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ヤマアラシのジレンマ

 気遣いは難しい。
 再三言っているが、自分の思う親切と、他人の思う親切が、合致しないことがあるからだ。
 良かれと思ってやったことでも、裏目に出てしまうことがある。これがヤマアラシのジレンマというやつか。

 ご存知だろうか。ヤマアラシのジレンマ。
 仲良くなりたいと思って近寄ると、自分の持つトゲで相手を傷つけてしまう。こういう状態のことを「ヤマアラシのジレンマ」というらしい。
 トゲ持つ者の悲しきつつきあい。特にお客様は、指先でつつかれたらそこから腐るほどソフトリーなので、低刺激を心がけないとならない。

 霊長類なのにヤマアラシになるのは、人は言葉にトゲを持つ生き物だからだ。
 皆それぞれデリケートな部分はいくつもある。性別。出身。学歴。収入。体重。美醜。髪の毛の量。
 気にしているところを押されると、「刺された!!」と喚いてしまうのが人間というものである。
 全くなーこれだから客って生き物は。小せぇこと言ってないで許してやれよこの繊細ヤクザが。見てろ、私ならそんなもの広い心で
 ……あー、いや
 なんか話の流れで色々思い出してしまった。ふつふつと腹が立ってしかたない、ぎーぃぃぃ許さねえ、ネタにしてやるから覚えとけ!!
 こんな感じで、デリケートゾーンは弱点であるからデリケートゾーンであり、簡単に刺されてしまうのだ。
 そうだなあ、他には例えば、年齢とか。

 さて、お客様がやってきた。
「すみません誕生日ケーキが欲しいんですけど」
 はい誕生日ケーキ一丁。気に入るケーキも見つけ、乗せるプレートも決まり、ご注文を承る。
「ロウソクをつけてほしいんです」
 ヨロコンデー。
 そこはサービスだからいいですよ。おいくつ付けますか?
「32本つけてください」
 接客業とは、お客様のためを思い、お客様に最上のサービスを提供することである!
 店員の目がキラリと光る。ここがサービスの見せ所だ。心の底からの笑顔を見せて、熱心にお勧めする。
「それだと、ケーキが穴だらけになってしまいます! こちらはどうですか? 数字の形になっているロウソクですので、3と2のお二つだけで済みますよ!」

 クレームになった。

 まあ32というデリケートゾーンの上にデリケートを重ねたところが悪かったな! 逆鱗というやつだ。まだ2つしかはみ出してないなら、20代と変わらないつもりでいられる。数が多いように言ってしまうのは悪手だった。
 当事者でなかったので朗らかに笑ってしまったが。

 しかし、年齢は面白いね。見えている地雷だとわかっているのに踏んでしまうのも面白い。
 そういえば昔、キヨスクの周りに群がるサラリーマンが「おばちゃん、これちょうだい!」と合唱している中、スッと入ってきたキムタクが「おねーさん」と呼んで最初に会計してもらう、というCMがあった気がする。
 あれで学んだのは、おねーさんと言えば通りがいいというより、キヨスクでの合言葉は「おばちゃん、これちょうだい!」なのだということだ。
 シマシマ20後半代、言われたことがある。50代ほどのスーツきた親父さんが来て、まさに「おばちゃん、これちょうだい」と。
 店員の年齢は関係なく、店員への決まり文句なんだなあ。
 もちろん、ヤマアラシのトゲは刺さりましたよ。ザックリと。

 このことを思い出したら、あからさまに自分より年上の店員にでも「おねーさん」って言ってみるがいいよ。
 多分、丁寧に接客してくれるよ。

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