第14話 ヘッドコーチ三浦

「どうだ?お前から見て」
「そうだなぁ、良いヤツとそうでないヤツの差が歴然としてるって印象かな?」
「なるほど!」
「俺たちの後輩にあたる牧、あと一場シニアの森はやっぱり群を抜いてるな。俺たちもうかうかしてられんな、こりゃ。」
「おぉ、それほどか!」
「遠藤、お前相変わらず何も知らないんだな…せめて後輩の牧くらいは覚えておいてくれ…」
「ところで、何でそんなヤツらがうちに来たんだ?他にも行けるとこたくさんあったろうに!」
「あぁ、それはアイツのせいらしいぞ!」


そう言って指を差す田代
その先にいるのは克己
克己は一人で黙々とアップをしている。
先程までは牧と森と話していた様子だったが、今は一人でダッシュを繰り返している。
時間というのもあり、みんなそろそろ切り上げようとしてるが、克己からは終わる様子が見えない。
牧が気を利かせて呼び止めようとするが、聞く耳をもたない様子だ。


「牧!お前だけでいいからこっちへ来い!」


田代が部室前から大きな声で出して牧を呼ぶ。
田代も克己が "野球センス抜群のクセにどこか抜けてるヤツ" という情報を事前に仕入れていたのだ。


「むっ?あれは良いのか?」
「あぁ、知野ってヤツはどこか抜けてるらしい。あぁいうのは変にこちらが指示するよりある程度は自由にやらす方が良いと思うからな。」


『殆ど牧からの情報だけど』と思う田代
とはいえ高校野球はチームスポーツである。
チーム方針に逸脱しすぎてしまうようなら戒める必要はある。
俺たちはまだ良い…問題は監督だ。
幸い今日は自主練日のため来ない。
だからこそどれ程の"クセモノ"か確認しようと田代は考えたのだ。


遠藤と田代の下に集まる新入部員の面々
そこに少し遅れて到着する克己
かなり走ってた様子だったが程良く汗をかいていて、少し息が荒い。
他の部員とは一人だけ様子が違うことが端から見ても一目瞭然であった。


「よし、これからキャッチボールを行う!速やかにスパイクに履き替えて外野に集合だ!」


そう言うとゆっくり外野へ向かう遠藤
田代は"任せた"というように手を挙げて遠藤を見送る。
今日の田代はウエイトトレーニングを行うので、部室の隣にあるウエイトルームから遠目に見ながら遠藤に任せる形を取る。
客観的に一年生を見ることと、遠藤が我慢できなくなったときに駆けつけることができるように、グランドに注意を払いながらトレーニングに励む。
『まぁ監視役だよなぁ』などと思っていたらキャッチボールがはじまった。


➖➖グランド➖➖


「近いモン同士で良いから二人一組になれ!牧!知野!お前らは組め!!」
「えっ、あっ、はい!」
「はい。」


克己とキャッチボールしたいと思っていた牧としては願ったり叶ったりの指名だったが、それより名指しで呼ばれたことに驚いていた。
『遠藤先輩が俺のことを知ってる?!』と。
それもこれも田代の助言なのだが…知る由もない。。


「今日はそんなに離れる必要はない!MAX塁間くらいだ!」
「「「はい」」」」


〜2分後〜


全員塁間の距離でキャッチボールを続けている。
適当に投げているモノ
山なりで投げているモノ
すっぽ抜けたり引っ掛かったりしてちゃんと相手に投げられないモノ
談笑しながらやっているモノ など
大半の選手は取組む姿勢と技術面が乏しい面々だ。


一方で牧、森の2名は段違いだ。


森は183㎝の長身と長い手足に柔軟性を活かして全身が弓のようにしならせてキレの良いボールを投げ込んでいる。
中学から進学した高校一年生とは思えない威力だ。
しかし少しコントロールがバラつく。
当の本人はそれもやむなしといった表情をしている。
シニアから上がってきた森にとって硬式球の扱いは慣れたモノであったが、中学3年引退からは受験勉強に励んだこともあり、練習を再開したのは3月に入ってから。
しかも引退から約6ヶ月で身長は7㎝伸びており、まだまだ伸びる気配を感じ取っているからこその表情であった。


➖➖ウエイト室➖➖


「どうだ?今年の新入生は??」


ベンチ台に座って新入生の様子を見てる田代に声をかけてきたのはヘッドコーチの三浦だ。


「面白いのが数人いますね」
「ほう、どいつだ?」
「あのヒョロッとした森ってヤツと…」
「おぉ!でけぇな!」
「サウスポーの牧」
「確か、お前らの後輩だって言ってたヤツだよな?」
「はい、そうです。アイツはまだまだ荒削りですけど、持ってるポテンシャルはスゴいですよ!それだけで南海大附属と潮田学園から推薦きましたから」
「南海と潮田??」
「他県から特待(特待制枠入学)きてますよ」
「マジかよ……」
「あっ、森も同じ感じみたいです」
「はっ?何でそんなヤツらがうちに来てんだよ??」


田代は事もなげに言うが、三浦は動揺を隠せないでいる。


バシーーーン!!!


力強いボールを投げ込み、得意気な表情を浮かべる牧。
身長は157㎝と小柄だが投げるその姿はバネの塊のように躍動感がある。
その類い稀なる運動能力が強豪校が欲しがった逸材ということを表している。


「ホントに一年かよ……ってか何でうちに来てんだよ?!」
「それ、二度目ッスよ…」


苦笑いをしながらツッコむ田代。
すかさず


「その原因(きっかけ)はアイツですよ!」


克己に向けて指を差す。


「はぁ?どういうことだ??」
「見ればわかりますって!」


田代の言ってる意味を正しく理解できずにいる三浦に田代はまずは見ることを促す


「はぁ…」


ツッコむことが多くて呆れ顔の三浦
いやいや、何言ってんだ田代?と心の中でボヤく。
それもそのはずだ。
森と牧は疑いようのない逸材で、鶴崎高校野球部のレベルなら今夏の大会からレギュラーとして出場するべき選手達だ。
それこそ県大会シード常連校のチームであってもレギュラーになれずともベンチ入りメンバーとして背番号を付けていてもなんら不思議はない。
そんな連中の原因(きっかけ)になったという選手は一体どんな選手(ヤツ)なのか?

そんなことを考えながら牧と反対側にいる克己を見定めようとした瞬間、三浦は克己に視線を…否、意識のすべてを持っていかれることとなった。

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