第4話

潮見スキッパーズ(SkipperS')


潮鶴川沿いに4月1日にOpenしたばかりのハンバーガー屋
店の入り口は奥まったところにあるため、気をつけなければ素通りしてしまうような立地だが、お洒落な店内の雰囲気と窓側の席から見える潮鶴川はとても幻想的で、いつも見てる潮鶴川と違った装いに見える。


「「「いらっしゃいませー!!」」」


店内にスタッフらの声が響き渡る


「3名様でよろしいでしょうか?」


カウンター越しから無精髭を生やした少し強面の男性に尋ねられ少し慄いたが咄嗟に頷く3人


「少々お待ちください!3名様ご案内お願いします!」


男性が声をそう言うと奥から女性の店員さんが現れて案内されることとなる


「では奥の席へご案内します、どうぞ!」
「こちら段差がありますのでお気をつけ下さい」


通されたのは店内一番奥の窓際の席
潮鶴川を見渡すことができる絶景スポット
時間は昼前のためか、客の入りはまばらだ。


「ここ…めちゃくちゃ良い席じゃね?」
「うん、思った!」
「私、潮鶴川で感動したのはじめてかもしれない!」


あまりの感動に会話が弾む3人
そこに


「どう?気に入った?」


そう話かけられたのは入り口で尋ねられた男性
景色に目を奪われていた3人は話しかけられるまで男性の存在に気づかなかったためここでも慄く


「ここからの景色がめっちゃ良くて、オススメなんだよね!」


続け様に


「俺さぁこの街出身でさぁ、いつかこの地元で店出したいと思って、ようやく店出せたんだよぉ〜。10年かかったけどね!」


屈託のない笑顔で話す男性に徐々に心を許す3人
男性のいろんな話が続いてる途中に


すみませーん!


「やべっ! あっ、注文決まったら呼んでね!」


そう言い残した男性はおしぼりをテーブルに置いて急いで呼ばれた方に向かっていった


「なんか…すげぇな、いろいろ」


そうつぶやいた優希也が2人と顔を合わせた瞬間に全員で笑い合った

ーーーーーー

「めちゃくちゃ美味かったな!」
「こんな美味しいハンバーガーはじめてかも」
「バーガーの大きさにビックリだよ!私、夕飯いらないやぁ〜」


いつもと変わらない談笑がつづく…


「そういやぁ二人とも高校では野球部に入るんか?」
「克己はそうだろうけど、私は入らないよ」
「ん?なんで?」


優希也らが通う鶴崎高校は女子野球部は現存しないが、早ければ今年、遅くても来年には設立することが決まっているため、昨年から目当てに受験してる女生徒がいるのは周知されている


「いろいろあるけど…やっぱり試合に出れないのが一番の理由かな?」


現状の鶴崎高校には女子野球部がないため、男子野球部に所属する形をとっている。
そのため女子選手は女子の公式戦に出場できない。
また男子高校野球は女子選手が部活に所属している場合は練習試合には出場できるが公式戦の出場は認めていない。
なので例えどんなに優れた女子選手でも公式戦に出場することはできないと高校野球連盟が決めている。
最近では甲子園出場校の女子マネージャーがグランドに入ってボール拾いなど手伝いをしていたところ、連盟から厳重注意をされるなど高校野球の大会で女子はグランドにすら入れない状況である。
ここで里奈が話している試合に出れないとは《公式戦に出場できない》ことを指す。


「じゃあ、どうすんだ?」
「クラブチームに入ります!」
「おぉー」
「へっ?クラブチーム??何それ??」
「んー、簡単に言うと学校とは関係のないクラブ活動だね。学校と違うのは部員がクラブ側に毎月決められた部費払って、それがチームの活動費などにするの。」
「へぇー、そんなんあったんだ…って克己は知ってたの?」
「うん、前々から相談されてたときに俺なりに調べたよ」
「かぁーーー!相変わらず真面目かよっ!!」
「そうなの!それで相談に乗ってもらっていくうちに自分で良いなぁと思ったチームが見つかったからそこに行くことにしたの!」
「なるほどねぇ〜…ホントに自分で決めたんかっ?克己におんぶに抱っこじゃねぇの??」
「自分で決めたわよっ!そりゃ調べてくれたりしてスゴく助けられたけど、、最後に決めたのは自分の意思だもん!!」


頬を紅らめながら自分の意思だと主張する里奈に同調するように克己は微笑みながら頷いている


「そか!それなら良いけどねぇ〜」
「そんなの当たり前でしょ!」


優希也はわざといやらしい感じを含ませつつ嬉しそうに笑う
それにつられて里奈も笑う


「何なに?なんか楽しそうじゃん!何か良いことあった?」


強面の店員が3人に話しかけてきた。
手には自分で飲む用と思われるグラスを手にしてる。


「へへっ!」
「いつも通りです。」
「あれ?私たちっていつもこんな感じ?」


全員の笑い声がこだまする
その流れで3人の席に座り込む男性店員


「えっ?良いんですか、座っちゃって?ここ客席だし、まだ他にお客さんいるのに…」
「あっ、大丈夫大丈夫!準備終わってるし、まだピーク前だし、いつものこと!」
「えっ?」


3人が驚いた表情のまま目を合わせる
席を案内してくれた女性店員は『やれやれ』とでも言いたそうな呆れ顔でこちらを見てる
本当にいつものことなんだ、と察する3人
どうやらピーク時のように忙しいときは厨房に立つが、そうでないときは他のスタッフに任せてよく客席に座って話し込んでるらしい
男性店員は店長でありオーナーでもあるとのことだ

「みんな何年生?」
「高一です。」
「そうなんだ!ん?ってことは今日は入学式とか?」
「はい、そうです!」
「たまたまなんですけどチラシを見て来ました!私ちょっとカッとなっちゃって、それで気分転換しようと誘ってもらって…」


わかってるなら少し自制してくれないかな…と思う克己と優希也だったが、言葉にはできないので何事もなかったように振る舞う。
里奈は負けず嫌いも相まって熱くなりやすい一面がある。
それが良いところでもあるのだが……たまにキズだ。

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