【エスパルス】2020年J1第2節 vs名古屋(H)【Review】
Jリーグが中断して約4カ月、記念すべきエスパルスの28回目の誕生日に、ようやく我が町にサッカーのある風景が帰ってきました。
リーグ再開に至るまでには、関係者の皆さんの想像を絶するご尽力があったことと思います。エスパルスのサッカーを楽しめる環境を作っていただいたことに、心から感謝したいと思います。(コレオも見事でした!)
さて、再開初戦の相手は名古屋。組織的な守備をベースに、高い個の能力を活かしてゴールに迫ってくる厄介な相手です。そんな難敵に対し、今季から新たなチャレンジを始めたエスパルスはどんな狙いを持って戦ったのか、自分に見えたことを簡潔に振り返ってみます。
1.スタメン
最大のサプライズは、ユース上がりの2年目・19歳のGK梅田と、高卒新人のMF鈴木唯人の抜擢。過密日程や怪我人の影響があるとはいえ、スタメン出場は実力あってこそ。否応なしに期待が高まります。
このほか、注目の新10番カルリーニョス、開幕戦は出られなかった岡崎、古巣相手となる金井がお披露目となり、昨季のスタメンから大半が入れ替わりました。
名古屋は、2月の第1節・仙台戦から米本→シミッチの変更のみ。チームのベースは概ねできあがっているのでしょう、手強さを感じさせます。
システムは、両者とも登録上は4-3-3の同型ですが、エスパルスはボールの状況によって形を大きく変えるのに対し、名古屋はオリジナルポジションを守る傾向にあります。
2.エスパルスの狙い
(1)ボール保持時
エスパルスのビルドアップは、自分たちの動きや立ち位置で相手を動かし、スペースやパスコースを作るところから始まります。
名古屋はボール非保持時に4-4-2で守るため、エスパルスはまずCHの1枚(竹内)が相手FWの間に立って2人を引きつけ、CB(立田)にボールを展開させる時間と空間を与えます。CHはCB間やSBの位置に下りることもあり、相手FWに対して数的優位を確保する役割を担います。
また、もう1枚のCH(岡崎)も基本的には中央にポジションを取り、相手CHを引きつけるとともに、前線に入ったパスの落としを受けて展開したり、ボールを失ったときに備えたりします。
SB(奥井)は中に入ることで相手SHを引きつけ、WG(カルリーニョス)へのパスコースを作るのが最初の役割。円滑にWGまでボールが入れば、SBはCFやトップ下の選手と連携した動きで、相手の守備を崩しにかかります。エスパルスのSBに石毛・宮本といった中盤をこなせる選手が入るのもこのためです。
ボールサイドのWGはサイドに張って相手SBを引きつけ、CB-SB間やハーフスペースの攻略を助けます。また、このとき逆サイドのWG(金子)は中央に絞り、CFのように振る舞います。
CF(後藤)は、最前線で相手CBの背後を狙ったり、トップ下の選手と連携してパスの受け手になったりします。中盤のスペースを埋めないよう、ビルドアップ時に下りてくることは原則的にありません。
ここで重要なのは、どの選手がどのポジションの役割をこなしても良いということです。あくまで「動きや立ち位置でスペースを作る」ことが目的なので、選手が当初の持ち場を離れて他の選手と入れ替わっていることもよくあります。こうした「ポジションレス」が大きな特徴です。
今年新たに加入した岡崎、奥井、後藤といった選手は、いずれも戦術理解度が高くポリバレントな選手たちです。クラモフスキー監督がこうした選手を求めたのも、今となれば納得です。
(2)ボール非保持時
名古屋は前線4枚の破壊力を活かすため、4人のDFと2枚のCHでボールを運びます。ボールサイドのSHが外に張ってビルドアップの出口となるため、SBは基本的に最初はあまり高い位置を取りません。
エスパルスは、ファーストディフェンダーとなる後藤のプレスを合図に人を捕まえにいきます。そしてパスが出た先へ2度追い・3度追いをして、相手の時間を奪うことでプレーの選択肢を狭め、ミスを誘発します。
この日のエスパルスにおいて、とくに重要だったのがWGの役割で、WGは相手CBからの縦パスを防ぐ立ち位置を取りながら、相手SBにボールが出た場合は、縦に展開されないようすぐにプレッシャーをかけにいきます。
また、ボールが逆サイドにある場合は中に絞り、カウンターに備えるとともに、CHやトップ下と連携した相手CHの挟撃を行います。
金子の1点目は、鈴木と金子がシミッチを挟み撃ちにしたところから生まれたもので、まさに狙い通りの形。素早いトランジションからスプリントできる金子の良さが存分に活きた得点でした。
ただし、この日は全体をみれば、前田らの走力を警戒したのか終始ディフェンスラインが低く、全体をコンパクトに保つことができていない時間が長くありました。前からプレスに行く以上、この点は生命線となるだけに、一刻も早い修正が必要です。
3.名古屋の狙い
(1)ボール保持時
一方、前線の破壊力を活かしたい名古屋は、エスパルスの注文に乗るわけにはいきません。2枚のCHやトップ下(阿部)の動きを使って、エスパルスのハイプレスをいなしてサイドへの展開を図ります。
エスパルスにとって厄介だったのは、WG(とくにカルリーニョス)の守備を無効化するサイドの使い方でした。
例えば、相手CH(稲垣)がディフェンスラインに下がってSB(成瀬)のポジションを押し上げると、カルリーニョスのマークの判断に迷いが生じます。ここで相手SBにボールが渡ると自由に運ばれてしまうため、CH(竹内)がカバーに向かうことになりますが、ピッチ中央やハーフスペースに広大な空間を与えてしまうことになります。
名古屋の得点は2点ともエスパルスから見て左サイドに展開され、相手SBに対するマーカーが曖昧な状態から始まったものでした。
カルリーニョスは決して守備をサボる選手ではありませんが、金子のように1試合を通じて相手SBのオーバーラップについていくだけの走力・体力があるわけではなく、ポジションを下げられると攻撃力の低下をも招くため、常に金子と同じ対応を求めるのは難しいところです。
相手がビルドアップの形を変えてきたときのプレスの開始位置やスペースの埋め方について、選手間での共通認識が必要だったように思います。
(2)ボール非保持時
当初は4-4の2ラインを維持していた名古屋ですが、前半途中から前線からの圧力を強め、エスパルスの2CB+1CHに対して数的同数でプレスをかけてくるようになりました。もう1枚のCH(岡崎)も常に相手CHから監視され、エスパルスは慌てて前線にアバウトなボールを送る場面が増えていきます。
こうした状況を逆手に取った岡崎の相手SB裏へのダイレクトパスなど工夫も見られましたが、組織で連動してボールを運ぶ光景は影を潜めることとなりました。
個人的には、金井のポジション修正や相手を釣り出す動き出しが少なく、右サイドのダイナミズムに欠けた点が気になりましたが、今日に限ってはコンディションや試合勘の問題も大きかったのかもしれません。
また、鈴木唯人もボールを引き出す動きが徐々に減ってしまったように思います。ボールを持ったときは随所に光るものを見せてくれただけに、今後が楽しみな選手です。
4.今後に向けて
どこか実力を出し切れなかったような消化不良感のある悔しい敗戦となりましたが、見返してみればチームの狙いもしっかり表現できており、チームが前に進んでいることが感じられた試合でした。
また、60分経ったところでの3枚替えは過密日程を考慮したものだと考えられますし、思い切った若手の抜擢など、クラモフスキー監督が長期的な視野でチーム作りを進めていることは間違いありません。
負けていい試合などありませんが、実戦でないと学べないことはたくさんあるでしょうし、これからチームに融合してくるメンバーもいます。産みの苦しみは覚悟しつつ、伸びしろしかないチームの成長を楽しみに、新たなエスパルスとともに歩んでいきたいと思います。
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