見出し画像

母らしい母へ

※フィクションです。
私はあなたのことがきっと嫌いです。
でも、あなたのことをすごく母親らしいと思っているし、そう感じているのに、どうしても辛い。嫌いだということが辛いのです。

私は酷いアトピーを患ってる。
幼い頃から肌が弱く弟も同じだ。
だから、昔から母は異常に潔癖で、時としてそのピリピリした空気に怯えるような感覚を覚えていた。
特に寒い真冬でも家中の窓を全開にし、空気を入れ替える。本当に寒くていやだった。
いろんな療法や医者にかかるために遠くまで連れられたこともあった。

私と弟のアトピーはなかなか良くなりません。学校ではこの皮膚が気持ち悪いと、近所の子にからかわれることもあった。そんなのはいつものことだし、慣れているつもりでも、どうしても許せず、辛くなるときがあった。

母は「何かあったの?」と優しく尋ねてくるが、私は放っておいてほしかった。でも、あまりにも心配するので、出来事を話してしまった。
そうしたら、母は相手に怒鳴り込みに行った。私は穏便に済ませてほしかったのですが、どうにも心にわだかまりができ、その子とはそれっきりの関係になり、互いを避けるようになった。

「何かあってもお母さんはあなたの味方だからね!」

家の中のものや衣類、環境、それは母が決め考えた配慮で出来ている。私達の皮膚が悪くならないように。

「可哀想に、こんなに皮膚が悪くて。ほんととうにかわいそう…」
私達はそんなにかわいそうなのだろうか…。
そしてまた、首や腕を無意識に掻いてしまう。

弟はいつしか家に引きこもるようになり、趣味で絵を書き始めた。SNSでひそかに披露してネットで友だちができた。ネットなら自分の姿のことは気にしなくてもいい。趣味、興味、こんな絵を描いてほしい。そんな交流が楽しい。
しかし、そのSNSが母に見つかってしまった。
別に見られて困るわけではないけどあえて触れてほしくもない。
や、別にいいんだけど…。

アップロードのたびに母のアカウントがつける「いいね」。それから、突然見知らぬ、共通点のないフォロワーが現れ始めた。
母が「息子、なかなか良い絵を描くの」なんて言って触れ回ったようだった。
弟のアトピーが少し悪化した。

大学を卒業し、私は就職で家を出ることになった。母は部屋探しから家具の手配までいろいろやってくれていた。
自分でも調べていたが、母をがっかりさせてらならないような気がして候補の家電や住む物件をあきらめた。というより、探しておいても意味がなかった。
母の善意は受け取らなければ、受け取るようにしている。

やっと家を出て、一人になったことにスカスカしたなんだか虚しいような寂しいような、空気が空気みたいに見えてきて一息ついた。
そしてなんだかホッとした。

母は教育機関で働いており、職場でも人望が厚い。夫婦も一般的に見たら仲がいいだろう。幼馴染だった二人は友達のような掛け合いで、周りからはお似合いだと言われる。
父は仕事が忙しく家で会うタイミングがなかやか難しい。

職場の話も食事中によく聞く。
客観的にみれば、気をまわすことができ、家族思いで夫婦仲もよく、息子二人立派に育て、親の介護もこなし…スーパーお母さんだと思う。良い家庭を作ろうと努力し良い家庭なのだと思う。
他人の良いところをよく褒めるが、悪口も案外多い。

私が母を嫌いなのは、込み上げてるくる違和感の不快さなのだ。
私達兄弟のアトピーはひどい。酷い酷い、可哀想と言われることが苦しい。聞くに堪えない。私達はそんなにひどいのだろうか?

私は自分のことは自分でやりたい。だが、母を立てるとなると「やってもらわなければならない」ため、なんというかめんどくさいのだ。
おまけに、他人のことを安易に褒めそやす割にそれがだいたい思い込みで根拠が薄い。
騙されてんじゃないかと思う。

逆に、なぜかこき下ろした相手が私からすれば真っ当に思えることもしばしばあった。
社会や学校に出れば出るほど、知れば知るほど些細な違和感が苦しい。

なんてゆうか、私達兄弟は「良い親」であるための出演者のように感じてしまうのだ。
しかし、母は決して悪い親ではない。
なのに私達兄弟はずっと苦しい。

今では、やっと親元を離れることができ、仕事に専念し、親元に戻るのも年何回か。
それくらいがちょうどいいなんて思える。
私の皮膚は少しずつよくなってきた。

いいなと思ったら応援しよう!