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私がモンスター社員になるまで #3年目(最終話)

これは、夢と希望で満ち溢れていた新入社員だった私が、
モンスター社員になるまでの物語だ。


4月

新しい派遣社員さんが入ってきた。
派遣社員さん含めてチーム全体で挨拶と自己紹介をした。
比較的和やかに終わったと思っていたが、
会議室から出たところで呼び止められ、
「私何かやらかしちゃいましたかね……上司さん途中からずっと黙ってて」
と小さな小さな声で聞かれたので、
そういえばうちの上司の態度は世間一般的に見て普通じゃないんだったと思いだした。
「え、何もやらかしてなかったと思いますよ!
上司は大体いつもあんな感じなので。
何かあったらいつでも言ってくださいね。」
と言っておいた。

5月

派遣社員さんの仕事の覚えがとても速かった。
上司と相談して、本業務に合流してもらうことにした。
正直余裕がなかったので本当にありがたかった。

6月

新しい派遣社員さんが、「上司さんのしまとりねこさんへの当たり強すぎませんか?」と言い出した。
上司とペアを組んでいる派遣社員さんもすごい勢いで頷いてくれた。
ここで、やっぱり上司の私への態度って傍から見てもきつかったんだなと思った。
私は「知らず知らずのうちに何かやらかしたのかも。私空気あんま読める方じゃないし~」と言っておいた。

その日は帰ってから少し泣いた。
今まで目をそらし続けていたけれど、いざ周りから言われて上司から酷い扱いをされていると自覚したら一気にあふれてきた。
部長も「私のやっている仕事は誰も必要としていない」とか言っていたし……
ホワイト企業で、周りは優しい人ばっかりなのに、どうして私だけあんな上司なんだろう。
私はこのころから「自分は被害者」だと思うようになってしまった。

7月

私と上司と部長で、チームの上半期の振り返りと下半期の目標設定の会議をすることになった。
部長は「しまとりねこさんは何か困っていることはないですか?」と聞いてくれた。
私は「困っていることは特にないです。派遣社員さんたちもすごく良く頑張ってくれていますし」と答えた。
部長はいつもはああそうで終わることが多いのだけれど、
この日は「例えば部長と上司で業務の指示が違うので困るなどもないですか?」と更に質問を続けた。
私は「まあ、全く一緒というわけではないです。
部長の指示はその場に応じて臨機応変に変えられているイメージですが、上司さんは過去の例に従っているみたい感じなので、そういった違いはありますね……」と答えてしまった。

会議後、上司から100行超えのメールを受け取った。
要約すると、「私の指示は過去の例に従うだけだと言われたことに傷ついた。最早謝ってほしいという気持ちはない。前々からすごく傷つくことを言われている。悪気はないのは分かっているが、もう少し気をつかってほしい」といったような内容だった。
私は「何だこれ成人が書く文章か……?」と思った。
完全に上司が異常者で、自分はその被害に遭っているのだと思っていた。
だから深く考えることもなく、適当に謝罪して終わらせた。

8月

上司が急いで帰らないといけないので急ぎの仕事を変わってほしい、
というので私もいっぱいいっぱいだったが変わった。
その日上司は職場の男性社員とカラオケに行っていたことが分かった。

9月

長らく上司とペアで業務されていた派遣社員さんから、
「上司さんから新しい派遣社員さんの契約について相談されて困っている」
という相談があった。
詳細に聞いてみると、愚痴のレベルを超えて人事的な内容を含むような相談だった。
どう考えても派遣社員という契約形態の人に話すべき内容ではなかった。
私は部長に相談します、いつもご迷惑をおかけしてすみませんと謝った。
自分に対して当たりが強いくらいなので自分が耐えていればいいと思っていたが、
他の人にまで影響を与えているのであればもうだめであろう。

部長に相談すると、「これは確かに問題だね……でも上司もいろんなチームでトラブルを起こしてきていて、やっと今のチームで安定したんだよ……だからなんとか……」
と言われた。
私は、「もうこれ以上は受け入れられません。それに、問題はこれだけじゃないんです」と言って、
今まで集め続けた
・上司が出社した日と出社していない日のチームのアウトプット量の差
・上司のミスによって発生したトラブルの件数
・チーム内外から寄せられた上司への不満
・私へ投げかけてきた理不尽な言葉の数々
などなどをまとめた資料を出して部長相手にプレゼンした。
部長はとうとう折れて、上司の異動が決まった。
この件で、自分は間違っていないし、自分の意見ははっきり言った方がいいんだと思い込んでしまった。

10月

上司の業務を引き継ぐために1ヶ月設けられたが、
特に引き継ぎが必要な業務がなかった。衝撃。
「今までありがとう、他のチームでも頑張ってね」の花束はちゃんと渡した。

11月

チームに派遣社員さんが補充された。
今回は新規採用ではなくて、他のチームで活躍していた人が来てくれた。
部長からも、「優秀な人だから」と聞いていた。
簡単にチームメンバーそれぞれの自己紹介とチーム全体の業務説明だけはざっくり実施した。
他のチームで活躍していたならば基本的な部分の教育は必要ないだろうと、
特に教育期間を設けずに本業務に合流してもらうことにした。
分からないことがあったら聞いてくださいねという言葉だけを添えて。

この派遣社員さんは一切質問をしてこなかった。
質問がないってことは大丈夫なのかなと思っていた。

12月

11月に補充された派遣社員さんから、一向に成果物がやってこないので、
どうなっているのか聞いてみた。
そうしたら、全く進んでいなかった。
私はつい、「なんで質問しなかったんですか?」と聞いてしまった。
お給料が発生しているのに、分からないからといって仕事の進捗も気にせずに質問もせずにおいておける心理が心底理解できなかった。
しかも、お任せした業務は新人でも時間をかければ調べながらできる程度の難易度のものという認識だった。
自分自身は1年目の最後に上司から質問しないでくださいと言われて、
質問せずすべて自力で調べたり聞いたりしながらやってきた。
それに対してあなたは質問することも許されているのに、
なんで質問することすらできないの?
1ヶ月近くあったのになにやってたの?
これでいいと思ってたの?と心底思った。
私が今まで一緒に業務してきた派遣社員の方は気軽になんでも聞いてきてくれたので、質問がしにくいという発想に至らなかった。

1月

新しい派遣社員の方と面談をした。
「業務難しすぎるし、私以外のみんなは忙しそうで質問し辛いんです。
しまとりねこさんに言っても仕方がないと思うんですけど、
私別に今のチームに来たくなかったし……」
と聞いた。
私は耳を疑った。
基礎の基礎の業務しか渡していないので、
業務が難しいというのがまず理解できなかった。
これ以上簡単な業務なんてどこを探せば出てくるんだろうとも思った。
そもそも社会人なんだから分からないことくらい自分で質問しなさいよと思った。
それに、チームを悪く言う人を許せなかった。
私達ががんばって、問題行動の多い上司や派遣社員さんたちを追放して、ようやく作り上げた居心地の良いチームをまた掻き乱す敵が現れたと思った。
「でも、質問し辛くても質問しないと仕方がないでしょう?
だってそれが仕事なんですし……聞いてもらえなかったら分からないことが分からないですよ」
と言ってしまった。
この頃から新しい派遣社員さんは休みがちになっていってしまった。

2月

新しい派遣社員さんのお父様が亡くなられてしまったので、
忌引き休暇を取られていた。
忌引き休暇明けに派遣社員さんは出社してきたけれど、
私は父親を、というか、身近な人を亡くした経験がなかったので、
なんと声をかければいいのかわからなかった。
下手に声をかけるとつらいことを余計に思い出させてしまうかもしれないし、
話したければあちらから話すだろうと思っていた。
私は一切派遣社員さんにお悔やみの言葉も励ましの言葉もかけず、
通常通りに業務を進めてしまった。
派遣社員さんのお休みは多くなっていく一方だった。

3月

部長から、
「新しい派遣社員さんは適応障害になったそうです。
契約の更新は終了となります。」
と聞いた。
「適応障害」という言葉をその時初めて聞いた。
調べてみて、ストレスで出社しようとすると吐き気に襲われたりして出社できなくなるとか、そういう症状らしい。

私は頬をひっぱたかれたような気持ちだった。あまりにも申し訳なかった。
いつ頃からか「私は被害者」という気持ちが大きくなりすぎたあまりに、
すごく横暴に、自分の考えを振りかざすようになってしまっていたことに気が付いた。
かつての私だったら「質問がしづらい」と言われれば、
質問し辛い理由をもっと聞いたり考えたりして、
解決するように頑張っただろう。
定期的にこちらから声をかけるとか、
チーム全体でもっとくだらない話をする機会を作るとか、
色々やり方はあったのに何一つ考えなかった。
いつの間にか、「甘えてないで質問して!」と、
自分ができたことは相手もできると決めつけて、
自分のやり方を一方的に押し付けるようになってしまっていた。
自分は正しいと思って、相手を傷つけてしまった。
派遣社員さんのことばかり書いているが、
上司についても、お世話になったのにあんまりなことをしてしまったと今では思っている。

あともう一つ、この新しい派遣社員さんを追い込んでしまうような言動をとってしまった理由として、
自分と派遣社員さんのパワーバランスを見誤っていたことも挙げられる。
私は派遣社員と正社員の違いもまだあまり分かっていなかった。
派遣社員だけれどそんなことは関係なくて、「私よりも歴が上の先輩」だと思っていた。
だから、そんなにフォローしなくても大丈夫だし、
そこまで言動に気をつかわなくてもあちらの方が立場が上なのだからパワハラにはならないだろうと思っていた。

新しい派遣社員の方の視点になって考えれば、
希望もしていない部署異動をさせられて、
新しいチームの正社員のやつは年下で、
碌に業務説明もしてもらえず、
分からなかったら質問してください
と言うだけ。
おまけに「前からいた派遣社員2人と正社員は仲良くて自分だけ除け者」とも思っていたかもしれない。
本当にやりづらかったと思う。本当に申し訳ない。

そして何よりお父様を亡くされてショックであっただろうときに、
一言もかけなかったのを本当に後悔している。
へたくそでも一言でも声をかけてあげられたなら、関係性が変わって、
派遣社員さんは適応障害にまでならなくて済んだかもしれない

気が付いたら自分自身がとんでもないモンスター社員になってしまっていた。
「やった側は忘れるけど、やられた側は一生忘れない」というけれど、あれは本当なんだろうか。
私は間違いなく「やった側」だけれどずっと忘れられない。
あれから何年も経つけれど、全く忘れられていないし、ずっと後悔と反省をし続けている。
このまま一生忘れずに反省し続けていくと思う。
二度とこんなことがないように社会生活を送っていきたいと思う。

これから先も私はこれとは違った方向でモンスター社員のふるまいをしてしまうのだが、まだ日が浅すぎて公開すると問題になってしまいそうなので、いったんこの話はここで完結。

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