【エスパルス】2019年J1第20節 vsFC東京(H)【Review】

簡潔にいうと、いい流れをモノにできないうちに先制点を取られ、そのまま地力で上回る相手に押し切られた試合だったかと思います。
ここでいう「地力」は、個の力や球際の強さだけではなく、組織の成熟度やメンタル面も含みます。中でも、組織力の差を痛感する場面がいくつかあったので、そこに絞って振り返ってみます。

1.守備の原則:スペースを埋めるFC東京と、ヒトにつくエスパルス

前半11分、右サイドのスローインから、ヘナトを経由して左サイドに展開、松原にボールが渡った場面。

ハーフスペースの西澤がサイドバックの裏を取りに行きますが、FC東京はラインを下げて対応。松原は少し縦に持ち上がる。

西澤がサイドに流れますが、大森が縦を切ったためそこにはパスを出せず、松原はドリブルを挟んで(大森を中に寄せて)ボールを竹内へ下げる。

大森が中に寄ったことで西澤へのパスコースが空いたため、竹内はボールをダイレクトで西澤へ。今度は松原がインナーラップして、先ほどの西澤と同様にサイドバックの裏を狙う。

西澤に対して室屋が出てきたため、その裏へ走り込んだ松原へパスが通りチャンス! …と思いきや、ボランチの橋本がキッチリとスペースを埋めに走っており、クロスを上げられず。
エスパルスはSB裏を狙いどころの1つにしており、ポジションチェンジを使ってうまく攻めたように見えましたが…

この場面だけ見ると、松原(ヒト)に橋本がついていっただけのように見えますが、これに限らず、FC東京はCBーSB間のカバーにボランチが入るなど最終ラインのキズを埋めることがルール化されており、セットした守備において中盤を含めた4-4のラインが乱れることは少なかったように思います。

一方のエスパルス(前半15分の失点シーン)。
カウンターからサイドチェンジのパスが室屋に通り、フォローしてきた大森にボールが渡った場面。

永井がエスパルスのCB-SB間にできたキズを狙ってランニング。
ここで西澤は永井(ヒト)についていきますが、これにより4-4のラインが崩れ、最も危険なペナルティエリア中央(バイタルエリア)にスペースを与えてしまいました。
永井がCB-SB間に流れたとしても、その場所へのパスコースは事実上ないうえ、松原が中央にスライドすることで対応できたと思います。

竹内も(西澤がいると思ったのか)中途半端な対応で中へのカットインを許し、二見の懸命のカバーも空しく、シュートを叩き込まれてしまいました。
決して簡単なシュートではなく、不運なゴールとみる向きがあるのも理解はできますが、基本的にヒトについて行く傾向のある(=スペースを意識した守り方ではない)エスパルスの対応に問題があったのではないでしょうか。永井もそれをわかった上で、スペースを作る動きをしたように見えました。

2.ボールの取りどころを絞らせないFC東京と、エスパルスの対応

スコアが動いた後、前からの圧力を強めて主導権を握りにかかるFC東京。前半29分に2失点目を喫し、前半35分にシステムを4-1-4-1に変更するまで、エスパルスはボールの取りどころが定まりませんでした。
なぜこのような現象が起きたのか検証してみます。

FC東京のビルドアップ。ドウグラスに対して2CB(+GK)で数的優位が確保できるため、ボランチは北川の脇に構えます。
通常、北川はボランチへのパスコースを切りながら相手CBにプレッシャーをかけに行きますが、このケースでは切るべきコースが複数あるため、なかなか前に出られません。
これにより、高萩・橋本のいずれかが、比較的自由にボールを持つことができていました。橋本がポジションのバランスを取り、高萩がボールを引き出したり展開したりする役割分担に見えましたが、いずれにしてもこの2人の距離感が良く、攻守が入れ替わった際のフィルターとしても機能していたように思います。

ボランチにプレッシャーをかけづらい構造に加え、さらに厄介だったのは、両SH(東・大森)のポジショニング。上図は東がボールを引き出しに下りてきたパターンですが、これに呼応してオリヴェイラがハーフスペースに陣取るとともに、大森が中に絞って、エスパルスのCB・ボランチをピン止め。この時点で、中盤の中央部は5vs3の数的不利に陥っています。
また、エスパルスの両SHは、目一杯に開いて高い位置を取る両SBへの対応で中央に加勢できません。大外は捨て、中央に人員を投入する守り方もありますが、CBのクロス対応にも難があり、その手段は取りづらいのだと思います。これにより、上図ではボランチがボールホルダーにプレッシャーをかけるしかありませんが、次第にポジションがバラバラになっていきます。

上図は同じ場面で4-1-4-1にしたパターンですが、これなら数的不利に陥ることもなく、中央を締めながらボランチにプレッシャーをかけることができます。
どちらかというと前への圧力を強めるために使われてきた4-1-4-1ですが、この試合ではセットディフェンスにおける構造的な問題を修正するために活用されたと考えられます。

3.今後に向けて

前線2枚の個の力を活かしつつ、約束事の徹底による堅い守備と、相手の嫌がることを愚直にやることで強さを見せたFC東京。なるほど、これが首位のチームかと思わされました。
一方、なかなか失点が減らないエスパルス。篠田監督が窮地を脱する策として採用したマンツーマンをベースとする守備は、1人1人の役割がわかりやすくハードワークとの相性がいい反面、個の力に差がある場合やポジションチェンジに脆いため、局面の数的優位をどのように確保するかが鍵を握りそうです。

夏の連戦を前に、つかの間の中断期間を迎えます。移籍ウインドーも開いてリーグ再開後には勢力図が変わっている可能性もあるだけに、心身のリフレッシュとともに戦術の幅を広げて、1戦必勝で勝ち点を積み上げていってほしいと思います。

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