一人のあなた
我が店ライヴ喫茶 亀は、劇場というには狭すぎるし、あくまで喫茶店の雰囲気なので、お客同士が仲良くなることも珍しくない。不意に居合わせた人たちで、あれ?ひょっとして「こめかみ二世」さんですか…?あ、そうです、え、ひょっとして…?あ、「ドボスケ」です。ああ!「ドボスケ」さん!フォローしてます!どうも。あ、どうも。みたいな会話もよく見られる。そうして、たとえばライヴ前に外で並んでいるときにちょっとお話したり、終演後に一緒にキャッキャしたり、中には一緒に飲みに行くような仲にまで発展したり、するらしい。SNSもあるし、こうした小さなコミュニティーでは当たり前の現象なのかもしれぬ。同じ趣味を分かち合う者たちで仲良くなるのは何も悪いことでは無い。情報交換や悪趣味な噂で盛り上がることもあれば、時には仲違いすることもあるかもしれぬが、それもコミュニティーゆえ仕方の無いこと。誰かと「好きなもの」で一致して仲間になれば、一人きりで異空間で過ごすよりかは随分と気が楽だろうし、これを機に「こめかみ二世」と「ドボスケ」が生涯の親友になる可能性だって大いにあるのだ。舞台を見に行くことで色んな人と仲良くなれて楽しいです、という話を聞いて、自分は、良かったネ、と素直に思った。
誰ともつるまず、一人で楽しむ人もいる。舞台を愛する人の中にはシャイな人も少なくない。中にはつるんではしゃぐ奴らを横目に、きっしょ、と舌打ちしている人もいるだろう。舞台を見た嬉しさや高揚を別に誰とも分かち合うこと無く、一人でこっそりと心の中にしまい込む。あぁ面白かったナァって余韻に浸って、また今度見に行こうって思いながら帰路につく。自分だけの大切な思い出として秘めておくのは、とても素敵なことだ。どこへ行くにも、一人というのは少なからず不安になるし、何だかちょっと寂しさもあるし、単純に時間を持て余したりもする。だが、それでも、いつもひとりぼっちで舞台に来て、誰とも話さず帰っていくあなたへ、ありがとうと言いたい。舞台の感想などはいつでも私に伝えてくれたら良い。メールでも手紙でも。返事はろくにしませんが。
暗転してライヴが始まると、観客は皆ひとりぼっちになる。各々が楽しみ、笑い、ときめき、目の前で起こる光景に身を委ねる。そしてライトが照らされている間、その間だけ、舞台にいる我々と客席にいる一人のあなたは何らかの形で共鳴する。マジック・モーメントって感じで、まさにそれは美しいひとときだと思う。
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