見出し画像

『おまえ、誰?』の強度。

SNS、主にエックスとかの誹謗中傷とか、そこまでいかなくても無理解・無責任発言のるつぼとか、別に当事者になったわけではないんだけど、タイムラインに流れてくるたびに、なんだかなあ、の日常は、もはやだれにでもある不快体験なんだと思う。そういう時に、「おまえ、誰?」って返すのって、強度あるレスポンスだと思ったんですね。

これは、今年のフジロックでもっともインプレッシブなライブだったAwichのMC中のことばだったんですが、なんか、もうフジロック終わって3ヶ月以上立つのに、脳裏にこびりついて離れないですね。

『おまえ、誰?』

この攻撃的なセリフは、Awichのファンなら知っているという「WHORU?」を歌う前の前口上的なトークで決め台詞的に放たれるらしいのですが、初見の僕は、ぼんやりステージを眺めていたもんで、ちょっとドキッとしたんですよね。

もうちょっと文脈を話すと、Awichが、GREENSTAGEに立って圧倒的なパフォーマンスを見せつけた上で、

「SZAがキャンセルになってフジロック行く意味ねえとか、 Awichにはサブは務まらないとか! 何にも知らないやつが、ごちゃごちゃ言ってんじゃねーぞ!」

と、Awichが急にキレるんですよ。(セリフは筆者のうろ覚えなので一語一句は正確ではないかも)

そんで、一拍おいて、どこか(誰か)に向かって「おまえ、誰?」と言い放って、WHORUの曲が始まるわけです。

つまりは、フジロックのこの場に来ずに、ネットで(主にエックスで)ごちゃごちゃ批評をたれる(あるいは誹謗中傷に近いコメントを垂れ流す)アノニマスなユーザーに対して言い放ったのでしょうね。

「おまえ、誰?」とか
「てか、あなた誰ですか?」

って。腑に落ちた感があって、ずっと残っている言葉。

Awichのレビューはこちらが秀逸です


それで、SNSだけじゃなくって、日常の会話でも、あるじゃないですか。
なんか訳分からずマウントとられたり、スライサーだったり、相手のことを思いやらない自己中心的な発言や言動に対して「もやっ」とするときも、うまい返しないかなあって。

そんで『逆ソクラテス』読んだんですね。

『逆ソクラテス』は、ミステリー界の巨匠伊坂幸太郎氏による5つの短編集で、表題の短編の主人公は小学生の少年たち。彼らは新しく担任がソクラテスの哲学を教えるものの、実際には生徒たちの個性や意見はガン無視で、「大人」の偏見と価値観を押しつけようとする(ようにこどもたちは感じる)。子供たちはそんな先生に反抗し、自己主張や独自の正義感を見いだしていく。まあアウトラインはそんな感じ。

やっぱりミステリー作家って(偏見ですが)、とても物語の論理構成が緻密で、ひとつひとつ手順を追って、ある一つのメッセージの説得力を強化しているので読んでて小気味いいんですよね。

そんで、少年たちが、大人の権威からくる偏見、独善で相手を押さえつけようとするマウンティングに対しての”適切なあらがい方”として

「僕は、そうは思わない」

をいうわけです。勇気を振り絞って。
反論したら論破されそうだし、でも圧力に屈するのもやだし。ただ一つ言えることとして、自分たちのスタンスを表明するだけのキラーワード「僕は、そうは思わない」をだすと、結構、大人たちもその場ではぐうの音もでなくなる。これも強度あることばだなあ。

やっぱり、ことばから生まれる不快は、より強度で効果的なことばで対抗していくのがいいんだろうなって思う。


いいなと思ったら応援しよう!