第24話 背番号発表

「おい、てめぇら!しっかり(プレー)しやがれぇ!!」
「へいへい、しっかりなぁー」


屋敷と須藤がチームを煽るように大声を張り上げる


「っしゃーー!やってやるよーーー!!」
「負けっか、おらー!!」
「おっしゃ、こぉーーい!!」


"あの件"からチームの雰囲気がガラリと変わった。


1年生の台頭があり、チームは上向き傾向になった
それにより追いやられてる自分の現状を受け止めきれなかった屋敷
その不安・不満からチーム内騒動になりかけたが、屋敷が3年生全員の前で謝罪したことによりそれまで練習態度や後輩たちへの振る舞いなど問題視していた他の3年生たちも溜飲を下げ、下級生部員や首脳陣に知らせることなく終息した。


「おい五十嵐!今のは捕れただろ!最後まで諦めんなっ!!」
「万永!カバーだろっ!お前そんなんじゃメンバー外されんぞ!!」


"あの件"以来、屋敷は誰よりも声を出してチームを鼓舞する。
屋敷同様にチームを鼓舞しつつサポート役に徹する須藤の姿もあった。
はじめはあまりの変貌振りに1年生は驚きを隠せなかったが、元々ムードメーカーの気質が強かった屋敷のことを知ってるモノも多く、その大半は驚きより安堵感の方が強かった。


➖➖➖バッティング練習➖➖➖


カキーーーン
カキーーーン


「三浦、ちょっと来い」
「はい」


バッティングを見ながら三浦を呼びつける高木


「コレが夏のメンバーだ。練習後にお前から発表しろ」
「えっ?は、はい…」


いつもは監督である高木から発表することが当然であったため、突然のことに驚きを隠せない様子のままメンバー表に目を通す。

1 田代 三年
2 大野 三年
3 森  一年
4 欠端 三年
5 新浦 三年
6 知野 一年
7 山本 二年
8 牧  一年
9 井手 二年
10 遠藤 三年
11 加藤 三年
12 桑原 一年
13 佐々木 二年
14 川村 二年
15 五十嵐 二年
16 山崎 三年
17 万永 二年
18 進藤 二年
19 石井 二年
20 堤  二年

以前渡されたメンバー表のままだった。
最近の屋敷や須藤のチームへの献身振りや前向きな姿勢などを考慮してベンチ入りすることもあるのではないか?と思っていた、が……


「5月の下旬くらいか…」


高木がふと語り出す


「屋敷と須藤が俺のとこに来て "これからはチームのために裏方に徹します" と言ってきてな…」
「えっ…」


メンバー表を渡されたとき以上に驚いた顔をする三浦


「どういうことかと問いかけたよ、さすがに」
「はい…当然ですね…」
「聞けば "雑用から檄飛ばし、またコーチ的な立場でも何でもやります" って言ってきやがった…」
「そ、そうなんですか…」
「そんなことをしてたら練習できなくなる…それはどういうことか理解してるのか?と念を押して聞いたよ」
「はい、3年生にとっては高校生活最後の大会ですから…練習できないと…」


『試合に出れなくなる』
三浦はそう言い掛けたが、口にすることを止めた


「 "わかってます。でも良いんです。今自分らが練習してメンバー入りを目指すことより、裏方に回る方がチームのためになると思ってのことです" なんて言い切りやがった」
「…あの屋敷が…」
「何があったかわからんが、あぁまで言われたら、なぁ」
「…なるほど…」
「だから屋敷と須藤はメンバー入りのことは理解してる。俺も俺でアイツらにスタンドからチームを鼓舞してくれ、と頼んでおいた」
「そ、そうなんですね」
「今のアイツらなら適任だろうからな」
「はい!間違いないです!」

➖➖➖練習後の円陣➖➖➖


三浦から神奈川県夏季大会のメンバー発表がされた。
屋敷と須藤がメンバー入りしなかったことにザワついたが、それを本人達が抑え事なきを得た。


神奈川県は全国でも屈指の激戦区
出場校もさることながら、何よりベスト8に残るチームならどこが甲子園に出場してもおかしくないレベル
そして近年では毎年優勝校が違う…それは絶対的な力を持つ高校がいないことを表している。
しかし、近年初戦敗退を繰り返していた鶴崎高校はもし初戦に勝ったとしても2戦目はシード校とぶつかる。
チームの雰囲気や練習への取り組み、ここ数試合の練習試合の結果など含めて期待感はあるが、どこか疑心暗鬼の三浦の表情は冴えなかった。
そこに…


「よーしっ、みんな一言だけ言わせてくれ!」


選手全員の視線が田代に注がれる


「…勝つぞ!」


一瞬の静粛を経て


「「「「「おぉーーー!!」」」」」


怒号のように声があがる。
田代は振り返り、三浦と目を合わせながら一言


「勝ちましょう」


その顔は穏やかに笑っていた

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