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EXAMACS近代戦術論

かつてのスカイフォール以降、近代戦場の主役へと躍り出たEXAMACS。
本記事では、日々拡大の一途を辿る地球防衛戦線において、我等が地球連合軍の一員として参戦する諸兄らの為、その性質と戦術論について簡素ではあるが述べたいと思う。

初めに、多くのメディアで目にするEXAMACSの呼称「人型機動兵器」であるが、この表現は実は正確ではない。

EXAMACS、正式名称

Extended Armament & Module Assemble & Combine System(拡張型武装及びモジュール組立結合システム)。

その意味するところは、ゲート由来のエネルギーを内包したコアパーツ、そのエネルギーを伝達する事で駆動する各種モジュールを自在に結合し制御する事で、如何なる形状の兵器も創り出せるという、旧来の兵器とは概念からして異なる画期的なシステムである。

地球、バイロン双方が使用するアルト、ポルタノヴァという機体名はその中で最もオーソドックスなアセンブルにてコアを胴体に、モジュールを四肢に見立てた、あくまで「人型を保った時の形状名」に過ぎない。

事実、ごく最近に地球で勃発した大規模な局地戦においては、その地形特性への回答として、防塵のため関節部のクリアランスを極限まで切り詰めた小人のような機体、不安定な足場を駆けるためスキー板のようなホバーユニットを装備した機体、上空を滑空するための飛行機能と変形機構を有した機体、果ては四足歩行の獣や多脚の節足動物を模した機体まで登場したと聞く。

しかし、一つのシステムがこれほど無数の兵器に変化するとなれば当然、操縦システムはどうするのか?という疑問も付きまとう。

例えば、もはや旧時代の兵器となった戦車と戦闘機。もし仮に一人のパイロットがその両方を運用するとなれば、膨大な時間を転換訓練に費やす必要がある。
そもそも兵器としての根本的な概念からして違うそれ等を一人に任せるという事が非現実的ではあるが、エグザマクスはそれを現実にする術を生み出した。

北米に本社を置く巨大IT企業、サイラス社。
同社の開発したEXAMACS専用OSは、次の機能を備えた。

1.エネルギー源となるコアパーツから各種モジュールへのエネルギー分配や、伝達スピードを調整する機能。

2.接続されるモジュールの動力機構それぞれに、駆動方向と駆動順序を割り当てる機能。

3.それ等のモーションパターンを、予めコマンドとして登録し、直感的に呼び出せるインターフェイス。

4.緊急時にマニュアル操縦へ切り替えた際の操作方法を、パイロット毎にカスタマイズ可能な機能。

このOSが実現した事により、ある時は二足歩行の人型兵器、またある時は四足歩行の獣型兵器という矛盾を成立させたのだ。

これは同時に、長い習熟を必要とした旧来兵器とは異なり、EXAMACS戦においてはパイロットの熟練度による操縦技術の優劣が無くなった事も意味している。
全てのパイロットが思いのままに機体を動かせるようになった戦場で、何より求められたのは、相手の虚をつく奇抜な発想、イマジネーションであった。
何しろ相手も同じ人型とは限らぬ状況だ。異形の兵器と相対した時、相手がどのような戦術を駆使してくるのか。自身はそれにどう対処するのか。ありとあらゆる想像を働かせなければ生き延びることは難しい。
もちろんそれを実行に移す反射神経、咄嗟の状況判断力は、依然としてパイロットの必要条件である。

また、戦場においてもう一つ忘れてはならないファクターがある。

物資の供給だ。

地球内でのたゆまぬ紛争から今日に至るまで、この星から戦場が消える事はなかった。

そのため今こうしている間にも、各地の兵器工場では昼夜を問わずフル稼働で、EXAMACSの各種モジュール開発を続けているだろう。

それでもなお激化し続ける戦闘に対しては、充分な配備数を用意できるとは言えないのが現状だ。

各部モジュールの開発にかかるコストも違えば、掛かる時間も違う。

何より、前線から要求される配備数が違う。

各部の損耗率で言えばやはり第一に関節部、次いで腕部の外部装甲やオプションアーマーなど、被弾率の高い箇所が優先度としては高くなる。

対して補給物資の数には限度がある。

有り合わせでどうにか機動兵器を用立ててみせろと言われれば、五体満足なアルトタイプばかりを揃えてはいられない。

そんな現場の台所事情を勘案すれば、いかな形状のEXAMACSであれ乗りこなせるだけの機転もまた、パイロットには要求されるのだ。


ここに、一つの逸話がある。
EXAMACS黎明期、まだ誰もが地球内部の紛争に明け暮れていた頃。
多くの兵士が手足の延長として扱いやすい人型のアセンブルばかりを使う中で、肉食性哺乳類のような四脚の獣を模した機体を駆り、華々しい戦果を上げた者が居た。
彼は民間からの志願兵で、兵役を含む一切の軍事行動に参加した経験は無かった。それどころか、驚くべきことに祖国ではサーカスの曲芸師だったというのだ。
彼は当時こうコメントしている。

「ひとつは曲芸で鍛えられた反射神経の賜物であろうが、もうひとつの理由としてはサーカス内で日常的に触れ合っていた獅子の習性を、そして最悪の事態には、この獣がどれだけ俊敏かつ獰猛に人を襲うのかが、容易にイメージ出来た」と。


果たして、己が肉食獣と対峙した時の戦い方をイメージしている人間など、どれだけ居ただろうか。
反して彼は、家族である肉食獣が、いざとなれば人間をどのようにして狩るのかを常日頃からイメージしていたのだ。

私はここに、EXAMACS戦における一つの真理を見た気がした。

これから幾多の苦難へ立ち向かう事になるであろう諸兄が、その気高き命を散らさぬよう。

本考察が、僅かなりとその一助となれば幸いである。

文:ジョン・ケベック(地球連合軍広報部記者)


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