第11話

〜潮見スキッパーズ〜


翌日から克己が野球部に入部するということで、決起会と称して3人は揃って潮見スキッパーズでランチをすることにした。


「やっぱりうめぇーなぁー!」
「スキッパーズバーガー最高!」
「エッグチーズもうめぇぞ!」
「うんうん。」
「克己、今回何にしたんだ??」
「潮見ダブルチーズ。」
「それもうまそうなんですけどもー!」
「次来たときこれにしたら?」
「絶対ぇそうする!!」
「はいはい!テンション上がるのはわかるけど、そろそろ落ち着いて食べましょー、優希也君!」
「わぁってるよ!ってか、なんだその言い方?」


スキッパーズの価格帯はハンバーガーチェーン店などと比べると高めの設定となっている。
最初に行ったのはオープン記念価格だったが、今回は通常価格だ。
セットとはいえ1000円超えは当たり前で、モノによっては2000円近くするモノもある。


なぜ高校入学してまもない3人が足を運んでしまうのか?


まずは味の良さだ。
スキッパーズのハンバーガーはどれも肉肉しいので食べたときの肉感がスゴい。
また使ってるソースも絶品で、肉と絡みつくと何倍にもなって美味しさを得ることができる。
極め付けはバンズだ。
自家製バンズは最初の歯触りはサクッとしているが、中はふんわりしっとりしている。
これがソースと肉と絶妙に掛け合わされて食欲をそそられる。
《ヤミつき》という言葉はこのためにあるのでは?と思わされる。


また3人に共通してる点があり、それも大きな理由となっている。
3人とも倹約家なのだ。
普段から贅沢どころか衝動的な買い物など無駄遣いは一切せず
本当に欲しいと思ったり、必要と思ったモノは誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントととして手に入れる。
お正月のお年玉は使ったことはなく、月の小遣いまでも使い切ることなく結果的に貯まっていっている状況なのだ
その辺はとても似ている3人だからこそ居心地が良いのだろう。だが、これほどまで価値観が合う人間が近くにいることが珍しいことだということをまだ理解するまでには至っていない。

"すっごく美味しいね"
"待ってましたー"
"デカっ!"

日曜日なだけあって店内は老若男女問わず賑わっている。
特にお子様連れが多く見受けられる。
一つで充分と思われる大きさのスキッパーズのハンバーガーを小学生にも満たないであろう子供が食べきれるのか?
そこはさすがで、スライダーと呼ばれる大人なら一口大サイズの小さなハンバーガーが一つの皿に数種類乗せられて出てくるモノもある。またそのスライダーを宝箱のに乗せたお子様セットもある。
来店した人それぞれが楽しめるようにできているのがオシャレな店内と相まっているようだ。


それは3人も同じのため
決起会をするにあたり、どこで行うかという問題は秒で片付いていた。


「ねぇ克己、野球部って休みあったりするの?」
「そういやぁ中学のときはほぼなかったな」
「基本的には最低週一は休みがあるみたい。大会期間中や今みたいな新入生受け入れ時期は別として、大体月曜は休みみたいだね。」
「へぇー結構休めるんだな」
「野球部だけじゃなくて部活動全般的に休みがあるみたいだね」
「えっ?そうなの?」
「休ませなくちゃいけないルールみたい。」
「だいぶ緩くね?」
「あっ、うちの学校だけじゃないんだって。」
「えっ??」
「よくわかんないけど、教育委員会?的なところが決めたんだって。」
「ってことは甲子園常連のようなとこもってことになるのか!」
「一応はそういう決まりみたい。」
「まぁ…そういった連中は隠れてやってるだろうけどなー」
「だねー」
「部活ないときはグランド使えるか聞くの忘れた。」
「出た!練習のムシ!!」
「練習量ハンパないモンね、克己は!」
「そう?」
「この自覚ない感じがまたエグいんだよなぁーコイツは!」
「グランド使えないときは私と一緒に練習しよう」
「んー…」


考え込む克己


「ん?どしたの??」
「いや、ほら里奈これから忙しくなるじゃん?」
「まぁ…その予定かな」
「それなら頼りきりも良くないと思って。」
「んー、そう…かも?」
「もしお互い都合合えばよろしく頼むね。」
「オーケー!」


ガヤガヤガヤ


「それにしても今日はすげぇな!激混みじゃん!」


そう言いながらポテトを頬張る優希也


「店長の顔、必死だね。」


そう言いながらサラダを食べようと手を伸ばす克己


「仕事、全然しない人じゃなくて良かったと思うのは私だけでしょうか?」


そう笑いながら話す里奈
克己と優希也もつられるように笑う


「何にする?」


克己が席を立つと同時に2人に聞く
スキッパーズのソフトドリンクはドリンクバー式で、客である自分で注ぐ飲み放題システムなのだ。
優希也はすまんと言いつつコーラを頼み
里奈はありがとうと言いながら烏龍茶を頼む
コップ3つを持って克己がドリンクを注いでると、そこに大きめな声が飛んできた


「どう?満喫できてる??」


厨房から店長が声を張る
スキッパーズの厨房はカウンターと面していて、しきりもないためカウンター席の人とは厨房にいてもゆっくり話せる形で、支柱となってる柱を除けば厨房から店内を見渡せる。それによりお客様の声を、特に「すみません」を聞き逃しを極力減らすことに注力している。


「ごめんね!今日バタバタしてるから話すどころかちゃんと挨拶もできなくて!!」


汗だくになりながら鉄板と向かい合っている店長の顔は仕事人の顔だ。


「お忙しいのは良いことです。」
「おっ!良いこと言ってくれるじゃん!ありがとう!!」


一連のやり取りが終わると会釈をして席に戻る克己


「サンキュー!」
「ありがとう……あっ、氷なし!」
「いつも通りね。」


そう言いながらハニカム克己
この後小一時間話し込む3人
それはそれはいつものように…
しかし其々のやるべきことがまもなく本格的にはじまる
それはこの"いつも"がなくなることを意味している…
それを惜しむかのように3人は今の時間を満喫する


他愛もない会話に笑い声がこだまする…

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