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私がモンスター社員になるまで #1年目

これは、夢と希望で満ち溢れていた新入社員だった私が、
モンスター社員になるまでの物語だ。
(※とあるホワイト企業のヌクモリティ内の話なので基本的に全部ぬるいです。)


特に素晴らしい学歴も学チカも何も持ち合わせていなかった私だが、
運と勢いと新卒カードの力でなんやかんや奇跡的に1社から内定をもらえた。
4月に入社したこの会社では、
新卒は全員一律本社で3ヶ月間研修を受けた後、本配属される。
この会社はどうやら名実ともにホワイト企業だったらしく、
研修中は怒鳴られることも理不尽なことも言われることなく、
楽しくのびのびと研修を受けられた。
そして研修が完了した7月、地方の支社に配属となった。
本社で研修を受けていたため、支社には面識のある人は全くいない状態で本業務が始まる。

7月

部長に自分がこれから所属するチームを紹介してもらった。
7年上の正社員の上司と、経歴不明の派遣社員の方が2名、
そこに私が加わって合計4名の小さいチームだった。
私の業務の育成は7年上の上司がしてくださるそうだ。
気合を入れて「よろしくお願いします」と頭を下げた。
早速業務説明をしてくれるとのことで、上司と2人で会議室に入った。
自己紹介と業務説明と、少しの雑談話をした。
ちなみにこの雑談話は
「時間が15分ほど余ったので雑談しましょう」と言われたあと、
上司は殆ど沈黙してしまったので私が15分の間ひたすら話題を出し続けるというものだった。

どうにかこうにか時間がきたので、会の最後に
「お時間いただきありがとうございました!
業務も詳しく説明いただけたのと、
雑談でお互いのことも知ることができて嬉しかったです。
これからもよろしくお願いします!」
と謝意を述べたところ、
「あの雑談は、これからコミュニケーションを円滑にとれるように、
私がしまとりねこさんを知りたいというより、
しまとりねこさんに私を知って欲しいという意図でした。」
と返ってきた。
「……そうだったんですね、ありがとうございました!」
と言っておいたけれど、
この辺りから違和感があるなあ……とは薄々は感じていた。
コミュニケーションを円滑にとりたいなら、
一方の理解じゃなくて相互理解が必要なのでは?とか
っていうか、あなたが殆ど話さないからあなたのこと知るも何もなかったんですが……?とか思った記憶がある。
そもそも、入ってきたばかりの新人の発言が微妙だったとしても、
大抵の人は「まあ頑張ろうね」くらいで流すんじゃなかろうか。私は流す。
あと、派遣社員の方とお話ができないどころか、
紹介すら一切なかったのも引っかかっていた。

それでもこの時期は分からないことが多くて、
上司から細かく指示を出していただいたり、
質問もよくさせてもらったりしていて大変ありがたい存在だと思っていた。
今となっては「調べてから質問しようよ」という内容も多かったので、
(「こうすればできる」は分かるけど、会社のやり方があるかなと警戒していたのと、
学生気分が抜けてなくて、質問≒コミュニケーションの機会みたいに思っており、敢えて質問していた)
これについては今でも大変申し訳なく思う。

8月

一通り仕事を覚えてきたから。
ということで、上司と仕事を分担することになった。
具体的には2人いる派遣社員の内の1人とペアを組んで、
その方が実施してくれる業務をチェックする役割が増えた。
大元のタスクと期限については上司が決めてくれるので、
私は派遣社員の方と一緒に期限を確認して、
1日当たりの進捗の目標を立てながら業務を進めた。
進捗の良い日が数日続いたときは、敢えてそれ以上は業務を進めず、
業務を進めるために必要な勉強を派遣社員の方と一緒にするなどの時間を作っていた。
特に期限をオーバーすることもなく、順調に業務をこなせている認識だった。
その過程で派遣社員の方とは色々お話しするような関係性にもなれた。

すると上司が言うのだ。
「派遣さんと仲良くするのは止めてください。
大体進捗が悪すぎる。
あなたが新人だからかなり余裕のある期限を切っているのに、
いつも期限ギリギリなのはなぜなのか。
いつも何をしているのか。」

私は若干納得はいかなかったものの謝った。
社会人なら理不尽なことを言われても上司には頭を下げるものだと思っていた。
そして翌日、分単位で自分の行動をメモして上司に提出した。
上司は「ここまでしなくてもいい」と言うだけで、
特に「ここに時間をかけすぎているからこう改善すると言い」
というアドバイスはもらえなかった。

上司との折り合いが悪いことはもう分かってはいた。
部長に相談することもできたが、私はまだ配属されて2か月の身、
一方で上司は7年目だ。
明らかに上司の方が信頼が厚いだろう。
そんな状況で相談しても相手にもされなさそうだし、
他に交流のある社員も近くにはいなかったので誰にも相談できずにいた。
本社で研修中に面識ができた社員に相談するにも些末な問題すぎる…
自力で何とかするしかないと思った。

9月

「この処理が間違っている。何故こんな処理をしたのか」
と、突然上司が席までやってきて、詰問口調で言い始めた。
私は一旦「確認します。」と言って受け取った。
確認してみたところ、それは私が担当する前に処理されたもので、
つまり間違った処理をしたのは上司だった。
事情の共有と今後の対応方法を相談したいけれど、
どう言ったものか……と悩んだ。
どんな表現をしても上司を責める形になってしまうような気がする。
それでも仕方がないので悩みつつ上司の席まで伺ったところ、
「席に来ないでください。メールで済むでしょう!?」
と言い出した。
上司は慌ててPCの画面を切り替えていたが、
チラッと見えた画面には業務と全然関係ない画面がうつっていた。
別にそんな画面が見えたって私からどうこう言ったりしないのに。
仕方がないので席に戻って上司にメールを送った。
この時から、私からは一切上司には直接話しかけず、
すべてのやりとりをメールで完結させるようになった。
ちなみに上司のメールは1行で済むことを10行くらいに膨らませて書いてくるので、毎度スクロールと読解が大変だったのだが、まあ口頭でやりとりするよりは精神衛生上マシだった。

10月

さらに新しい業務を受け持つことになった。
上司とペアを組んでいた方の派遣社員の方が退職してしまった。
その派遣社員の方がしてくれていた業務を私が代わりに受け持つという流れだった。
今までの業務とは毛色が全く違うので、また質問がたくさん出てきた。
ところが、今度は上司に質問をしても「分からない」と答える。
チームとしては今までもやってきた業務のはずなのに、マニュアルなどは一切なかった。
まあ分からないものは仕方がないので他の部門の先輩社員に質問してみたところ、
「こういうのはチーム内である程度解決してもらえませんか」
と怒られてしまった。
それでも教えてはくれるので、謝りながら必要な情報を集め、
次回には聞かなくても済むように事細かにメモをして、
どうにかこうにかその業務を覚えた。

11月

私とペアを組んでいる方の派遣社員さんが突然契約更新終了となった。
もうこの派遣社員さんは上司と一切一緒に業務をしておらず、
常に私と業務をしているという状況だった。
契約終了は3か月前、つまり私とペアで仕事をするようになった頃にはもう決定していたらしいが、
それにもかかわらず私には一切の事前共有はなかった。
契約更新終了すること自体にはいろいろな事情があるので仕方がないと思うが、
せめて終了することだけでも事前に共有があったら、
もうちょっと業務の進め方を変えたのになと思う。
少なくとも、派遣社員さんに新しく物事を覚えてもらうことにそこまで労力を割かなかったのになと思った。
新しく派遣社員を募集し、すぐに2名が増員された。
新しく来られた派遣さんの育成業務の担当は私になった。

12月

更に上司の業務の一部を引き受けることになった。
「この業務とこの業務とこの業務を今後お願いします。そして…」
というから、状況の共有とか詳細な引継ぎが続くのかなと思ったのだが、
続いた言葉は、
「私にはもう質問してこないでください」
だった。
「分かりました。適宜自分で判断するようにします。」
と答えて終わった。

10月頃から質問することは徐々に減っていき、
11月辺りからは一切質問をしていないので上司に聞かなくてもできるだろうとたかをくくっていた。
しかし、派遣さん2名の育成業務も増えていたので、思っていたよりも厳しい状況になってしまった。

1月

ミスをした。
顧客影響が出るレベルのミスだ。
私は直ちに上司に相談するべきだと思ったが、
あいにく上司は有給取得中だった。
運が悪いことに、フロア内にも自分以外の社員はいなかった。
仕方がないので自力で判断しながら対応した。
幸いにも過去の対応を調べながら自力で対応できる範囲の内容だった。
しばらく経って、部長がフロアに帰ってきたので、
事の経緯と再発防止策をまとめたレポートを添えつつ報告した。
部長はレポートを読んだ後、
「はい、わかりました」
と無表情で小さな声で言うだけだった。

翌日、出社してきた上司にも一番にミスと事の顛末を報告した。
上司は「ミスした原因と再発防止策をレポートにまとめてください。」と言った。
私は謝罪をしながら既にまとめてあったレポートを上司に提出した。
それを一通り読んだ上司は我々の業界では殆ど誰もが知っている、
というか知っておかなければならないような単語を指して
「これはどういう意味か?共通認識のない言葉は使わないで」
と言い出した。
私はつい、
「これはこういう意味です。
初級の資格試験でも出題される範囲の単語なので、
我々は業務上知っておく必要があると思います」と返してしまった。
すると上司は言うのだ。
「しまとりねこさんの単語に対する認識が誤っている」と。

私は再度単語の定義を調べたが、どう認識誤りをしているのか全く分からなかった。
というかそもそもこのレポート内容で部長の承認が既に降りているし……
「再度単語の定義を調べましたが私の認識誤りではないと思っております。
申し訳ないのですが、何がどう認識誤りなのか具体的にご説明いただけませんでしょうか?
このレポートは部長の承認も既に降りているため、
修正したら部長にも単語の認識を改めていただくようご説明しよう思います。」
と返した。
上司は「しまとりねこさんと話すのはコミュニケーションコストが高すぎます。私は今日忙しいのでもうこの話はやめにします」
と言い、会話は一方的に打ち切られた。
あれから10年くらい経つけれど、
未だに私が何をどう認識誤りしていたのか説明はしてもらえていない。

2月

新しく来てくれた2人の派遣さんたちの研修も終わりが見えてきた。
そろそろ実務に合流してもらえる。
それは喜ばしいことだったが、
同時に2人の業務遂行能力の差がかなり大きそうだと感じた。
1人はとても優秀で業務に合流してもほぼ1人でこなせそうな印象なのだが、
もう1人は研修内容も中々身についていなさそうだった。

このまま2人に同じ業務をしてもらうと、
どうしても差が目立ってしまって2人共の心理的負担になってしまうことが予想されたので、
上司に相談して2人には別々の業務をしてもらうことにした。
結果、優秀な方の派遣さんは上司とペアを組み、
中々業務を覚えられない方の派遣さんは私とペアを組み、
それぞれ全く別の業務を進めていくことになった。

しばらくはそんなチーム編成で上手く行っているのかなと思っていたのだけれど、
その内上司とペアを組んだ派遣さんからも、こっそり業務の質問がくるようになってしまった。
上司に知られると派遣さんの立場が悪くなりかねないので、
私もこっそり調べて「○○という認識で問題ないですか?って一応上司に確認をとってみてください!」など、答えるようになってしまった。
私の業務の負担が少し増えてしまったけれど、
これでトラブルなくチーム全体の仕事が進むならいいかと思うことにした。

3月

本社から業務で頻繁にやりとりのある部署の社員が出張でやってきたらしい。
「らしい」というのは、私は上司からのメールでそのことに気づいたからだ。
「○○さんが出張で来られたので、挨拶してきてください」と一言だけ書かれたメールだった。

その出張で来られた方はメールでのやりとりは頻繁に会うものの、
実際にお会いするのは初めてだ。
私では顔も分からないし、
本音を言えば既につながりがあるであろう上司から繋いで欲しかったが、
そんなことを期待してもやってくれるわけがないと分かっていた。
私はとありあえず上司にお礼のメールと行ってきますとだけ返した。

とはいえ出張に来られた方がどこに座っているのかも分からない。
挨拶に伺ってもよいか、どの辺りの座席に座られているかを
直接メールで確認してから、挨拶に行くことにした。
同じチームの2人の派遣さんも今はやりとりしていないけれど、
これからやりとりが発生するかもしれないし、
紹介しておこうと思って声をかけて一緒にきてもらった。

顔が分からないので、その方がいらっしゃるであろうエリアに少し大きめな声で「○○さん、お疲れ様です!」と言いながら歩いてみた。
すると女性が1人振り返って挨拶を返してくれたので、
この方かあ…と思いながら挨拶と自己紹介と派遣さんたちの自己紹介をした。
そうしてしばらく和気藹々と話していると上司がやってきた。
なんだろう?と思っていると、上司も挨拶を始めるではないか。
「はじめまして」って。
すごく気まずかった。てっきり上司はその方と面識があるものと思って、
なんならもう今回の挨拶は済ませたものと思って、
私は派遣さんだけ連れて挨拶にやってきたというのに。
私が上司だけ除け者にして挨拶にきたみたいではないか……!
と思ったので、
「あれ、上司さんと○○さんって初対面だったんですか!?
メールに『挨拶してきてください』と書いてあったので、てっきりもう挨拶済みなのかと思ってました~」
などとわざとらしかったかもしれないが、声を上げておいた。
上司よ、
あなたに別部署の社員との顔をつないでくれとまでは言わないから、
「挨拶してきてください」じゃなくて、「一緒に挨拶に行きましょう」くらい言ってくれよ……。
それもできないならせめて「派遣さんとあいさつ行ってきます!」って言ったときに、「私も行きます」の一言を言ってくれよ……!
と内心で嘆いた。

こんな感じで、私の社会人1年目は終わった。
2年目に続く。

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