【エスパルス】2019年J1第32節 vs大分(H)【Review】
前回の広島戦(10/19)から約1カ月ぶりとなるホームゲーム……あれっ、その間になにかあったっけ……?
ということで、4連敗を喫して、いよいよ残留争いの泥沼に片足を突っ込んだ状態で迎えた大分戦を振り返ります。
残り3試合、内容もへったくれもない、結果あるのみの状況ですが、守備を中心にピッチ内で起きていたことを少し整理してみます。
1.前半 ~双方の狙いと、一瞬のスキ~
システムの噛み合わせは上図のとおり。大分は攻撃時3-4-2-1、守備時はWBを引かせた5-4-1が基本形。一方、エスパルスは4-2-3-1で守ります。ボール保持を中心に考える大分に対し、いつも通りボールを引っかけてカウンターを狙うエスパルス、というのが基本的な構図です。
大分は、3CBまたは+GKの形でエスパルスの前線2枚(ドウグラス・中村)に対して数的優位を確保し、最終ラインから短いパスをつないで前進を図ります。また、相手SHが最終ラインにプレスをかけてくる場合は、CHを1段落とすなどして常に1人多い状態を保ちます。そして、相手がボールに向かってくる瞬間を狙い、相手が動くことでできたスペースを突いて素早い攻撃を仕掛けてくるのが特徴です。
ボール保持から相手の守備体形を崩し、意図的にカウンターのような状態を作り出すことから、大分の攻撃は「擬似カウンター」と呼ばれます。言うなれば、自陣に散りばめた「撒き餌」を使って魚群を釣り出し、手数をかけずに背後の親玉を一刺しにする狙いです。
これに対して序盤のエスパルスは、前線からの積極的な守備で「スペースを突く時間を与えない」作戦。相手がディフェンスラインで横パスをした瞬間をスイッチに、SH(西澤・金子)が相手CBに詰めて自由な配球を阻止するとともに、トップ下・CHは受け手となる相手をマンマーク気味に捕えるべく、縦横にスライドを繰り返します。
また、SHはボールサイドの相手WBへのパスコースを切りつつ、ボールが出てしまった場合はプレスバック。これによりSBはあまり前に出ず、CB-SB間を使わせないようCBとの距離感を保ちます。
こうした双方の狙いを踏まえつつ、実際の守備を見てみたいと思います。
GKを使いながら巧みにビルドアップを模索する大分に対し、エスパルスはパスの受け手を遮る立ち位置を取って相手の選択肢を狭め、敵陣に網を張るように相手の船団からボールを取り上げようとします(下図)。
まず、エスパルスはファーストディフェンダーとなるドウグラスが、GK(高木)からCB(鈴木)へのパスコースを阻害。これによりボールが進む方向を限定(上図では大分から見て左サイド)します。また、ビルドアップに加勢するCH(小林)にはトップ下の中村が、左CB(三竿)にはSHの金子がそれぞれ目を配り、ボールの出どころを牽制。同時にヘナト・竹内もボールサイドへスライドし、大分のシャドーへのパスコースを塞ぎます。
上述の狙いが顕在化したのは前半2分のシーン(下図)。
大分のボール保持からGK(高木)がボールを持った場面。エスパルスは、近くにいる大分の選手にもれなくプレッシャーがかかる状態を作ることができています。パスコースのない相手GKは、逆サイドのシャドー(三平)に長いボールを送らざるを得ませんが、待ち構えていた竹内がカットし、中村のミドルシュートにつなげました。
しかし、大分もただでは転ばず、多彩なビルドアップの形を見せてきます。
たとえば、上図はシャドーを使って前進を図るケース。エスパルスは縦方向のパスコースを切っているものの、大分はGKを使ったサイドチェンジでエスパルスのファーストディフェンダーを無効化。ボールを持ったCB(鈴木)は、西澤が向かってくるのを見計らってシャドーへ縦パスを出します。シャドーには竹内がピッタリついていますが、ダイレクトでCB(岩田)にボールを叩かれます。
岩田は本来、西澤がマークする役割ですが、鈴木が西澤を引きつけているうえ、松原がWB(松本)にピン止めされているため、岩田にはプレスがかからず、クリーンな形での前進を許します。
続いて上図は、大分がCHを使って相手の守備陣形をずらしていくパターン。相手CH(小林)とCB(鈴木)が短いパス交換でエスパルスの前線の選手を引っ張り出すと、CBからもう一方のCH(長谷川)に縦パスが入ります。
ここで注目したいのは、シャドー(三平)のポジション取り。竹内の後方の曖昧な立ち位置を取ることで、竹内がCH(長谷川)にプレスをかけづらくしています。相手CHに前を向かれたくないので、やむなく西澤がチェックしますが、右CB(岩田)を使ってWB(松本)への展開を許してしまいました。
このように、徐々にボールの前進を許すケースが増えたエスパルスは、だんだんプレスラインが下がり自陣でプレーする機会が増えていきます。それでも、各選手が課せられたタスクを愚直にこなし、勤勉さと運動量で守備組織の破綻を防いでいましたが、徐々にスライドやプレスバックが遅くなり、守備が少しずつズレていきます。
(失点シーンを検証)
前半終了間際、GKまでボールを下げた大分は、1度左から前進する素振りを見せますが(ここで中村が長谷川につく)、ボールはCB(鈴木)を経由して右の岩田へ。中村のスライドが間に合わず、目の前にいる小林が浮いているのを見て、それまでシャドーを離さなかった竹内がプレスに向かいます。この時点で、エスパルスの守備が1つズレているのがわかります。
よく竹内を引きつけて時間を作った小林は、動き直した岩田にパスを戻すと、ボールはそのまま右の松本へ。西澤は一瞬岩田に気を取られたことで、松本へのプレスバックが間に合わなくなります。
ボールと時間を得た松本は、前線の動きを確認。竹内がシャドーのマークを離したことで、松原が前に出ているのを見た松本は、SB裏を狙って浮き球のパスを出します。ボールは無情にも、松原のカバーに出ていた二見の頭を越え、ハーフスペースに走り込んだオナイウへ。
オナイウがいた真ん中のスペースに走り込んだ三平は、ボールを受けると後方から上がってきた小塚へパス。小塚にはエウシーニョが絞って対応しますが、さらに大外から追い越してきた田中にボールが出ると、金子の懸命の戻りも空しく、フリーでシュートを打たれて万事休す。
以上、大分のとても理にかなった、効率的で美しいゴールでした。エスパルスとしては、時間の経過とともに「相手CHをどう捕まえるか」が曖昧になっていたように見えました。前線の守備の役割について、試合の進行を踏まえ、少し手を入れる必要があったのではないでしょうか。
2.後半 ~混沌と熱狂~
後半は冒頭からエスパルスがハイプレスを敢行。とくに竹内が少しポジションを上げて相手CHにアタックする積極策で、相手からボール保持の時間を奪います。後半15分のドゥトラ投入後は、ヘナトをアンカーに置く4-1-4-1へ明確にシフト。大分がわかりやすく自陣に引いたこともあり、相手を押し込みペナルティエリア内に侵入するケースも増えていきます。
このように、攻撃に再現性はないものの、前に圧力をかけて「カオス(混沌)」を作り出すのは、意図の有無はわからずも、篠田監督がよく行う手段です。後半43分の同点ゴールも、ゴチャゴチャしたところを外国人助っ人2人のパワーとスキルと気持ちで押し込んだもの。それ以上にどう表現したらいいのか、私は言葉を持ち合わせていません。
後半は、攻守ともに特筆すべきものは見えませんでした。なにかあるとすれば、同点に追いついた後のスタジアムの雰囲気でしょうか。そこまで消沈していた雰囲気が一転し、「もしかしたら勝てるかも…」と淡い期待を抱くことができた、サポーターの力は確かに存在したかもしれません。
3.今後に向けて
大分の選手たちの、まるでどこに動けば相手がどう対応するか、そして味方がどこにいるか、感覚としてすり込まれているかのような動きと立ち位置に翻弄されつつも、助っ人の力と根性で勝ち点1を手にしたエスパルス。
残り2試合となった終盤の、とくに残留争いの現場では、理屈よりも熱量やパワーがモノを言う。それは、J2降格を経験した我々が1番よく知っていることです。
この試合で必死につかんだ1ポイントは、必ず次の試合にも活きてくるはず。サッカーの内容について、皆それぞれ言いたいことはあるでしょうが、今は心を1つに、目の前の勝ち点を掴みに行きましょう。
(前半にあれだけ分量をかけて、締めがこれでいいのでしょうか…?)
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