生成AI(拡張)機能を使ってみた話
私がポートレート撮影をやり始めた2020年頃から画像編集ソフトにAIが搭載されるようになったと思いますが、「曇りのくすんだ空が青空に!」「昼間の風景が星空に!」みたいな背景画像交換AIとか誰が使うねん、と思っていてAIに対して関心がありませんでした。
だって背景変換した作品を出展したところで、どのツラ下げて解説しろというのでしょうか。
「うぁ~これすごい場所ですね、苦労されたのでは?」
「いやぁ、これAIで変換したんですよ」
「あぁ、そうだったんですね~」
という会話が成り立つなんて思わなかったのです。
しかし、去年ぐらいからインスタとかで「拡張生成AI」の広告を目にするようになりました。
AIが登場した頃は元の画像から判断して補正する(削除する等)、もしくは他の画像へ正確に差し替えるというもの、つまり手動でもできるがそれを素早く正確にできるという、あくまでサポート的なものだったかと思います。
しかし、現在は元の画像から判断して「創作する」こともできるようになったようです。
この機能はちょっと気になっていました。
というのも、ポートレート撮影に限らず撮影した写真に対して「もうちょっとだけ広い画角で撮りたかった、周辺の画が欲しかった」となるのは意外と多いからです。
その日持参したレンズの都合上、人混みなど場所の都合上、トリミングや傾斜補正をしたら全体のバランスがおかしくなってしまった等により、その写真の周辺にもう少し画が欲しくなるということです。
単焦点レンズでこれ以上後ろに下がれない状態で撮って、少しだけ肩や腕などが見切れてしまった、なんていうのもありますね。
私個人として、自分の"撮影した"とする作品に「合成」を取り入れるのは抵抗があります。
合成で炎上しがちな「夜空に浮かぶ満月が素敵すぎた」的な、お城の後ろに巨大な満月があるみたいな写真は、レンズとか撮影場所とか工夫して撮ったのであれば素敵と思うし、単に合成しただけというのなら興ざめです。
撮っていないからです。
なので多重露光など意図した作品はいいのですが、それ以外で「自分が撮影したもの」としての作品に合成を取り入れることはしたくありません。
もちろん、厳密に言えばレタッチ処理も合成の一種だし、デジタルカメラならカメラ現像自体も合成の一種でしょう(最近はカメラ自体で肌補正してくれる機種もあります)。
しかし現在、モデルさんの肌補正に対して「なんだよレタッチしたのかよ!」とキレる人は基本いないでしょう。
また、背景に不要な人物や障害物があり、それを消したからといって炎上することはないでしょう。
つまりその人が撮った作品において、「有るものを無しにする」ことには抵抗はないが、「無いものを有るにする」は抵抗がある、というのが私を含めて世間一般の感覚なのではないでしょうか。
まぁ消すだけなら抵抗ないと言っても、その作品をどう発表するかによるかもしれません。
ネモフィラ畑をレタッチで無人状態にして「ネモフィラ畑が素敵すぎた」みたいなノリでは、ネモフィラ警察が登場するのは致し方ありません。
ということで、私がたまにポートレート撮影を教えている知人がいるのですが、先日その(インチキ)講習があり、ちょうどPC環境があったのでAdobeの生成AIを試させてもらいました。
ちなみになぜ他の方の環境なのかというと、私、実はいまだにAdobeのレタッチソフト(LightroomとかPhotoshopとか)を使ったことがないからです笑
試した写真は2024年4月、横浜にある"みなとみらいギャラリー"で開催されたポートレート写真展「The World in YOKOHAMA 2024」の一作。
拡張AIで拡張したものがこちら。
想定以上にすごい、と思いました。
もちろん違和感はあります。不十分のところもあります。
しかし、シンプルにこの部分拡張して!と指定して生成ボタンをクリックしただけです。
時間もマシンスペックによるのかもしれませんが、数分ぐらい?
特にすごいのが腕先と衣装。
元画像は肘までしかないのに、色味や方向、長さや手先の形状がほぼ正解。
衣装も光沢感や体のラインが「こうだよね?」感。
腰の位置の正確性や、衣装を着ていながらそのクビレを表現できているなんて。
当初はインプゾンビが多用するキモいAI猫みたいな感じになるのかな?と思っていたので、できあがった瞬間「おぉぉ~」と驚きでした。
水面の波紋は手動でもコピペ等でなんとかできるかもしれませんが、身体などは将来的にも手動で造成できる気がしません。
このレベルにまで達しているのなら、ある程度法則性を研究して部分的に丹念に拡張していけば、おそらく創作かどうかわからないレベルにすることは可能でしょう。
拡張AIを使うとこうなるだろう、というのを把握しておけば、それを前提とした撮影を実施してその後不自然なく拡張する、なんてこともできそうです。
■禁断のツールかもしれない
ということで、初めて拡張生成AI機能を使ってみたわけですが、ここまでクオリティが高いのは予想外でした。
もちろん、なんでもかんでも上手くいくとは思えませんが、AIの進化は速くて、今後もっとクオリティが高くなっていくでしょう。
このツールを知ってしまい、感じたことがあります。
それは今後「このツールは使ってしまうかもしれない」と。
実は今回の作品、最初の構想では少なくとも上半身までの構図にしたかったのです。
しかし、この作品は撮影自体が結構大変で、被写体が大きくなれば大きくなるほど撮影も困難となっていきます。
撮影時間が短い撮影会の中で、マンツーマンという状況。
セッティング20分、調整5分、撮影時間は実質10分。
撮影機材や部材の運搬手段は公共交通機関。
ここまでが限界でした。
なので、もしこのツールを事前に知っていたら、元画像から拡張したものを作品として出展していたかもしれません。
被写体には賄賂を渡して口止め。
ただ最終的には自分の気持ち。
やっぱり「自分が撮ったものではない」というのが撮影者の心理として納得はできない。
在廊してて「これ全身撮るの大変じゃなかったですか?」と聞かれて、「いやぁ(レタッチを)頑張りました~」などと口にするのは、やはりストレス。
だから参考のイメージ作りとしては利用したかもしれませんが、知ってても出展作には使わなかったと思います。
でもしかし、すごく葛藤したと思います。
それにしてもAIはやはり今後のデジタル界隈において、もっともっと様々な影響を与えるでしょう。
プロとして活躍している方がトレパクとかしてしまうように、プロアマ問わず自分の作品です!としておきながら、これらの機能に手を出してしまうかもしれません。
もちろんAI側の規約上は問題ない場合でも、アーティストとしてはどうなのか。
また、肌補正やモノの消去は特に問題はないとなっている状況ですが、合成ではないが補正のレベルを超えている「拡張」という行為は、フォトコンや審査制サイトなど受ける側としても今後どう扱っていくのでしょうか。
逆に成果物が重要な商業カメラマンやデザイナーの方などは積極的に使っていくのかなと。
今回のことでいよいよAdobeのツールを使う、ことにはまだなりませんでしたが、こういう機能があるというのを知ったのは有意義でした。
将来的にはゴリゴリに使うことはないにせよ、ちょっとした周辺補正には活用するかもしれませんね。
以上
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