島居さんの消えた衣装の件
前回投稿いたしました記事で、相方の島居(しまい)さんが衣装を忘れてしまった事から始まってボロボロの収録を経験した我々シマッシュレコードについて書きました。
上の写真は、この後自分たちがボロボロになる事を彼らは知る由もなかったのです状態の、収録直前のシマッシュレコード。バカみたいに浮かれていますね、バカみたいに。
今回は、その衣装についてです。
島居さんは「衣装を電車に忘れた!」と言い出して、鉄道会社に連絡をしていました。
あの日の楽屋はとにかく「島居さんが衣装を忘れた」という件で埋め尽くされていました。
電話して、何時どこ発の電車で、どこらへんの車両に乗っていたか等を伝え、「現時点では届け出はありません」的な事を言われ電話を切り、折り返しの着信が来たけど気付かず、留守電に「至急お電話ください」のメッセージが残されていたので、「見つかったのかも!」と電話をかけたら「まだ見つかっていません」とだけ言われて、じゃあ何の電話だったんだ!とかをずーっとやっていた。
そんなことを繰り返していたら、ついに番組のスタッフさんまで衣装の捜索に巻き込んでしまう事になってしまったのです。
本番前のリハーサルの為楽屋から移動する時、スタジオまでの誘導をしてくださった女性スタッフさんに嶋田は
「いや~、相方が衣装を忘れてしまいましてね~、はっはっは~」
などと余裕ぶって、本当は微塵も無い余裕がバレてしまわないように、そもそも誰も「嶋田の余裕について」など興味は無いのに、それなのに嶋田は余裕ぶったクソトークをしてしまいました。
そして、リハーサル後。
先ほど嶋田のクソトークを無理やり耳に入れてくださったスタッフさんが
「すぐにマネージャーさんに連絡をしてください!今電車でこちらに向かっているそうなので、タイミングが合えば衣装をピックアップできるかもしれません!」
とおっしゃるのです。
聞くとそのスタッフさんは、リハーサルの間に僕たちのマネージャーにわざわざ連絡をしてくださり、どうしようもないおじさんたちの現状を伝えてくださっていたのです!
(※どうしようもないおじさんたちは、マネージャーには何の連絡もしていなかった。どうしようもなおじさんたるゆえんです。)
「何時の電車・何両目辺りに乗っていたか等の情報をマネージャーさんと共有し、スタジオ最寄りの駅から数駅後とかに、もし衣装が届けられていたとしたら、マネージャーさんが衣装を受け取って、本番に間に合うかもしれないから、とりあえずすぐにマネージャーさんに連絡をしてください!」
と。
何という優しさ。何という想像力、行動力。
僕のクソトークから奇跡のストーリーを見出だし、すぐさまそれを実行に移してくださった。
「悪いことをしたのに、優しくされる」なんて。この時点ですでに奇跡を体験しているじゃないか僕は。
水戸黄門に土下座するような気持ちで
「ほんとにすみません、ありがとうございます、ありがとうございます」
と言うと
「私も時々電車に忘れ物するんです!気持ち分かります!」
と微笑みを返してくださった。僕は心の中で土下座した頭を地面に擦り付けた。
しかし結局、奇跡は起こらずでした。
マネージャーやスタッフさんを巻き込んだだけで、衣装を取り戻すことはできなかったのです。
現場に到着したマネージャーは、一切悪いことをしていないのに所在無さげにしている。スタッフさんも残念そうだ。
すると島居さんがおもむろに
「駅からスタジオに歩いて来る途中に、落としたのかなぁ?」
と言った。
いやいやいや。
携帯電話とか鍵とか、そういう小さい物じゃないんですよ。
手に持ったスーツをふいに落としてしまう事はあっても、落とした瞬間に気付くやろ!
もうええわ!
↑エコーがかかっているイメージ。
そして、ボロボロの収録を終え、楽屋に。
鉄道会社からの連絡は無い。
こんなボロボロのおじさんに、番組はタクシーチケットをくださった。
しかも2人分。
(※ボロボロだからお恵みくださった訳ではなく、ありがたいことに元々そういう事になっていた)
意気消沈の着替えを終え、食べられなかったお弁当をちゃっかりと鞄に忍ばせ、呼んでくださったタクシーが待っているスタジオ玄関へ向かう。
嶋田「衣装、どうすかねぇ」
島居「…うん」
嶋田「忘れ物センターとかに届けられてたら、まあ明日以降取りに行くって感じすかねぇ」
島居「…うん」
嶋田「もし見つからなかったら、また新しいスーツ作るしかないっすねぇ」
島居「…うん」
嶋田「……」
島居「俺…、」
嶋田「?」
「俺、スタジオから駅までの道を歩いて、探そうかな…」
え!!!
その可能性、まだ諦めてなかったん?
スーツを落として気が付かないわけがないだろ。そんな人間、手に持ったスマホをわざとぶん投げても気が付かないだろう。そんな手のひらの感覚を持った人間がギターなんか弾けてたまるかってんだ。
でも、それでも、そのあり得ない出来事があり得たのかもしれないと、島居さんだけが本気で思っていたのである。
そんなん奇跡よ。まあさっき、悪いことをしたのに優しくされるという奇跡は確かに体験したけど、
手に持ったスーツを落としても気が付かない奇跡
を信じるのは勇気いるぜ。
まあ可能性の1つを潰すという意味はあるし、路上を探すのならどうぞご自由にと、冷血嶋田は普通にタクシーに乗り込む。その日は関東に近付いていた台風の影響で雨風すごかったんだもん。
「お疲れさまでしたー!」
申し訳無さげに佇む島居さんを車窓の端っこでとらえながらタクシーは出発。1分後、何となく眺めていた道端にスーツのカバーらしき物が見えた。見覚えのあるカバー。僕のカバーとおんなじカバー。
びしょ濡れのスーツが道に落ちていたのだ。
後方に流れる景色と共にスーツもあっという間に「過去」に流れた。
僕は「現在」という名のタクシーの中で、「え、あったやん。マジで落としたん?え、なんなん。」のセットを5回ぐらい呟いた。
あ、こうしちゃいられない。「現在」という名の嵐の中でスーツを探しているであろう島居さんに教えてあげなきゃ、と電話。
「衣装、マジで道端に落ちてましたよ。多分あれ衣装でした。今どの辺探してます?」
「え!マジで!俺もタクシー乗ってるから戻ってもらうわ!」
タクシー乗ったんかいすぎるやろ。
今後「タクシー乗ったんかい」と言わなあかん状況になった時に、あの時の「タクシー乗ったんかい」の気持ちを超えられるだろうかと心配になるぐらい、タクシー乗ったんかいすぎるやろ。
つーか、「歩いて探す」っつー気持ちはあったわけやし、せめて島居さんもタクシーの中から探したりせえよ!キョロキョロしたら絶対見つけてたわ!なんでキョロキョロもしてない俺が見つけたんや!島居さんはキョロキョロせえや!走るタクシーの車内からキョロキョロせえや!キョロちゃん!
まあとにかく、島居さんの「現在」もタクシーで、島居さんの「過去」もスーツになっていたのです。
二人ともの「過去」になったスーツを、島居さんには「未来」に設定し直してもらいました。
いや、我々シマッシュレコード二人にとっての「未来」と言ってもいいでしょう。
しばらくすると、「あったー!」とLINEが。
写真も送ってもらいました。
マジでスーツ落としても気が付かんかったやなあ。
と、この頃になるとしみじみと思える嶋田でした。
「クリーニングに出すわー」
という、当たり前すぎるやろ宣言を受諾し、島居さんの消えた衣装の件は結末を迎えたのでした。
まあ結局、全ては事なきを得た、と言っても良いのかもしれません。
しかしながら、「手に持ったスーツを落としても気が付かなかった」が「過去」になればなるほど、その謎は強まります。そしてそれは「現在」の僕の”腑に落ちなさ”に拍車をかけ続けているのです。
もしかすると、あのとき道端に落ちていたビショ濡れのスーツは、時空を越えて今もなおシマッシュレコードにとっての「未来」のまま固定されているのかもしれません。「未来」は、固定されながらも、そのあやふやさは保ったまま、ずっとずっと漂い続けているのかもしれません。はあ?
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