【エスパルス】2019年J1第28節 vs浦和(A)【Review】
勝ち点35の暫定10位で迎えたこの1戦。勝てば上位の背中が見えてくるうえ、J1残留への視界も明るくなる重要な試合でしたが、残念ながら1-2の敗戦となりました。大事な大事な先制点を奪うことができただけに、とても「もったいない」負け方だと感じた方も多かったのではないでしょうか。
今回は、試合の流れを時系列で振り返ります。
1.前半
前半は、お互いにリスクを回避する姿勢が目立つ堅い展開。ボールを保持していたのは浦和ですが、エスパルスの献身的な守備により、ボールがブロックの外を回る展開が続きます。
ここで、お互いの狙いを整理しておきましょう。
浦和は後方の5人で確実にボールを前進させ、相手の中盤を突破したら数的優位を活かして攻め切る、広く言えば「ミシャ式」の攻撃スタイルが残っています。ビルドアップのパターンは豊富ですが、ボール運びを担うCBやCHが前線の選手を追い越すことはほとんどありません。つまり、攻撃が加速するスイッチは、シャドーやWBにボールが入って前を向いたとき。
これを踏まえ、エスパルスは中盤4枚+トップ下で徹底的に縦パスを遮断しようとします。
以下は、前半10分までに見られた、浦和のビルドアップ(4パターン)。それぞれエスパルスがどのように対応したのか見てみます。
最もオーソドックスなのが上図のパターン。浦和のビルドアップは、右ハーフスペースに位置する岩波を起点とすることが多く、まずはここからシャドー(長澤)・WB(橋岡)へのパスを狙ってきます。
エスパルスは、2人のFW(ドウグラス・河井)が相手CHを見るポジションを取り、プレスをかけ始める位置をハーフウェーライン近辺に設定。中盤は、SH(西澤)が縦パスを防ぎつつWBにも向かえる立ち位置を保ち、CH(竹内)がシャドーをマンマーク気味にケア。また、興梠に縦パスを入れられないよう、もう1人のCH(六平)が中央のレーンを遮断します。
これに対し、浦和はディフェンスライン間のパス交換でエスパルスのブロックを揺さぶりますが、そのパスにスピードや緩急がなく(オシムさんのいう「各駅停車」)エスパルスの中盤のスライドが間に合ったため、前半はブロックに綻びができる場面はほとんどありませんでした。
続いて、2つ目(上図)はCH(青木)がディフェンスラインに下りるパターン。岩波がハーフスペースにいるのに対し、槙野は基本的にサイドライン際に位置取るので、浦和のCHは左側のハーフスペースに下りてきます。これにより槙野が高い位置を取り、関根を前に押し出すとともに、武藤が下りてきてライン間でボールを受けようとします。
エスパルスは、ボールサイドの相手CHに対して河井が常に目を光らせており、すかさずプレスをかけてパスコースを限定。シャドー(武藤)が下りる動きに対しては、CH(六平)がタイトについていきます。これにより、SH(金子)はサイドが数的不利に陥らないよう槙野・関根を同時に見るポジションを保つことができ、関根までボールが出た場合も、走力を活かしたプレスバックでエウシーニョと2対1を作って左サイドを封殺しました。
浦和は、関根へのパスに呼応して槙野が外を追い越したり、武藤がCB-SB間を使ったりすることもなかったため、エスパルスから見て右サイドはシンプルに対人守備に専念できた点も幸いでした。
3つ目(上図)は、パスを通されてしまった場面を取り上げます。
岩波がボールを持つと、シャドーの長澤がサイドライン際まで下りてきて、竹内を釣り出します。縦パスを防ぎたいエスパルスは、六平が中央をポジションを埋めるためスライドしますが、これにより逆サイドのシャドー(武藤)へのパスコースが開いてしまいました。
武藤に前を向かれたら危険なシーンでしたが、ここでもエスパルスの守備意識は高く、六平・金子が素早く帰陣してボールを外に追いやり、ピンチを未然に防ぎました。
個人的には、長澤の落ちる動きに竹内がついていく必要があったのか(西澤を動かせなかったか)疑問ではありますが、長澤に前を向かせない守備はできていたので、悪くはなかった気がしています。
最後は、ブロックの外まで下りてきたシャドーを経由して、逆サイドのWBに長いサイドチェンジのパスを出すケース(上図)ですが、これも3つ目と同様に金子のプレスバックが間に合い、大きな脅威にはなりませんでした。
こうした局面における、金子の勘所を押さえたポジショニングと献身性には、本当に頭が下がります。
このように、浦和がさまざまな形でボールを動かしても、組織で堅く対応してチャンスを作らせなかったエスパルス。前半18分、焦れずにワンチャンスを活かす形で、大事な大事な先制点を獲得します。このゴールについては説明の余地もない、ドウグラスのスーパーゴールでした。
しかし、エスパルスは先制点で得た優位性を活かせません。前半終了間際、興梠に訪れた前半唯一といっていい決定機を決められてしまいました。
失点シーンについては、浦和にボールが渡るきっかけとなったドウグラスのヒールパスをはじめ、ゲームマネジメントの軽率さを指摘する声が多くあります。エスパルスの選手の立ち位置を見ると、確かにチームとしてどう振る舞うか整理されていなかった様子がうかがえます。ただし、それを差し引いても興梠のニアへの動きと橋岡のクロスの質は高く、相手が1枚上手だった部分は否めません。時間帯を考えても、悔やみきれない失点となりました。
2.後半
後半もしばらくは前半と同じような展開が続きますが、エスパルスは前半のハードワーク(スライドの連続)が祟ったのかボールへのアプローチが遅れる場面が目立ち始め、浦和も前半とは異なりCHが前へ飛び出すなどリスクを負う動きを増やしてきたことから、浦和に押し込まれる時間帯が増えてきます。
後半15分、浦和が武藤に替えて杉本を投入すると、エスパルスは体調が優れなかったというドウグラスからドゥトラにスイッチし、システムを4-1-4-1に変更(下図)。
ハーフタイムの指示にあったように、後半はもう少し高い位置からプレスをかけていきたい監督の意向があったようですが、システム変更を経ても後ろが重たくなる傾向は変わりませんでした。
浦和は杉本の投入により、杉本が最前線に入り最終ラインと駆け引きをするとともに、興梠がエスパルスの泣きどころとなるライン間(アンカー脇)を漂い、絶妙なポジション取りからパスを引き出します。ここで前を向かれてしまうと、冒頭に触れたように浦和の攻撃のスイッチが入ってしまい、前半封じ込められていた関根など周囲の選手まで躍動し始める循環が発生。
エスパルスは、この興梠の動きを捕まえるのに苦慮します。システムの構造上、IH(六平・金子)が前へのプレッシャーを強めると、アンカー脇が空くのを避けられないからです。
後半30分の2失点目のシーンは、エスパルスの攻撃を凌いだ浦和のクリアボールを興梠が収め、前を向き、裏を狙う杉本を使ったロングカウンターの流れで与えたファウル(セットプレー)から決められたもの。場所は違えど、浦和は選手交代の意図がそのまま形になって表れた結果に。
この場面では橋岡のシュートを褒めるべきですが、エスパルスはこの試合に限らず、味方のクリアボールに対してボールウォッチャーになる悪い癖が散見されます。
2点目を取った浦和は、エヴェルトンに替えて阿部を投入し、守備のバランスを整えます。なんとしても勝ち点を持ち帰りたいエスパルスも、金子・河井を下げてテセ・川本を投入(下図)。
オープンな展開に持ち込み、前線の馬力を活かしてカオスを作り出す狙いだったのでしょうか。結果として、この2人の交代による大きな変化は生まれなかったように見えましたが、それでも後半44分に決定機が生まれます。
相手のクリアボールをエウシーニョが拾い、タメを作って左サイドに展開。ここでボールを受けたのは二見で、さらにその外を回った松原を経由してクロスが上がります(下図)。
そう、全エスパルスサポーターが頭を抱えたであろう、ドゥトラがシュートを外してしまったシーンです。ここで言及したいのは、ドゥトラにもう少し冷静に蹴り込んでほしかった…ということではなく(それもそうですが)、二見が絡んだポジティブなチャンスシーンだったことです。
この試合を通して、エスパルスは左サイドから攻撃を作る場面はほとんどなく、松原にパスが渡る場所も多くは自陣で、彼は前を向いて仕掛けることができませんでした。この要因はいくつかあると思いますが、浦和が槙野を使ってやっていたような、SBのポジションを前へ押し上げる形が作れなかったことが挙げられます。
上図の場面に話を戻すと、二見がここにいることで松原を押し上げるとともに、相手を引きつけてSB裏にスペースを作っています。こうしたシーンを意図して作ることができれば、もう少しエスパルスにチャンスがあったとしても不思議ではありません。
上図は一例ですが、空中戦に強い選手を入れるからには、サイドで基点を作ってクロスを入れる形を増やしたい。併せて、セカンドボールを拾えるよう中盤で数的優位を確保するなど、打つ手はあった気がします。
堂々たるプレーを見せているとはいえ、まだユース所属の川本をベンチ入りさせるなど、監督もベンチメンバーの選定には苦労している様子がうかがえますが、出たメンバーが相乗効果を持って機能するような「型」を1つでも作っていってもらいたいと思います。
3.今後に向けて
喉から手が出るほど欲しかった先制点を得たものの、相手に押し込まれる時間帯が長かったうえ、前半終了間際の失点からの逆転負けと、身体面・精神面ともにダメージが残りそうな結果となってしまいましたが、狙いを持った守備から粘り強い戦いはしてくれたと思います。
課題はやはり攻撃面。湘南のような前に出てくる相手とは異なり、今回のようにブロックを作ってどっしり構えることができるチームを相手に、ボールを前進させたりブロックを攻略したりする方法論はまだありません。
エウシーニョの復帰後、ここ数戦は、彼のスキルと自由な発想が攻撃に変化を加えてきましたが、今節では浦和の対策もあり右サイドでノッキングする場面も多くみられ、ボール保持からのブロック攻略を個人に頼るのも限界に来ています。
次節の広島も(よく見ていませんが)浦和と同じような戦い方をしてくる印象があります。幸い、次の試合までわずかなインターバルがあるので、メンバー選考も含めて、新たな風が吹くことを期待したいと思います。
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