Lass本編集後記

 ※本編を読まれてからのほうがスムーズにご理解いただけるかと思います。

 今回の企画が生まれたのは、僕がLEGIOん氏と知り合ってすぐ(10年代後半)の頃でした。ぼんやりとした思い付きレベルのもので、企画などとは呼べないしろものだったのですが。
 当時の僕は、LEGIOん氏と顔を合わせるたびに失礼にならない程度に当たり障りのない「Lassのあれこれ」をお訊きしていました。すると、LEGIOん氏は僕の欲している答えの三倍くらいの情報を返してくれるのです。またその話が濃くて面白い。(今回のインタビューでは出てこなかった話もあります)

 デビューしたばかりで、ネタ帳を埋めるのに汲々としていた僕としては「こういう業界珍ネタをまとめてどっかの編集部に持ち込めないかな」などと考えたりもしました。ですがその後、剣技マナ氏やTOC氏と面識を得て、別の視点から昔の話を伺うにつれて「これは業界四方山話じゃなくてもっと厚みのある題材になりそうだ」と考えを改めました。

 Lassの歴史をまとめたほうがいいのではなかろうか――と。

 とはいえ、中途半端な思い付きの企画を剣技マナ氏とLEGIOん氏に持ち込むわけにはいかず、なんとなく頭の中で転がしているうちに時は過ぎていきます。(自分自身の本業の原稿も書かないといけませんから)

 そして22年の暮れも押し迫った頃に「そろそろタイムリミットだな。来年は青蒼の二十周年で、Lassが二十歳になるアニバーサリーイヤーだぞ」と、急ピッチで企画書を作り上げました。結局、僕が企画書を両氏にお渡ししたのは23年の1月18日のことでした。
「お二人のうちどちらかが難色を示したら企画は破棄」と決めていたのですが、ありがたいことに両氏の賛同が得られたので、本企画は実稼働することとなりました。

 企画書を作るにあたって「両氏の視点を一つにまとめてドキュメンタリー小説に仕上げる」という方向も考えました。しかし、そもそもどの程度のテキスト量になるかも分からず、本文中に組み込める題材がどれほどあるのかすらも分からない――という状況では、とてもではないですがプロットなど作れません。お二人から話を聞いてからまとめて文章を組み立てる、というスタイルでは、それこそ二年がかりになってしまいますから。そこで「これはもうストレートにインタビューの文字起こしでいこう」と決めました。

 2月初頭に始まったヒアリングは、二週間に一度ほどの頻度で行なわれ、5月末まで続きました。途中でLEGIOん氏がSNSシャットアウトゾーンに入ったので「もしやこれはリスケか」と焦ったのですが、こちらのヒアリングはコンスタントに進めて下さってとても助かりました。
 お二人へのヒアリングはトータルで三十時間ほどかかり、そのうち使える部分が二十五時間ほど。一回が二時間ほどのインタビューを文字に起こすのに四日ほど。それを読むのにふさわしい文章に編集するのに一週間――という、まあまあハードな執筆スケジュールになりました。
(ちなみに使えなかった部分は、剣技マナ氏の『ゼル伝』に関するトークだとか、LEGIOん氏の「最近読んでるこんな漫画」のトークだとかいった、いわゆる雑談パートです。こういう息抜きをなしにブッ通しでやるというのは、まず不可能です) さらにその合間合間に復習としてLassのソフトを『青蒼』から順にプレイしていたので、制作者の解説付きでゲームをやっていたような奇妙な感覚でした。間違いなく、人類史上初の経験だと思います。

 人類史上初といえば「一人の業界人の回顧録」というスタイルではなく「複数人の証言で綴るエロゲー会社の盛衰記」という本書のスタイルは、僕が知る限り史上初です。ですから、本書をお手元にお持ちのかたがたは史上唯一の書籍のオーナーであるとお考え下さい。
 ついでに、いまなお手元にソフトがあるというかたは、本書を片手にプレイしてみてください。アナログなオーディオコメンタリーが楽しめます。

 執筆作業が後半に入ったころにコミケの申し込みが始まり、未経験の僕は本当に四苦八苦しました。正直なところ、TOC氏のアドバイスがなければ、まず受からなかったでしょう。例の高田馬場界隈の面子のコミケへの膾炙ぶりを実体験しました。

 本編は全てLassの歴史を追う形で進行しているのですが、一つだけ社内のトピックとは無関係な問いかけをしました。
 章末でお二人に「最後に、これからエロゲで一旗あげようという人々に一言お願いします」と伺っている部分です。僕としては「エロゲはやめときな」というオチがついて終わるだろうな――と狙っていました。二人から同じようにたしなめられて一笑いというノリで、綺麗に〆られるだろうという思惑があったわけです。

 ところが、二人そろって「まだチャンスはあるから頑張れ」という反応が返ってきたのです。しかも「こういうやり方やこういう方向もあるよ」という具体的な内容で。
 これは僕の想定したものとはまったく違う回答でしたが、素晴らしい結末でした。まさしく「瓢箪から駒」です。もはや「シト再生」と言ってもいいでしょう。誰かの真実のまえには、下手な小細工や計算など吹き飛んでしまうんです。

 実はLEGIOん氏からは「Lassが滅んでいく悲しい最後になってしまって、それだとあんまりだから、希望のあるものを同人誌のあとがきで書いてくれないか」と頼まれていました。ですが、お二人の最後のコメントは誰しもが納得と希望を得られるものだったのではないでしょうか。

 もしかすると、また別な方法でLass(ないしはゼロ年代エロゲ)に関するお話をみなさまにお送りする機会があるかも知れません。
 本編を読み終えた剣技マナ氏が「俺、まだ語ってないこといっぱいあるわ……」などと口にしてもいましたので。

 そのときはまたお付き合いいただけると幸いです。

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