OMNIクリエイティブフィルターシステム体験記
[概説]
LENSBABY社のOMNIクリエイティブフィルターシステムを体験した話。
[はじめに]
先日の記事でカスった程度に触れた同製品について、その体験セミナーに参加してきました。
扱いはド素人状態だったため製品の全貌について全然把握し切れていませんが、少し使ってみた感想と提案を記述します。
また、このセミナーに参加してみようと思った方に向けてのアドバイスも少し記述します。
[OMNIクリエイティブフィルターシステムとは?]
米国企業であるLENSBABY社の製品。レンズの前に介在させて特殊な効果を発生させるアイテム(フィルター)郡のことです。
最近出てきた製品かと思っておりましたが、2019年に基本セットが発売され、現在はさまざまな拡張パックが追加で発売されているようです。
[参加動機]
先日の記事でも触れましたが、自身の撮影に関して「人工的創作アイテム」の採用は消極的です。
その「人工的創作」基準でよく例えるのが、写真展で在廊中、観てもらった方から「素敵ですね。これはどうやって撮ったのですか?苦労したのではないですか?」と言われた際、自信を持って回答できるかどうか、相手のテンションが下がらないか、です。
その写真が何らかの賞を受賞した場合、自分が誇れるかどうか、です。
いわゆる"通常のレタッチ(エフェクト)"は現代の写真界隈において全く問題となりません。
「なんだよ、Lightroom 使ったのかよ」などと感じる人はいないでしょう。
しかし、合成やAIによる創作、過剰な修正(ひたち海浜公園のネモフィラ畑で多数の観光客を全員消去する等)はどうでしょうか。
商品撮影、アー写など商業写真は「結果」が大事なのであって、その目的を達成する写真であるならば、その制作過程はどうでもいいのです。
例えばコーヒーの写真で実際は醤油を使っていても、伝えたいことが表現できていれば別にいいのです。
WEB素材画像などもそうですね。
またアート(創作物)として仕上げる場合、明らかに人工的に創作することを前提としている場合も別にいいのです。フォトコンなどのいわゆる「クリエイティブ」カテゴリーに該当する作品などですね。
しかし、通常の撮影をしてそれを公開するという活動においては、その制作過程も重要であると考えます。
満月の大きな月を背景に、通過する飛行機を撮影した写真を月丼などと言ったりしますが、その月が合成だった場合はどうでしょうか。
不思議なもので、人工的であってもオールドレンズを使ってゴーストやフレアを出す、サランラップなどを使った自作アイテムで表現されたものには創意工夫していると感じますが、既製品の場合はあまり感じません。
例えば、同じ人物が複数写っているドラマティックな写真があるとして、万華鏡フィルターを使った場合と複数の鏡やガラスを組み合わせて使った場合とでは、自分は前者ではあまりピンと来ず、後者は素敵と感じるでしょう。
要するに制作過程の工夫、努力も写真の価値に含まれると考えています。
以上のことから、今回のフィルターは微妙な立ち位置でした。
「この光、どう工夫されたんですか?」に対して、「はい、OMNIクリエイティブフィルターを使いました!」と自信を持って言えるかどうか。
ただ使うかどうかは別として、撮影に関する経験は多ければ多いほど、広ければ広いほどよく、何らかの撮影において「思い描く作図の雰囲気を出すにはどうしたらいいか?」を考える際、このアイテムも一つの手段として知っておいた方がいいと感じたため、今回の参加に至りました。
[セミナーの流れ]
講師はLENSBABYアンバサダーであり、OMNI製品に関しては日本でトップの認定トレーナーである、"MR.35mm"ことフォトグラファーの見崎豪先生です。
①製品のちょっとした説明。各自好きなアイテムをとりあえず着けてみる。
②講師が実際に撮影し、ドヤ顔で写真を披露。
③参加者が順撮りで体験撮影(基本1分)。時に囲み撮影。
④各自の撮影画像について、講師によるちょっとしたレビュー。
⑤撮影シーンを変更しながら②~④を繰り返す。
流れは基本的に上記となります。
枠時間は90分のため各部3~4種の撮影シーンで撮れ、体験セミナーとは言え撮影する時間は結構あります。
[製品の感想]
セミナー内容に関してはある意味キモ(ネタ)であるため、軽く触れるに留めます。
■扱いが難しい
このアイテム郡を使いこなすには、各アイテムの特性、どうしたらどういう効果が出るのか、どういうレンズや焦点距離、F値なら想定するものが出るのか、現場の光源をどう利用するか、どういう光源を用意すべきか等々をしっかりと理解する必要があると感じました。
■組み合わせによって表現は無限に近い
とりあえずボカしてエモくするツールのイメージがありましたが、組み合わせによって様々な表現ができそうで、特に拡張パックの存在がよりそうさせているのだと思われます。
■人工光源との相性がかなり良い
自然光に合わせて使うアイテムのイメージがあったのですが、LEDなどの光源だとよりドラマティックに、かつ狙った演出が撮れそうです。
■名称が長くイメージが湧きにくい
「あ、ストレッチグラスですか?」と言われてもよくわかりません…笑
■AFが合いにくい
レンズの前にかざすのである程度予想しておりましたが、その予想以上に合わないことが多かったです。
置きピンなど対策はありますが、セッティングがシビアだったり、重いレンズだと片手でピントを固定するのが意外と大変かもなので、望遠系のレンズによく備わっている、近くのエリアにはピントを合わせない的なスイッチがあればそれを活用してもいいのかなと思いました。
■撮影テンポが悪くなる
ちょっとした位置の変化でも影響を受けるので、シャッターを切るまで結構もたつきます。
■構図で空いてしまっている空間を上手く埋めてくれるツールである
構図の中で寂しくなっている空間があった場合、すっと効果を取り入れることによって全体が締まる感じがしました。
■使い方によっては被写体、衣装、背景の魅力を損ねてしまう危険なツール体験してみて一番いい経験になったのはこの点です。
特にポートレート撮影においては、です。
ツールを使ったかどうかわからないレベルの使い方なら意味がなく、かといって主張が激しければ被写体を邪魔します。
グラビアなどで使用する場合、アーティスティックなものにしない限り「無い方がいいよね」となりそうです。
講習ではせっかくの表情・容姿・衣装を損ねないように意識したつもりです。
[提案]
セミナーについて
初心者である参加者に任せる部分が若干多いかな、と感じました。
モデル目的など本筋以外で参加される方もいるとは思いますが、「体験セミナー」である以上、参加者は全く使用したことがない、そして"有料"である以上、しっかりと製品のことを知って帰りたいと思っています。
また製品の販促を兼ねる場合、参加者には「結果」を体感してもらうことが重要です。
"なんとなく"で終わると、なんとなくな印象で終わってしまい、製品の価格が高額であるほど「まぁいいか」で終わってしまいます。
ボケを活かしたツールになるため、なんとなくモヤっとした写真が量産されるわけですが、それだけだと買ってみようかな…とはなりにくいです。
そのため以下を提案します。
■講師と同じ設定、構図、セッティングで撮影してみる時間帯を設ける。
技術向上は模倣から、というように、自分のカメラでもちゃんと撮れることを知ることは「結果」を体感することになります。
初心者が全振りで任されてしまうと、短い講座時間内でいきなり理想的な写真が撮れることは基本ありません(偶然はあっても)。
重要なのは「慣れが必要」で済ませてしまうと、結局買ってみないことにはよくわからないということになるので、関心や購買意欲は薄れてしまいます。
特にカメラの設定/操作などがまだおぼつかない方、ポートレート撮影自体やってない方にとっては、あたふたしながらになって結局製品の真価がよくわからないまま終わってしまうことでしょう。
なので各撮影シーンでとりあえず講師と全く同じ撮影、その後は自由、のような流れの方が、製品の真価を認識してもらえる率が高いのかなと考えます(カメラの設定値なども後で参考となる)。
■全セット、少なくとも基本セットは全員分準備する。
高額商品のため難しい部分もあると思いますが、余ったのを使わざるを得ない、取り合いになるのでセットがグチャグチャな状態になっておりました。
レンズやストロボコマンダーと違って、セッティングがシビアなため使い回しには適さないアイテムですし、体験なので参加者が希望するアイテムを常に使える状態であった方がより良いと考えます(基本セットは全員分あったかもしれませんが、付属のアイテムはなぜかなかったです…)。
■撮影タイムは制限時間方式でなく枚数制限方式とする。
この手のアイテムはスピーディに撮る、焦って撮るものではなく、また基本的には狙って撮るものです。
あせってイマイチな写真を持ち帰ってもらっては、販促としては失敗に近いです(イマイチな写真を見て「よし買おう!」とは基本ならないので)。
常識の時間範囲内で、一人ずつレクチャーを受けながら丁寧に撮影させた方がいい気がしました(撮影する側の希望にもよる)。
■製品であることのメリットを強調する。
繰り返しますが、"なんとなく"の状態で終わると購入意欲は薄れます。
特にこの手の製品は、その製品に特化したフォトグラファーでも目指さない限り常用するものではありません。
"なんとなく"で終わると、逆に「製品でなくても100均で買ったアクリル板でもいいんじゃないか?」と思われてしまう危険性も秘めています。
私はこのセミナーの後、試供品と100円でゲットしたおしゃれクリスタル、仕切りプラ板、透明ビニールを用いて比較してみました。
その結果、「購入できる余裕があるのなら、製品を使った方が断然良い」という考えに至りましたが、体験セミナーでは一番最初にテスト撮影した際、使い方がイマイチだったので「ミスト系レンズフィルターと変わんないな…」と内心思っておりました。
この製品は光学上、しっかりと設計されて作られていると思います(多分)。
買いやすい価格であったらあまり気にしなくてもいいと思いますが、高い製品なので代替品に流れないよう、「製品を使うことのメリット」の解説があってもいいかなと思いました(コンケーブには薄っすら色味が着いていることで写真にエモさを演出でき、単なるプラ板ではそうはならない等)。
製品について
■バラ売りをして欲しい
詳しく調査していないので実施しているかもしれませんが、セット販売しか存在しない認識です。
・お試し的にやってみたい。
・消耗、破損による部分的交換。
・同じパーツを複数使用したい。
・常に撮影で使用することは少ない。
これらの要望に対して、万単位のセット販売のみでは敷居が高いです。
頻繁に使うアイテムは失くしたりする可能性もあるのですが、セットで購入するしか補充できないんでしょうか?これは結構致命的だと思いますが…
[これから参加を予定される方へ]
①冒頭で製品についてざっとした説明がありますが、その後は撮影タイムに突入するため、全く扱ったことがない方は事前に下記のサイト内容や動画を見ておくと当日よりスムーズになるでしょう。
Lansbaby Japan
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/special/1217814.html
②あくまで製品の体験セミナーになるため、ポートレート撮影について基本レクチャーはありません。
ポートレート撮影自体が初めての方はそれなりにワタワタするかもしれませんが、ポートレートとして上手く撮ることを意識してしまうと製品の体験がおざなりになってしまうので、人形を撮る感覚でいいかと思います。
③カメラ初心者も対象となっておりますが、下記の操作はできた方がよりスムーズになるでしょう。
・Aモード、できたらMモードでの撮影方法。
・AF性能が弱い機種の場合、MF撮影のやり方。
※レンズの前にアイテムをかますため、被写体にピントが合わないことが多いです。
④レンズは最低でもF2.8の明るさは欲しいです。
もし所持されていない場合、このセミナーに関してはケンコー・トキナーさんがバックに控えているので、マウントが合えば明るいレンズを借りられる"かも"しれません。
当日いきなり申告すると準備できない場合もあるので、事前に相談してみるといいかと思います。
⑤円形レンズフィルターが装着できるレンズであること。
この製品はレンズに円形アダプタを装着して使用します。円形アダプタは2種類の大きさ固定であり、フィルター径が違う場合はステップアップ/ダウンリングで調整します。
そのため、そんなレンズを持ってくる人はいないとは思いますが、超広角レンズや特殊な口径の形状を持つレンズなど、一般的なレンズフィルターが装着できないレンズには対応していません。
また、製品としてはフィルター径49~82mmの範囲で対応しているため、パンケーキレンズなど口径が小さ過ぎる場合も注意が必要です。
[総括]
色々述べてまいりましたが、総じて今回のセミナーは受講して有意義でした。
その理由は参加動機で述べた通り、このアイテムがどういうものかをなんとなく把握し、オールドレンズなどと同様レベルで自分の作品の中に取り込んでもいいかなと感じた(経験を得た)からです。
■製品について
当初は高額に感じていた価格も、「高級レンズフィルター1枚と同等」と思えば、そんなに高額でもないかという考えに。
ただ、今後どのぐらい活用するか?を考えると、自分の現時点の作風においてはいくつかのアイテムに興味が出ているものの、各種キットの中で横断的に存在するため(つまり基本キットのA、拡張キット①のB、拡張キット②のCが欲しい)、それを揃えるためにフルセットを買うか?と言えば、現時点では保留です。やはりバラ売り販売があったらなと思いますね。
■セミナーについて
「体験セミナー」の類は、販促色が強く内容もショボい場合がありますが、今回のセミナーは、
・OMNIトップ認定トレーナー講師からレクチャーが受けられること。
・有名なモデルさんを起用されていること。
・ちゃんとしたスタジオ、もしくはそれと同等の場所での開催。
・参加費用がお得。
・製品の押し売りのような雰囲気も特にない。
この製品に興味があり試してみたい!と考えている方にとっては最適なセミナーではないでしょうか。
価格設定はケンコー・トキナーさんが協賛されていることで実現できていると推測します。自社スタジオ等がなければスタジオレンタル代等もかかりますので、もし他で似たようなセミナーが行われる場合でもこの価格での開催は難しいのでは?
なお、このセミナーは不定期開催のようです。
興味がありましたら、是非カメ教さんのサイトやXなどをチェックしてみてください~。
以上