【エスパルス】2022年J1第17節 vs福岡(H)【Review】
第16節・柏戦に敗れ(●1-3)、翌日(5/30)に平岡監督の電撃解任が発表されてから、代表ウィークを挟んで約3週間ぶりに迎えた今節。
新監督にゼ・リカルド氏を迎え、多くのサポーターが期待と不安を抱いて迎えたであろう試合は、ポジティブな驚きとともに、私たちに歓喜をもたらしてくれました。
勝利の裏で、どんなことが起こっていたのか。しばらくレビューを書いていなかったので、リハビリを兼ねて端的に振り返ります。
1.スタメン
フォーメーションは便宜上4-4-2で表現していますが、ボール保持時(4-1-2-3)と非保持時(4-4-2)で可変させる形。
相手が対策してきた後半は押し込まれる時間が長かったとはいえ、チームを指揮してわずか1週間という短時間で、基本的な選手の立ち位置や戦い方の共通認識をしっかり落とし込むあたりは、確かな手腕を感じさせます。
メンバーは前節・柏戦から3人が入れ替わったものの、大きなサプライズはなく、既存の方向性を継続しつつ修正を加えていく考え方がうかがえるスタメンとなりました。
2.スタッツ
スタッツだけ見れば、福岡が優勢に試合を進めたと言えそうですが、早い時間の先制点、前半終了5分前の追加点、1点失った後に突き放す3点目と、少ないチャンスを活かしてエスパルスにとって理想的な試合運びができたこと、権田のビッグセーブをはじめとして要所要所でハードワークし、上手く流れを引き寄せたことが勝利につながりました。
また、スタッツやパスマップ等からも、プレスの開始位置やビルドアップの経路に修正を加えたほかは大きな方向性の変更がないことがうかがえます。
3.試合の流れ
(1)前半(ボール前進のメカニズム)
前半開始早々、ゼ・リカルド監督が施した改善が顕在化します。
ゴールキックの場面。CB・SBがほぼフラットに並び、相手の前線4枚をおびき出すとともに、GK・アンカー(宮本)を加えた6人で数的優位を形成します。
また、神谷・白崎がインサイドハーフとして振る舞い、相手CHの背後にポジショニングすることで、相手を引きつけます(下図)。
ここからボールを動かして前線に運んでいくのですが、相手の動きに合わせていくつかのパターンがあったので、簡単に紹介します。
①相手のCF・SH(下図ではフアンマ・クルークス)が、正対するCB・SB(同じく鈴木義・山原)にプレスをかけてきたとき
このケースでは、後藤・神谷の連動した動きがポイント。
後藤が下りてきて相手SBを引きつけるとともに、その動きで空いた相手SB裏のスペースを目がけて神谷が裏抜けをすることで、相手CHをも動かします。
これにより、福岡の中盤(=宮本の周辺)に広大なスペースが出現。これを利用して、後藤を経由して宮本→白崎と繋ぎ、ボールを運びます。
この場面のもう1つのポイントは、逆サイドでボールを待つ白崎・西澤の立ち位置。ボール欲しさに寄ってきてしまうと、相手まで連れてきてしまうことになるので、敢えてじっと我慢するのが大切です。
(以下GIFアニメ 2枚)
②相手のCF(フアンマ)が、エスパルスのアンカー(宮本)をケアしてきたとき
先ほどは宮本の周辺に大きなスペースができていましたが、宮本を経由したビルドアップを防がれた場合はどうするのでしょうか。
この場合は、CB(鈴木義)が自らドリブルで持ち上がります。なぜこれが可能かというと、ドリブル開始と同時に前線の選手がボールから離れる動き(裏抜け)をして、ドリブルするスペースを作るのがセットになっているからです。
CBが持ち上がった時点で、福岡の中盤はフィルターが2枚しかいないので、前方には複数のパスの選択肢が得られることにもなります。これはチームとしての設計図(どこにどう動けば、相手がどう動き、どこにスペースができるのか)がなければできないことです。
(以下GIFアニメ 2枚)
立田の持ち上がりから始まった2点目も、この形でしたね。
③ 前述①の応用編(SHが高い位置を取り、IHがサイドに流れるパターン)
これも①と理屈は同じで、相手のCHを持ち場から離すことが目的。このケースでは、相手SH(北島)のプレスバックに気づいた宮本がサイドまで開いてしまい、空いたスペースを認知した片山が中央のスペースを使う、という賢い2人による高度な駆け引きが繰り広げられていました。
ここもポイントは、白崎・サンタナが相手ディフェンスラインの背後を狙っていること。「スペースの認知」は、今後も重要なキーワードになりそうです。
(以下GIFアニメ 2枚)
ちなみに、宮本のところに相手CHが対応してきた場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、インサイドハーフ(神谷or白崎)が下りてくることで、比較的簡単に前進できます。相手CHが2枚であることを利用して、アンカー+インサイドハーフの三角形で、中盤で数的優位を作れるからです(下図)。
これは敵陣でも同じ。相手の中盤を引き出しておいて、ライン間の神谷や白崎を使う形も何度か見られ、中→外→中の揺さぶりが効果的でした(下図)。
一方の福岡。
ビルドアップは、CH(主に中村)を最終ラインに落とした形からスタートします。
右サイドではキレのあるドリブルと鋭いキックを持つSH(クルークス)が、左サイドではクロス精度が高いSB(志知)が幅を取りつつ、ライン間で駆け引きをする山岸・北島を使いながら前進し、最終的にはサイドに展開してからのクロスや、中央でのワンタッチパスによるコンビネーションプレーを多用してゴールに迫ります(下図)。
エスパルスはハイプレスを自重し、まずはブロックを整えて、ハーフライン近辺のミドルゾーンからプレスをかけていくのが基本線。
まだまだ綻びの多いブロックでしたが、球際の強度や陣形のコンパクトネスは改善されていたように見えました。
試合前の練習からも、そうした部分に対する意識を高める工夫が見られました。
(2)後半(福岡の修正)
前半はエスパルスの修正が上手くハマってスムーズなビルドアップが見られていましたが、そこは百戦錬磨の長谷部監督、後半はしっかりと修正してきました。
まず、こちらのビルドアップに対しては、予めCHのうち1枚を宮本のケア要因に充てて、数的優位を消しにきます(下図)。
こうなるとエスパルスは、パスの出し手と受け手の距離が遠くなり、前方への精度の低いロングパスが多くなります。前線で競り負け、セカンドボールを拾われることも多くなり、徐々に試合の流れは福岡に移っていきます。
また、福岡はビルドアップにも変化を加えてきました。
前半はCHの1枚を最終ラインに下ろしていましたが、後半は主に右SBの前嶋が残り、CHはライン間でボールの受け手として振る舞います。これが可能となったのは、ボール配給役の宮が入ったのも大きく関係しており、実際に失点シーンは宮→中村への縦パスが起点でした(下図)。
これに対し、いい時間帯で幸運にも3点目を追加できたエスパルスは、中盤の枚数を増やす(FWを1枚下げて、4ー5-1へシステムを変更)ことで中央をキッチリ締めて逃げ切りを図ります(下図)。
ゼ・リカルド新監督が、試合の流れを見極めながら、このようなシステム変更も柔軟に行える監督であったことは、これから勝ち点を上積みしていく上で大きな助けとなりそうです。
4.所感
奇襲作戦のような形で奪った前半の2得点に始まり、後半は相手に主導権を握られる苦しい展開ながらも、チーム全員で掴んだリーグ戦ホーム初勝利は、チームの前向きな変化を感じさせ、今後の巻き返しに期待が高まるものとなりました。
やっていることはそれほど珍しいことではなく、今季見た試合の中では徳島のスタイルと似たものを感じましたが、とにもかくにも、チームに共通理解やベースとなるものをもたらしてくれそうな監督でホッとしたのが正直な想いです。
当然、今日の内容を踏まえて、今後の対戦相手は対策を打ってくると思いますが、チーム全員で連動してスペースを作る・使うといったことや、群れのように動いてコンパクトで隙のない守備陣形を構築することなどは、普遍的なこととして意識づけとモデル作りが進んでいくと思います。
この試合の良かったことは残しつつ、良くなかったことは改善する。1試合1試合を大切にしながら、今度こそ、エスパルスが強くなるための道筋をクラブがしっかり描き、1歩ずつ前に進んでいってほしいと切に願います。