続・時間のない人たち
いやー忙しい。今週もサボっちまいなよという悪魔のささやきに耳を貸しそうになる。五分五分だった。あぶなかった。
みなさん忙しいですね。わかりますわかります。
先週の、微妙な引きの話です。みんな時間がないという話です。
なにしろ秋が三日で終わってもう冬、師走が近いですからね。恐ろしい。
皆さん、忙しくなると、眉間に皺寄せてせかせか動き、周りに「私、忙しいの」ポーズを振りまきながら道通りますよね。
ついやっちゃう。イライラもしちゃう。誰もやらないなら先週のようなことにはならないのです。
心に余裕を持った方がコトは早く済む、という話でしたが、いっやーこれがまた難しいんだすよねー。
今日のお客はおばあちゃん。のこのこやってきて、商品のことを聞いてきた。
「これ何日もつの?」
「はいーいらっしゃいませー、こちらの商品は三種類ございましてこしあん、つぶあん、季節のくりあんなんですが、こしあんだったら20日まd……」
「余計なことは言わなくていいのよーーー!!!!」
いきなり叫んだ。周り全員驚いて動き止まった。
「聞かれたことだけ言えばいいのよこっちは時間ないんだ!! もーいい、こんなところでは買わん!!」
あっけにとられて見送ってたら、おばあちゃん隣の店にいった。隣の店員に緊張が走る。
「何日!!」
「五日です」
対策はバッチリだ。
「短いねー」
「うちのはそうですね……隣のなら二週間くらいはもちますけど」
隣のお店、うちをナイスフォロー。だがおばあちゃん、それで帰ってこれるはずもなく。
「……いやいい、これを五箱、急いで、私ゃ新幹線に乗らんといかんのよ早く早く!」
お隣、必死に包装している合間に必死に聞き出したところ、あと10分しかないと言う証言を引き出した。いや無理ゲーやん! うちじゃなくてよかったわ。詰んでた。
「早く早く!!」
バタバタしている隣を、周りの店が固唾を飲んで見守る。
「こっちの方が近道です!!」
隣の店員さんが一人、道案内がてら両手に荷物を抱えておばあちゃんと一緒に小走りについていった。それでも間に合うかどうかの瀬戸際だ。ここでの買い物に、七分は使っている。確かに近道を通ればすぐだ、間に合うだろうか……
しばらくして、釈然としない顔でお隣さんが帰ってきた。
「間に合った!?」
みんな寄ってくる。「いやあ……」といって説明したところ、間に合ったは間に合ったらしい。
新幹線乗り場に駆け込んで、駅員さんに声をかけた。
「すみませーん! このおばあちゃんが新幹線乗るっていうんですけどー!」
出てきた駅員さんがおばあちゃんの切符を見て、落ち着き払ってこう言った。
「ああ、一時間後ですねー」
えっ。
微妙な空気の中、おばあちゃんは下を向いて口を尖らせ、ボソボソと言ったという。
「だって……早くついた方がいいと思って……新幹線とかようわからんし……」
一同、揃ってズッこけた。一時間間違ったんなら素直に言えばいいのに。あるいは本当に早く行きたかっただけなのかもしれないがよくわからない。
ただまあ、「あんだけ怒鳴り散らしてたのにねぇ」と言われることは必至ではあった。
しばらく話のネタにはされてた。
似て非なることだが、長年不思議に思っていることがある。
店の立地のため、道を聞いてくるお客が多いのだが、「〇〇ってどこー?」と聞いてくる。
聞いてくるのはいいのだが、聞きながら足を止めずにスラーッと通り過ぎていくのだこれが。
「そこを右にまがって(このあたりで完全に去っていく)……その先を左なんだけど……」
と、どうせまた行った先で聞かなきゃいけないんだろうなーって行動をとる人が、実は少なくない。
聞く気あるんかい?? そんなに忙しいのかな。 聞く気あるんかい? て態度とるほど忙しい人ほど、ややこしい手続きに手を出したりするんだよね。二週連続で言うけど、やめたがいい。やり始めたら、これには時間がかかるものだと思ってあきらめるがいい。
助かる店員がいっぱいいます……あなたの手間も助かりますのでね。