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「電車の中に自販機が欲しい」〜日記小説6〜
電車の中に自動販売機があればいいのにと思った。
もしかしたらと思って、一応探してもみた。生まれてから一度も見たことないのに。
停車駅まであと20分くらい。
私の喉が裂けてゆく感覚がある。あゝ喉が渇いた。
私は自動販売機を置いていない電車を恨んだ。
そりゃあ水筒を忘れた私が悪いさ。でも1台くらい置いていたって良くないかい。多少高かろうと買うさ。
でも満員のときは邪魔だ。その中で、頑張って買ったとしても、お釣りどころか商品も触れることすらできないのではないか。
もしルーレットが当たって、もう1本とかなっても、そのときになっては面倒くさい。
停車駅まであと15分くらい。
私の喉は感覚を失い、頭が悲鳴を上げ始めた。とうとう今の私は死に近いと思う。
私は住んでいるこの街を恨み始めた。
こんな田舎じゃなければ、20分も待つことはないんだ。間に小さな駅があったっていいんだ。
過疎地域、この野郎。分け入っても分け入っても山々山々山々山々山々山々山々山々山々山々。
そんなにいらねえよ。
喉が渇く前なら、あら日本風情の素晴らしい景色ですこと、おほほほほと笑っていられたはずなのに。
私の性格は刻々と血みどろになっていった。
停車駅まであと10分くらい。
私は考えることをやめた。限りなく屍となり、星に近づいた。
何故人間は争うのだろう。何故世界平和はやってこないのだろう。民族間習慣宗教の違い。分かり合えぬ世界。
みんな同じ人間。それなのにこれほど違う。
貴女と彼と彼女と、私の見上げた月は同じ形をしているのだろうか。
停車駅まであと5分くらい。
私は我に返った。アナウンスが鳴ったのだ。
次は〜 次は〜
もう少しで、あと少しで喉を潤せる。
長い戦いだった。
電車の水攻めにあい、自販機を求め、扉の横、網棚の上、座席の下を探したりもした。
過疎地域を恨んで、山を嫌いになったりもした。
平和を悟ってみたりもした。
それがやっと終わる。
停車駅まで0分。
扉が開く。
足を踏み出す。
身体の内側を青春の風が吹き抜けた。
空はこの上ない快晴だ。生きている実感があった。
ホームの階段の横に、それはあった。
小銭を数えずに、財布の中の全部をぶち込む。
コーラだ、コーラがいい。
コーラの下の光るボタンを押すと、ピッという音とともに、落ちてきた。
シュワシュワ〜。