかからない形。そのため、相手SBにはやむなくトップ下から鈴木が、相手CHにはCH(六平)がプレッシャーをかけますが、ワンツーなどでプレスを外されると、CHの背後にある広大なスペース(上図②)を自由に使われます。さらに、逆サイドのSB裏にも大きなスペース(上図③)ができるなど、ボールの奪いどころが定まりません。
サイドでは、相手のSB+WGに対し、エスパルスはWB1枚のみの数的不利。相手WGには左右のCBが対応しているので、相手WGが動くとCB間が空いてしまいます(上図)。
このように、エスパルスはシステムの噛み合わせの悪さが露呈し、名古屋のボール保持に後手を踏み続ける展開となりました。
3.後半
後半、エスパルスは冒頭に河井を投入(おかえりなさい!)。前線の並びを若干変更します。
一方の名古屋も、中盤の並びを変えてシミッチがアンカーとなる4-1-2-3にしてきました。
エスパルスの狙いは、前半は効果的に使えなかった「相手ライン間の攻略」にあったと思います。河井やドゥトラが相手CHの背後にポジショニングすることで、CHへのプレッシャーを軽減し、CHを経由したビルドアップを円滑に進めようとしているようにも見えました。
名古屋の狙いは、恐らくフリーマン気味に動き回るドゥトラのケア。この日はドゥトラの動きがキレていて、仕掛けからチャンスを作るなど目立っていました。手堅いフィッカデンティ監督は、中盤の中央に3枚を配置することで、そのうち1人を「ドゥトラ番」としたかったのでしょう。
この両者の変更(上図)は、どちらかというとエスパルスに得をもたらしたように思います。エスパルスは、相手の中盤の重心が下がったことでビルドアップが容易になり、ライン間に位置する河井へのパスの出し入れにより相手の守備の基準点を惑わせ、後半立ち上がりは押し込むことに成功します。
しかし、そうした矢先に失点を許します。上図は失点のきっかけとなったシーンですが、エスパルスが左サイドからの攻撃のやり直しでボールを右サイドに展開し、大外のレーンを使って崩そうとしたところです。
六平が宮本を追い越して前に出たところを相手にカットされ、カウンターを許した場面ですが、左サイドの攻撃に人数をかけていたことで中盤に大きなスペースが空き、エスパルスの3バックが一発でさらされてしまいました。
ボールを保持し、相手を押し込むサッカーを目指すのであれば、ボールを失った際の回収方法まで計算しなければなりません。その備えは、選手の立ち位置であり、攻→守の切り替え(ネガティブトランジション)にあるわけですが、リーグ戦のメンバーとの差は、リスクを取っても良い状況か否かの判断や、切り替えの意識にあると思います。
4.おまけ
3バックがうまく嵌まらず、全体として劣勢を強いられたエスパルスですが、光明もありました。そのうちの1つが、初のベンチ入りにして出場まで勝ち取った成岡くんの堂々としたプレーぶりと、確かなポテンシャルです。その一端をご紹介します。
↑↑これはまたの機会に…(hirotaさんゴメンなさい、書けませんでした)
上図、中央でボールを持っているのが成岡です。このまま前線までドリブルでボールを運びます。
ハーフラインあたりまで運んだところで、縦パスを狙います(上図)。このモーションからは、大外にいる滝を狙うように見えますし、実際に相手SH(相馬)も外を気にする動きをしています。
ところが、成岡の狙いは中央。相馬とシミッチの間の狭いところに、素晴らしいパスを通します(上図)。
この場面、彼は恐らく相馬が外に注意を向けた瞬間、パスを出す先を切り替えています。私はバックスタンドで観戦していましたが、完全に外に出すと思っていたので、思わず驚嘆の声を上げてしまいました。
(ここからは河井さん)
成岡がパスを出した先には河井。彼は3人に囲まれながら、ファーストタッチを斜め後ろに ”敢えて” 大きめに出し、プレスをかいくぐります。狭い空間でのこのあたりのコンロトールは、さすがと言わざるを得ません。
そして前を向くと、ドゥトラが中央で呼んでいますが…
河井は "敢えて" 相手のライン間にいる六平にパスを出し、後方にフォローに走ります。六平からリターンをもらえれば、中央に楔を打つなり、サイド奥に展開するなり、多くの選択肢を確保できます。このように、シンプルに味方を使い、使われる仕事ができるのが、河井の強みの1つです。
そうはさせじと、六平には名古屋の3選手が囲みに来ますが…
六平は相手の裏をかき、相手SB裏へ走り込む滝へスルーパス。
成岡→河井→六平の機転とアイディアで、名古屋の守備網を崩しました。
成岡くんに話を戻すと、彼が中盤ならどのポジションでもこなせるポリバレントな選手であることは知られていますが、それはパスの出し手としても受け手としても高いレベルの技術を兼ね備えており、自分の役割に応じてそのテクニックを発揮できるからだと思います。
上で紹介したワンシーンからも見えるように、先の展開を見越して敢えて中央にパスを通すプレービジョンや技術は、現時点でも卓越しています。
また、ピッチで年上の選手に指示をしたり、臆せずボールや相手に飛び込んだりする姿からも、「自分がやってやる!」という強いリーダーシップを感じました。
5.今後に向けて
0-3という結果に対する評価は、この試合の意味をどう捉えるかによって変わりうるのですが、振り返ってみると、うまくいかなかった原因は比較的わかりやすく、対策できることだと思いますし、それ以上に未来に向けた好材料が顕在化した、収穫の多い試合でした。
来週(8/12)の鹿島戦は、残念ながら消化試合となってしまいましたが、発展途上にあるチームの成長をさらに加速させるためにも、1人でも多くの選手の輝きを見られる場になることを祈っています。
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