「無駄な日」なんてあるのかな
一日一日を大切に過ごしたい。毎日やることを決め、自分の成長の糧にしたい。そんなことを思いながらも、ただ何もなく今日が終わってしまうというのは、なかなかもったいないことだと思う。だが同時に、これはよくあることだとも思う。
大学生活の夏はもう戻ってこないのだから、せっかくだし自分がやりたいと思っていることは経験しておきたい。なんて、意識の高いことを思いながらも、先日はよくわからないまま一日を過ごしてしまった。
僕は暇な日のことを「暇日」と呼んでいる。これは、過ごし方によっては自分にとって最高の経験ができる「経験日」へと変化するが、ダラダラと意味もなく過ごすと「カス日」に変化し、一日中ソファの上で体を休めることだけに、時間を浪費して終わってしまう。
はたして先日の「暇日」は「経験日」と「カス日」のどちらだったのか。これはこの記事を読んだ人にしかわからない。
先日の「暇日」は突然決まった。その日は、大学の友人が酒蔵見学をしようと誘ってくれたので、東京か埼玉の酒蔵を巡る予定のはずだった。しかし、前日になっても友人から連絡が来ない。不安に思い、こちらから連絡すると、なにやら親戚の人の体調が悪くて、友人は実家に帰っているという返事が送られてきた。おい、どうすんねん酒蔵見学。しかも前日の夜10時に連絡が来ても暇になるだけやん。もっとはよ連絡せい。ということで、僕は翌日の丸一日分、すっかり暇になってしまったのだ。
友人から連絡が来た後、夜の時間を利用して、翌日の計画を立てることにした。自分の部屋に雑誌『POPEYE』が置いてあったので、それをダラダラと読みながら、明日の予定を考える。
何気なく『POPEYE』を読んでいると、メキシコ特集が目に付く。というか、大部分がメキシコのことしか特集していない「メキシコ号」だったのだけど、それなりに読んでいて面白い。雑誌に掲載されているメキシコの街並みはどれもカラフルで、陽気な人々が楽しそうに路上を歩いている。メキシコの明るい雰囲気が今の夏にぴったりで、メキシコ人が屋台で食べるようなタコスやブリトーを、僕も食べたいと思った。
そうだ、明日はタコスを食べに行こう。タコスを食べに行くことで暇が解消され、おまけにメキシコの雰囲気を味わえるかもしれない。最高の予定が決まった。
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そして「暇日」当日、僕は昼の12時に目が覚めた。完全にやってしまった。予定では吉祥寺のTACOS shop で優雅にタコスランチを楽しんでいるはずが、今は寝ぼけた頭で「朝飯は今日も納豆か」なんて考えている。昨日は雑誌を読み漁り、紹介されているタコス屋をスマホで検索していたら、朝の3時になってしまったから、きっとそのせいだろう。結局、僕は「暇日」の午前中を無駄にしたことになる。
ベッドから起き上がると、背中がピキピキと痛む。枕をどこかへ放り投げ、悪い姿勢で寝ていたことが原因みたいだ。今日一日はこの痛みと付き合い続けなければいけないらしい。
リビングへ行き、朝食っぽい昼食を食べる。おなかが膨れたので、ソファへダイブしたが最後、そのままスマホをいじり続けるいつものスタイルになってしまった。このままでは「暇日」が「カス日」になってしまう。しばらく休憩を取り、これではだめだと自分を奮い立たせる。僕は日本でメキシコの雰囲気を味わいたいのだ。
午後4時、人が活動を始めるにはいささか遅すぎるような時間だが、僕は家を出た。二人ほど「タコスを食べに行こう。」誘ったが、あっさりと断られてしまったので、一人でひっそりと行くことにした。情熱的な国の食べ物なのに、情熱で人の心は動かせないのだろうか。
電車に乗り、定期券で行けるところまで進む。定期券で行ける端の駅まで到達し、ここからは電子マネーに入金が必要になる。背中をピキピキと痛めながら、券売機へと向かう。
電子マネーを入れ、財布を取り出す。いや、正確には財布を取り出そうとするが、手はカバンの中で空を切り、財布をつかめない。なぜだろう、財布がないのだ。財布がカバンのどこかには必ずあると信じ、手をブラブラと探り続けている様子が虚しい。
どうやら財布を家に忘れてしまったらしい。そう気づくまで、10分ほどかかった。
結局、僕は定期券の端から真反対の最寄り駅へと引き返した。ここまで来たら、僕はどうしてもメキシコを味わいたかったので、帰り道に近所のツタヤに寄り、メキシコが舞台の映画『リメンバー・ミー』を借りた。もはや悪あがきである。
『リメンバー・ミー』を手に持って帰る夕方、ふと空を見上げると、真っ赤に染まった美しい夕焼けが僕の街を照らしていることに気づく。この空を見ていると、今日一日の出来事が全部どうでもよく思え、自分がちっぽけな存在なのだと実感する。もしかしたら、積極的に活動した日とゆっくり休んだ日、それぞれに良さがあって、本当は無駄な日なんてないのかもしれない。充電期間として、たまにはダラダラと休む日が必要なのだ思う。
今日は意味もなく一日を過ごしてしまったと責めるのはやめにして、画面上のメキシコを堪能しよう。映画『リメンバー・ミー』、なかなか良かったですよ。