第23話 不協和音は掻き鳴らしまくると、意外にまとまるという不思議

〜練習後の部室にて〜


「やってらんねぇよ、ッントによぉ!!」
「なぁー」


不機嫌全開な屋敷とそれに同調する須藤
ゴールデンウィークの連戦から2週間
練習も練習試合もすべて克己ら4人の1年生を中心としたチーム作りをしているのは誰の目から見ても明らかであった。
それはこれまでの高校野球生活にはなかったことのため、その事実を受け入れ切れずに不満を抱えていた。


「なんで1年が出しゃばってんだよ!ふざけんじゃねぇってぇの!!」
「なぁー」
「みんな揃いも揃ってすげぇーすげぇー騒ぎやがって、大した成績でもねぇクセに試合に使われやがってよぉ!」
「なぁー」


不満は留まることがない…
実際に出場機会が減りつつある自身の現状に反して安打(ヒット)の数は多い方であるため、屋敷の言い分もわからなくはない。
しかしその殆どが当たり損ねがふらふらっと相手野手の間に落ちたり、ぼてぼての当たりが相手野手のいないところに転がったりと、偶々(たまたま)が続いた結果である。
それにより数字上では克己ら1年生を僅かながら上回っている。
…しかし…
野球は個人競技の要素が多分に含まれてるスポーツだが、結局のところ団体競技だ。
団体競技である以上其々の役割がある。
ただ安打を放てばそれで良いわけではない。
それに野球は3割打てば一流と言われるスポーツだ。
よって安打以外の部分がどういう内容であるかが大事な要素となってくる。
それは数字には決して表れない要素なのだが、その点では克己ら抜擢されてる四人は全員が素晴らしいと言える内容であり、屋敷らと比べるまでもない。
ましてや1年と3年という二年間の差がある。たった二年間だが、高校野球の二年間は差は途轍もなく大きい。
その点も加味すると、屋敷・須藤らではなく1年生を起用する理由であった。


「俺にはアイツらが何がすげぇーのか全然わかんねぇわ!大したことねぇし!俺が本気出したらもっとすげぇーし!!」
「なぁー」
「ここは一つ上級生の威厳というモノを見せるためにもシメてやらねぇといけねぇーな!」
「なぁー………って、えぇ??!!」
「なぁに驚いてんだよ?当然だろ?調子のってる1年を3年生様がシメる、教育的指導ってヤツだよ!」
「いやいや、それは流石に……やめた方がいいよ、やっちん…」
「やっちんは止めろっていつも言ってんだろーが! いいんだよ!監督さんのお気に(入り)だか何だか知らねぇけど、これは罰だ罰!」
「やっちん…」


ガチャッ


「それは言い掛かりにも程があるだろう」


ウエイト室と部室をつなぐ扉から現れた遠藤


「なんだ?遠藤、てめぇも1年共がお気にだってことは知ってんだよ!」
「むぅ、それとこれとは関係ないな」


秘かに頷く須藤


「うっせぇよ!!てめぇもシバくぞ!?」
「やれるモンならやってみろ」
「…!!っざっけんな!!」
「やっちん!ダメだって!さすがに!」


遠藤に殴りかかろうとした屋敷を須藤は必死に止める


「うっせぇーー!!離せコラーーー!!!」
「殴りかかるのもアレだけど、相手はケガ人なんだよ」
「んなモン関係ねぇーー!!」


完全に頭に血が上った屋敷は一向に気が収まる気配がない
須藤の静止を振り切り遠藤目掛けて殴りかかる屋敷


ガッッ!!


遠藤の顔を目掛けて放った大振りの右フックがヒットした、しかし…


「効かんな。そんな屁っ放り腰のパンチなど俺には効かん」
「なっ…」


屋敷は一瞬たじろいだが、怒りの感情が再燃して再度殴りかかろうとするが…


…屋敷は気がついたら部室の天井を向いていた。


「うむ。目が覚めたか?」
「うぅ…」
「やっちん、大丈夫?」
「何言ってんだ?これくらい…」


起き上がろうとする屋敷を静止する須藤


「今は動かないでそのままにして、頼むから」
「あぁ…」


今にも泣きそうな表情を浮かべる須藤の訴えに、屋敷は素直に従うしかできなかった。


「少しは冷静になれたか?」
「あぁ、おかげさまでな…」
「うむ。なら良かった」
「良かったじゃねぇよ…いてて」
「スゴい音したと思ったらやっちんが倒れてて、全然起きないから俺心配で心配で…」
「須藤……すまん……」
「目を覚ましてくれてホント良かった!」
「ホント……すまない……何してんだ、俺は……」


二人の目には涙が浮かんでいる


「少しは気が晴れたか?」
「田代…お前、居たのか?」
「須藤が飛んできてな。事情は遠藤と須藤から聞いたよ」
「うむ。こういうときは俺より田代の方が適任だろうからな」
「ふっ、間違いねぇな」


今の自分の置かれてる状況
それに対する不満
急に変えられたシステムなど
屋敷は心の内を包み隠すことなく話した。


「すまんな、俺のせいだ」
「そんなこと…」


言い掛けた須藤を静止して続ける田代


「アイツらの実力を見て、遠藤と三浦コーチ、監督さんに進言したのは俺だ。だから今回の件は(混乱を招いたのは)俺のせいだ、すまなかった…」
「いや、俺もホントはわかってた…自分の実力じゃアイツらに勝てないって。でも認めたくなくて……巻き込んじまってすまなかったな、すーやん」
「やっちん……」


屋敷が苦笑いを浮かべながら


「それにしても何なんだよアイツら!あんなヤツらうちなんかに来るんじゃねーよ!」
「なぁー」
「屋敷…」


ゆっくり身体を起こしながら


「決めた!」
「「???」」
「俺、サポートするわ!」
「「???」」
「まぁ今のままじゃ(ベンチ入りメンバーから)外されるのは俺とすーやんだろうからな。だったらいっそのこと後輩共の指導に回ってやろうってな!」
「やっちん!」
「悪いけどすーやん、付き合ってもらうからな!」
「やっちん!!」
「ってなわけで…田代、遠藤 迷惑かけた分、それで勘弁してもらえねぇーか?」
「ったく…すげぇなお前ら」
「「??」」
「よろしく頼む!」
「うむ!」
「よしっ!ビシバシ厳しくしてやろうな、すーやん!」
「なぁー!!」

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